第一話 にゃんですかーーー!!!
見切り発車が、通過いたします。ご注意ください。
「にゃんですかーーー!!!」
のっけから、申し訳ございません。
わたくし、野沢 姫子と申します。
昨日までは、普通だったのです。
でも、おかしいのです。私の頭に三角なものが二つ。
おしりから長――いモコモコしたものが一本。
夢かと思いまして、引っ張ってみましたがくっついています。
そして、引っ張ると微妙に痛いです。
「ぬっ」
顔をしかめてみると、頭の三角がピクピク動きます。
長いモコモコもペタンペタンと動きました。
ああ、もういいです。
遠回しな言い方に飽きてしまいました。
私の頭に“耳”がお尻に“尻尾”。
どうやら『猫娘』になったようです。
コスプレ的なものではなく若干本物的な方向で。
これは、中学時代に居た漫研の子が描いていた絵とそっくりです。
“萌え―”っていうやつですか。
萌えません。
萌えるわけがありません。実際に、こんな事になってみると“萌え”た人は“燃え”てしまえ。なんて思います。
でも、まだ希望があるのです。
容疑者がわかっているという事。
こんな事をするような馬鹿が、私の周りに二人もいるんですよ。
才能の無駄使いとはこういう事を言うのでしょう。
悲しいことです。
さて、その容疑者二名。
絶対にニヤニヤしながら、私がこの部屋を飛び出すのを待っているはずなんです。
透視能力もありませんが、奴らのパターンは読めます。
ほら、もうすぐ。
しびれを切らして
3、
2、
1、
バターーン!!
「姫子、お寝坊やでーー」
「姫子、おはようございます」
「二人とも死んでください」
私の部屋のドアを壊すばかりの勢いで入って来た二人。
柊真と楓真
最初の、エセ関西弁っぽいのが、柊真。
次の、一見丁寧なあいさつをしたのが、楓真。
2歳年下の、双子の義弟です。
「ひでぇ! でも、姫子と一緒ならええで。死がふたりを別つまでって約束したもんな!」
「死ぬのは、柊真だけでいいですね。邪魔者がいなくなった世界も素敵ですから」
「正座!」
「「!!」」
ビシッと二人が目の前で正座をしました。
調きょ……いえ、教育のたまものです。
この双子とは、私が6歳。彼らが4歳の時に会いました。
金持ちで、イケメンの義父。そして、将来、女の人を泣かせるであろう美少年な義弟二人。
私は、心の中で『グッジョブ! ママ!』と称賛しました……でも、それは30分だけの事。
元々、母はバリバリのキャリアウーマンで、母子家庭ながら、生活には困りませんでした。
化粧をすると美人な典型的な母。
会社でも右に出るものがいないという口八丁で、目の前の義父を手に入れたんですね。
玉の輿万歳です。
そして、その娘の私は、まだ5歳という事もあって平凡を絵に描いた容姿です。それなのに、博多人形のような着物を着せられてのあちらの家族との対面でした。母は「可愛いすぎ!」と絶賛の嵐でしたが、私には、テレビで観た「こけし人形」にしか見えなくて、我ながら怖いと思ったのも思い出です。
さて、私は姉になるのです。2歳年下の彼らの手綱を採って、姉としての威厳を保たなければいけません。
同じ幼稚園の桃ちゃんも言っていました。「弟に、主導権をにぎらせるな」と。
彼女にも1つ年下の弟がいるようで、最初の頃は甘やかし、お菓子も大きい方をあげていたそうですが、それが当たり前になり弟が横柄な態度をとるようになったので、一度ママの影に隠れて指導したそうです。それ以来、弟はよき下僕になり姉のいう事をよく聞き、お菓子も自ら大きい方を差し出すとの事。 ただでさえ、愛情は下の方に集まるのですから長女も大変なのです(しかも、目の前の双子は美少年という特権付)
こけし人形な姉でも、これからの支配階級の上を目の前の二人から得なければいけません。
が、3歳児のとてもお高いお人形の様な綺麗なお二人。可愛いすぎます。 ここは、ニコニコと優しい姉を……
「楓真、この女、ブシューー」
「柊真、ほんちょーの事を言ってはいけないといつもゆわれているでしょ」
作戦変更。
私は、修羅な姉になる事にしました。
忙しい両親のいない日に、ビシバシと教育しました。
彼らは優秀で、そしてこの容姿。今までの人生(3年ですが)褒め言葉しかもらったことがなかったそうです。
叱られた事もない双子。しかも3歳児の手を捻るのは、5歳の私にとって文字通り、赤子の手をひねるよりも簡単な事でした。
母が再婚し、義父と双子の義弟が出来て、半年後、私は、2人を支配下に置くことに成功いたしました。
……でも、それを今、絶賛後悔中なんです。