おやすみ
ベッドにダイブした後に、あ、やべーよ小説忘れてきちゃったよと気づいた私は一度図書室にダッシュで戻ってみたが、そこに小説はなく、また百合乃命の姿もなかった。と考えるとやはりあれか、百合乃命が小説をもっていった、というのが妥当な考えだったりするのか、あれじゃないですかね、私自分でフラグ乱立させてません?自業自得だと笑われても仕方がないレベルですね。
そんなくだらないことを考えながら自室に戻ってきたわけだが、いやあ……作者だけは見ておきたかったんだけど。まあ手元に小説はないわけで考えても仕方がないわけなので考えること自体を放棄しようという結論にいたった。
……無心になるって難しい。
ということで何かを考えなきゃ私は無理らしいので何か考えよう。あ、そうだ新しいバイトいれようかな。今日みたいな何もない日にも。
うーん、でもそれだと勉強する時間がなくなるんだよな、テスト期間とかのことを考えるとつらいものがあるし。
たっく、誰が一日を24時間だなんて決めたんだけしからん。まあそんなのはいい、今更変えようとしたって無理にもほどがある、馬鹿馬鹿しい。
その瞬間、凄まじいドダダダダダダと物音が聞こえた。誰かが全力疾走でもしてるのかもしれない。先ほど図書室に戻った自分もこんな凄まじい音をならして走ってたのかと考えると、私の足音はさぞ煩かったろうに。
などと考えると凄まじい足音がやむのと同時に、バンッと思いっきり開かれる自室の部屋。ハアハアと息切れをしながら扉を開いたのは、工藤さんだった。
「倉田さん!お昼ごはん食べてきた!」
「そう思うよ、おいしかった?」
「うん!すっごいもうおいしすぎてもうぐへへへへって笑っちゃってたよ!」
うん、それすごく危ないよ?
「あーおなかすいた、いってきます!」
え?あれ?今お昼ごはん食べてきたんじゃなかったっけ?あれ?
「もう走っちゃったからかな、じゃ、次は購買にいってくるよ!」
「あ、うんいってらっしゃい」
そうしてまたドダダダダと走っていく工藤さんは小学生に見えた。
いやあ、忙しない人だな、入学式の日の私もそんなんだったので人に言えないのだけれど。
にしても、疲れた。
少しだけ休憩もかねて寝ようか、バイトのとき寝てしまったりしたら洒落にならん。
そう考えた私はベッドのほうにダイブする、あ、眼鏡はずしとこう。
「おやすみなさい」
返事がこないとわかっていながらそういった。
私独りしかいないシンとしたこの部屋に、私の声はやけに響いた。
寂しくなんか、ないのだ。
そんなことを考えながら、私の意識は闇に沈んで、溶けて、消えて、忘れた。
次話は字色の夢のお話になります。