“The waist is painful”
元々予定にはなかったものです。長い間座ってたら、こうなるよなぁ~と思って書きました。
本編から少しずれた番外編としてよろしくお願いします。
「……っさてと、ひっさしぶりにハッターから許可もらったんだし、一回家に帰って来よう」
椅子から立ち上がり、両腕を空へと向けて背伸びしながらミヅキが言った。
さっきまで座ってたから分からなかったけど、背は3人の中で一番高いみたいだ。ぴんと立っている長い灰色の耳も身長に含めるのなら……だけど。
「アリスもついてきてくれる?」
背伸びした手を降ろして、決して晴れているとは言い難い曇り空を見上げてミヅキは問うてきた。
ミヅキやソリス、帽子屋にとってはただ天気が悪いだけだろう。けれども私にとっては、家族のことを思い出したいと焦燥感を感じている私を表しているようで、あまり空は見上げたくなかった。
「うん。ついていくだけでいいの?」
椅子に座ったまま、真横に立っているミヅキを見上げる。
く……首、痛い……。
「家、紹介してあげようと思って。アリスは僕の家知らないよね?」
彼は頷いて、また椅子に座り直した。
直後、
「――――っいたたたたっ!」
腰に右手を当てて、テーブルにうつ伏せになり、左手を叩きつけるミヅキ。
彼の何とも悲痛な叫びが森の広場に響いた。
「ぇええっ!?」
その様子にぎょっとしたチェシャ猫とソリス、帽子屋。……あと私。
帽子屋が帽子を投げ捨ててミヅキに駆けより、何事かと問う。私もその場で彼の顔を伺う。
「ミヅキ!? どうした!?」
なぜかソリスとチェシャ猫はお互いに慌てふためいていた。
「うわぁあっ! どうしたらいいの? チェシャ猫!」
「そんなの僕に聞かれたって分かんないよ!」
なんて幼稚なことで言い争う二人の声が聞こえる。少し考えれば分かることなのに……。
やっぱり、猫とねずみ……。突然の大きな音や声には、弱いんだ。両方とも警戒心強いしね。
ミヅキは、テーブルの上のティーカップとソーサーがこすれてカチャカチャと音が鳴るほど左手を叩きつけていた。
私がなんとか彼の顔を伺おうとするけど、顔をテーブルの方に向けている。それに伺おうとすればするほど、テーブルに耳を近づけることになって、うるさい。
「ねぇっ! ミヅキってば、言ってくれなきゃ分かんないって!」
そう言って彼の身をゆすれば、どこかが痛いのかまた悲鳴を上げる。
「い゛っ、……っだぁあっ!!」
ソリスとチェシャ猫は肩を飛び上がらせて、小さい悲鳴を上げる。
互いの両手を握りあって遠目で彼を気にするとは、何とも珍しい二人だ。
二人ともしっぽを内側に巻いて怯えていた。
あまりにも痛そうに悲鳴を上げるから、身をゆすっていた手をひっこめてしまう。
触ると痛がるから、どうすればいいのか分からず、手が宙に浮いたままだ。それでも彼に声はかける。
テーブルを叩くのをやめて、私の方に向いた時の彼は、頬を涙でビシャビシャに濡らしていた。
「うぅ……、腰がぁ……っ」
そしてピンと立っていたはずの彼の耳がだらんと垂れていて、耳の先が紅茶に浸かっていた。灰色の毛が浸かった部分だけ紅茶色に染まっている。
「ハッターの所為だー……」
テーブルにうつ伏せのまま、私に顔を向けて涙をとめどなく流しながら、弱々しい声で呟く。
ミヅキの頬のあたりには、涙の水たまりが出来上がっていた。
「腰が痛いって。……ハッターの所為だ……って言ってるけど」
そう帽子屋に伝えれば、ぐうの音もでない。彼から手を離して、少しだけ身を引いた。
どうやら図星らしい。
どうして、腰が痛くなったのか帽子屋に聞いてみた。
「お茶会の間、ミヅキは座りっぱなしだったから……。俺が注意しようとは思ってたけど……」
私と目も合わさずに頬を流れる冷や汗をポケットに入っていたハンカチで拭って答えた。
それは……、痛くもなる……。
ぎっくり腰並みに痛いんじゃないかな? 経験したことなんて全くないけど……。
とりあえず……、ミヅキはこのままそっとしておいた方がいいかな?変に触ったら、また痛いって悲鳴上げそうだし。
それにまた悲鳴なんて聞かせたら、あの二匹は気が立ってるし厄介なことになりそうだ。今の二人にすら関わりたくない。
あと紅茶に浸かってる耳先をティーカップから引き上げる。水分をかなり吸っていたみたいで耳先から、ポタポタと滴を垂れていた。
このままどこかに置くとテーブルを汚してしまうから、近くのナプキンで耳先の水分を拭ってからテーブルの上に寝かせた。
紅茶色に染まったのは、取れなかったけど……。
耳に力が入っていないところから見ると、よっぽど腰が痛かったのだと伺える。
「……っ……?」
顔は私に向けたままだったから、少しだけ顔を歪めたのが分かった。
「あ、ごめん。痛かった?」
そう聞けば、彼は小さく首を振る。
「耳が冷たいな……と思って……」
何とも弱々しい声でミヅキは告げた。
さっきの一部始終を伝えて、耳が冷たい理由を教えた。なんとか彼は納得したみたいだった。
彼が涙の水たまりを何とも気持ち悪そうにしていたから、耳先を拭ったものとは別のナプキンで水たまりを拭いた。
「なんかごめん、アリス」
私に申し訳ないような表情を向けて、謝ってきたけど私は首を振る。
「いいよ、暇だし。それに……仮にもミヅキは今、けが人でしょう? 気にしなくてもいいよ。何かいるものあったら言ってよ。私、取るよ?」
「ありがとう」
弱々しかったけど、今できる精一杯の笑顔で彼がお礼を言った。
さて……と、二人はいつになったら元に戻るのだろうか?
辺りをくるりと見渡せば、二人して木からひょっこり顔を出しているのが見えた。そんな二人を帽子屋が宥めているようだが、名を呼ぶだけで肩を飛び上がらせていた。
かなりの重傷みたい……。
猫とねずみっていう犬猿の仲の二人のはずが、仲良さげに同じ木からひょっこり顔だけをだして帽子屋をじっと見つめていた。
結構早い更新になりました。次もこの調子で書けたらな……と思ってます。
感想でご指摘がありましたので、とりあえず直してみました。
「僕」キャラが多すぎたとかなり後悔中。
まだこれでも3人いる。口調に特徴つけようかな……。