Alice's glance
やっと、主人公目線ですからね。
ここまでが、やっぱ遠いな…。
すんませんっ!! ←何回謝るんだよ? 私は…
……っ頭、変な感じ……。
何かボーっとしてるっていうか、鈍く痛いっていうか……。
さっきまで信じられないほど痛くて、私の手を握ってくれたおじさんの手をぎゅっと握り返してなんとか耐えたけど……。
「……って、ここどこっ!?」
おじさんの家の近くじゃないし……、全く知らないところにきちゃってるし……。
辺り見回せば、大小それぞれの大きさの扉がある。中には私が通れないほどの一番小さい扉だってある。
なぜかその扉の向こうだけは知っている気がした。
「懐中時計を首からぶらさげた白ウサギ……、ずっとにやけっぱなしの毛並みふわふわのネコ……」
その言葉が口をついて紡がれる。私が意図して紡いだものではない。
記憶の片隅にずっと追いやられていたものが、少しずつ鮮明になってくる。
私には、何がきっかけになったのか分からない。
全く知らない場所じゃない……ってこと?
あまり広いとは言えない部屋の真ん中にガラスのテーブルがある。その上には、『Eat me』とデコレーションペンで書かれている小さいケーキが一つと、『Drink me』と名札のついている液体の入った小瓶がおいてある。
あとは、どれかの扉の鍵。
飲んだり食べたりすれば、何が起こる気がしてなかなかそうしようという気は起きない。けれどそうしなければ、一番小さな扉の向こうへは行けない気がする。
「あいつの所為で、スノートさまのところに遅刻するじゃないか。ほんっとに、あのマリスの奴……」
ふと小さい扉の向こうから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
この声……
「ブラン……?」
意図せずに紡がれた言葉のおかげで、脳裏に身なりが浮かぶ。
ウサギの耳を生やした、めがねをかけた肌の白い男性で、首から懐中時計をぶら下げている。仲の良い人からは、ブランと呼ばれているが、ちゃんとした名前がある。それが白ウサギ。
彼が仕えているのは、スノートと言って、鼻がくすぐったいのかいつもくしゃみをしているふくよかな……いや、かなり太っている公爵夫人だ。
彼女にはもう一人の従者がいて、猫耳を生やした泣き黒子のある男性だ。彼は白ウサギにだけ、“マリス”と呼ばれているが、他の人は、チェシャ猫と呼ぶ。なぜ白ウサギがそう呼ぶのかは、私には知らない。
思い出せてきている。
なのに、なんで……、家族のことは思い出せないのだろう。
それが歯がゆい。
そんな場合じゃない。早くここから、抜け出さなきゃ。
こんな所にずっといたって、家族のことは何一つも思い出せないのだから。
もう一度、ガラスのテーブルに向き直る。
今なら何をどうすれば、向こうに出られるのかがよく分かる。
小さいケーキと鍵を手にとって、小瓶の中の液体を一口だけ飲む。
そうすれば思い出したとおり、テーブルが大きくなっていくように私の目には見える。しかし、実際は自身の身体が縮んでいるだけ。天井も高くなっていくように感じ、そして身に纏っていた緋色のワンピースもサイズが大きくなっていく。
縮むのが止まった頃には、ワンピースに埋もれて真っ暗で何も見えなくなっていた。ワンピースのリボンを身体に巻きつけてその山から抜け出し、小さい扉の鍵穴に鍵を差し込む。そうすればすんなりと扉が開き、外の光が差し込んできた。すっかり山へと変貌してしまったワンピースを扉に押し込み……
その際に自分も一緒に外へと足を踏み出した。
忠告!。今までのサブタイトルは確か英語。一番最初は、「___'s glance」でしたよね?訳すと、「___の目線」ってことです。