ゆめとともだち。
家にいても、両親の喧嘩する声しか聞こえなくってつまらない私はいっつも独りで広い公園のブランコにのっていた。
ぶら、ぶら。風に揺らされる、翻弄させられるスカート。ゆらゆらと私は独りでゆれていた。
そんな中、独りでゆれるだけの毎日に変化というものが訪れた。
いつもの様に、ゆらゆらとブランゴにと一緒に揺れていると男の子の人影。
「おい、お前そこ俺の場所」
そう一言冷たく放たれた言葉。
「うん、わかった」
ひょい、とブランコから飛んでおりる。
地面にしっかりと足がついて、満足だなあなんて考えながら一歩進む。そうすれば、後ろからオイッと乱暴な声。何かなと思いふりむけば、ブランコを占拠した男の子が私に向かって何か話しているというより叫んでいた。
「オイ、お前いつもここのブランコでぼけっとしてるだろ」
「そうだよ」
知ってたんだ、毎日ここにきて、毎日独りでブランコにのって、暗くなる頃に泣きながら、帰るのを。
泣きながら帰るのまでを知っていたかはわからないけど、少しだけ嬉しかったりした。
わたしをみていたひとがいた。わたしをめにとめたひとがいた。うれしいな。
「俺はいまひまなんだ」
「そうなの?きぐうだね」
私もひまなの、と返す。だって暇だもの、いつも独りでブランコに揺られるだけで退屈していたところだったの。平和と退屈の差なんて、あまり大差ないんだけど、退屈なの。独りじゃできることも限られていて、砂でお城をつくっても次の日くれば踏み潰されたあとが残っていて、鉄棒で遊んで、失敗しても馬鹿にする人間も、成功してほめてくれるひともいなくって。
「それに、いつも独りだろ、お前」
「それもしってたんだね」
泣きながら帰ってることも男の子は知ってそう、そんなことを考えながらはなしていた。
「友達、いないんだろ」
馬鹿にされた気がした。絶対した、でもしょうがないじゃないか、友達なんてつくる気になれないし、きっかけなんかないし。ううん、違うのコレは言い訳なの知ってるの。
「だから」
私の心の内なんて知らないように、言葉を続ける。
「俺がお前の」
何さ、はやく、言ってよ、馬鹿にしたいのなら。
「友達になってやる」
照れたようにだされたその言葉は私には優しすぎて。
……ん、く…ださ…ん。
声が聞こえる、誰の声だろう、ゆら、ゆら、ゆら。
「倉田さんってば!!」
大きな声に思わず怯んでしまいビクッと肩を揺らした、重い瞼をこじあければ、目の前にいたのは……寝たときに眼鏡はずしたから何も見えない。声からして多分工藤さんなのだろうけど。
な に も み え ん。
眼鏡もどこにあるかわからないし、どうするべきかな。そう思った私は、工藤さん私の眼鏡どこと尋ねた。
そういえば、はい、と目にいつもの感じが戻ってくる、これです、これが私の眼鏡です、どうやら親切に工藤さんがかけてくれたようです。
「ありがとう」
「いえいえ、どーいたしまして!」
ほのぼのとした空気、この空気嫌いじゃないなあなんて考えれば、あ、そうだと工藤さんが再び口を開いた。
「字色って、よんでいい?」
まさかそうくるとは思わなかった私は、思わず口をあけてポカーンとしたアホ面になってしまう。
「あ、や、やっぱりいやだった?」
そう聞かれたので私は全力で首を横に振る。
そうじゃない、そうじゃなくて。
「ううん、そういってもらえたのが、嬉しくて。私も、明ってよんでいいかな?」
そう聞けば工藤さん、いや明はどうぞどうぞと満面の笑みでいってくれて、余計に嬉しくなってしまった。
「へへ、早速友達できちゃったや」
明が笑いながらそういうので、ああ、私たちは、友達になったのかと思った。
友達、あの子も友達とよべるのかな、あの子は私を他人と、よんだけど。
嬉しかった気持ちは沈んでいって、そう、わたしはあのこのたにんでしかないのです。
ゆめでみたあのこはまだわたしをともだちとよんでいてくれていた、いまはどうかなんて。
知らない。