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Do you remember?  作者: 白降冬夜
Cheshire cat ~maris~
8/31

Relief

『……っ、……ぐ……う……っ』


私と同じくらいの年齢の女の子が、月明かりに照らされてもがいていた。

彼女は私にそっくりなほど似ていて、私に生き別れた双子がいるのかと考えてしまう。口元にあったほくろが見えなければ、自分だと錯覚してしまっていただろう。

一体何をもがいているのだろうと彼女の首に目を向ければ、幼い小さな、触れたら柔らかいであろう手が彼女の首を絞めていた。手を見たぐらいでは、年齢なんて想像もつかないけど、大体5歳ぐらい……かな?


『みんな、きらい……。よってたかって変人扱いして……。お父さんお母さんも、お姉ちゃんも、きらいっ! みーんな、だいっきらいっ!!』


妙に聞き覚えのある声。誰の声なのか分かりそうで分からないそんな声。よく聞いたことがあるはずなのに、誰の声なのか、判断がつかない。

声の持ち主であろう少女の小さい手が女の子の首を絞める力を強めたのが分かった。

彼女が苦しさに顔をゆがめて、目尻に涙を浮かべている。


「……ぁ……、ぐ……っ」


女の子の声と自分の声がかぶる。やけに似ている気がして、少し驚いてしまう。

なんだか首に触れる感触がある。呼吸をしたくても、気管が閉じられているみたいでできない。首に触れる感触から、首を絞められていることは分かる。けれども、腹に感じる重みは全く分からなかった。

少しずつ視界が開けてくる。それでも、白く霞んでいるのは酸素が脳にまわっていないからだろう。

空の雲と同化して、分かりにくいけど白い耳が見える。だから、首にかかっている手が白うさぎのものだと分かった。


「ブランっ!?」


酸素がまわらない脳で、そんな声が私の耳に遠く聞こえた。

地面に組み伏せられていて、声を発した人物を見ることはできないけれど、聞き覚えのある男性の声なのは、分かった。


「猫? その名前で呼ぶなって言ったよね?」


さっきから、彼の声は依然として低い。私を見ていたはずの彼の目は第三者に向けられ、その人物にも敵意を向けていた。


「何やってんの!? アリスをはなしてっ!!」


「嫌だよ。あんたの言うことなんか聞くつもりなんてない! それに、こいつはアリスなんかじゃないっ!! だから……っ!」


私の首を絞める手にまた力がこもる。私へと視線が戻り、すごい形相で私の首を締め上げている。

私を元の世界に帰すどころか、殺すつもりで首を絞めているように思えて、背中が冷たくなる。


「……ぐ……ぅ……、っ……たすけ……っ」


「やめてっ! アリスをはなしてっ! 早くっ!!」


切羽詰った声で白うさぎを制す言葉をかけるけど、無意味だ。私の首にかかる手の力が緩むことはない。

第三者の言葉に表情をゆがめて、その人物を見上げて叫ぶ。


「だから……っ、アリスじゃないって言ってんでしょうが!!」


「……っ……ぅ……っ」


叫んだ拍子に彼の手に力が入り、首がさらに絞まる。

肩を上下させて荒く息をつきながら、私にまたがったまま、私からは見えない人物を見上げていた。はっきりとは分からないけどその者を見る視線は、敵意に溢れていたと思う。


どこに触れていなくても、自分の手足が冷たく感覚がないことに気づく。手を動かしても、手先で感じる土や石の感触は何一つない。それよりも、手を動かせているのかどうかすら危うい。


「ブランってば! アリスをはなしてっ!!」


彼はよっぽど第三者に“ブラン”と呼ばれるのが、嫌らしい。


私も同じだ。


「あんたの言うことなんか聞くつもりないって言ってんでしょうっ!?」


般若の形相で見上げて、膝元に置かれていたクロックを第三者に向ける。必然的に片手は私の首から離れ、銃を手に持っている。


そうなることで、両手で締められていた時よりも苦しくない。白く霞んでいた視界も少しずつ明瞭になって、白い耳と空に浮かぶ雲とも見分けがつくようになった。

それでも浅い呼吸しかつけなかった。


ちゃんとした呼吸がしたいけど、彼は放してくれそうにもない。だから、自分で逃れるほか方法はない。

一つだけ方法はある。けれど彼を押し飛ばすなんて、私にはできそうにもない。

というよりも押し飛ばしたくない。




でも……、っ死にたくない……っ!!




彼の意識は私に向いておらず、現れた第三者に向いている。

逃げるなら、今しかない。

今振り絞れる全ての力を、両手に集めて、彼に触れた部分から押した。

反抗するとは思っていなかったのか、一瞬だけ見えたブランの表情は、目を見開いていて驚きに満ちていた。彼は右手に銃を持ったまま後ろへと倒れこみそうになるのを、両手で支える。


私の首を絞めていた手がなくなり、気管が急に広がる。そこに大量の空気が入りこみ、たまらず咳き込む。

そんな私を見て、第三者であるチェシャ猫が起こしてくれる。


「大丈夫?」


咳き込みながらも、私はチェシャ猫に頷いて返した。






でも、朦朧とした意識の中で見たあれは……、何だったのだろう。


夢……? 記憶……?


自分ではどちらなのか見当もつかなかった。


今までのよりか、2倍ほど長い気がする。


1ヶ月ほど頭の中で暖めておいたのを、やっと文章化したってところですかね。



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