"After all I am Alice"
普通のペースで書いているはずなのに、意外と早い更新…
楽しんでくださいね。
「っ大丈夫だった? どこも痛くないっ?」
「ぇ……?」
白うさぎが見えなくなってすぐに、チェシャ猫が血相変えて、私を心配してくれる。そのあまりの変わりように、身を引いてしまいそうになる。
身体のあちこちに触れてきて、よっぽど心配しているのだと分かる。
「首に痣はない?」
そんなの私に見えるわけないでしょ?
なんて言おうとしたら、彼の手が首に伸びてきて、くいっと顎を持ち上げられる。視界から彼が消えたから、私の首筋を覗き込んでいるのだろう。
それだけなら、よかったんだけど……。
「ひゃ……っ!」
首筋を彼の指が撫でていって、そのくすぐったさに声を上げてしまう。
彼は前からスキンシップが激しかったけど、ここまでされたことは一度もなかった。しばらく顔も見せなかったから、寂しかったのかな?
「ちょ……っ、くすぐったいってば」
「あぁ、ごめんごめん」
手を滑らせるのを、暗にやめて欲しいと言えば、すぐにやめてくれる。
それでも心配そうな表情で、私を診てくれている。
「大丈夫だってば、心配しすぎだよ?」
「心配しすぎて損はないよ」
腕や脚に手を滑らせながら、私の顔を伺ってくる。痛いところはないか、探しているのだろう。
ほんと、心配しすぎだと思う。
彼の指が左足の親指に到達する。絆創膏の貼ってある親指をじっと見て聞いてきた。
「親指、どうしたの? これ」
先ほどここで転んでしまい、白うさぎに処置してもらったことを伝える。
「ふーん」
親指をじっと見たままだから、どんな表情をしているかまで分からない。ただ雰囲気がさっきまでとは違っていた。
それっきり何も言わなくなった彼が気になってきて声をかけてみる。答えてくれなくて、彼はずっと黙ったまま。
聞こえなかったのかな?
「いたっ! チェシャ猫、痛いってばっ!!」
親指をじっと見たまま、彼は親指を強く押しているようだった。絆創膏の白い綿の部分が赤く染まっていく。傷口から、血が滲んでいるのがよく分かる。
足をひっこめようとしても、強く抑えられていてできない。
「……ものだ……」
「え……?」
彼が不意に呟いた言葉に痛みを堪えながら、首を傾げる。何を言ったのか、はっきり分からなくて聞き返してしまう。
「チェシャ……っ、猫……?」
どんな表情をしているのか単に気になって、覗き込もうとすれば、やっと彼が顔を上げてくれる。同時に親指への拘束も解けた。
雰囲気もいつも醸し出している取っ付きのないものに戻る。
「大丈夫だよ。気にしないで、アリス」
白うさぎがいなくなってから、初めて名前を呼んでくれる。
私がアリスであることを再認識できた。
やっぱり、私はアリスなのだ……と。
どこか重かった気持ちが少しだけ軽くなった気がした。その安心からか、頬が少しだけ緩む。
「やっと、いつものアリスに戻った」
彼が柔らかい笑みを浮かべて、ポンポンと軽く頭を撫でてくれる。
よく分からなくて、首を傾げれば教えてくれた。
「僕のアリスは、いつも笑っている印象しかないからね」
それで納得。確かに彼の前では、怒った顔を、泣いた顔も見せたこともほんの数回しかない。
彼の前では、笑顔だったことが多かったから。
逆に白うさぎの前では、よく泣いたし、怒ったこともある。その度に慰めてもらったり、宥めてもらったり。
その彼があんな態度をとることは、そういう意味では当たり前かもしれない。
私の相手をするのが面倒になった、もう私に振り回されたくない。
としか考えられないのだから。
「ほらほら、そんな悲しい顔しないで。笑ってよ、アリス」
どうやら白うさぎのことを考えているときに、表情が暗かったらしい。
それを見たチェシャ猫が励ましてくれた。
次はいつかな…?
早ければ今週中に更新できるかも。