_____’s glance
しょっぱなから、警告タグ。すみません。
サブタイトルが「___」こんな風になってるのは、しょっぱなからばれちゃ困る人物だからです。この人物が誰なのかと解きながら読んでくれたら、一番うれしいです。 では、本文へ、どうぞ
僕は彼女が大きな罪を犯すのを、一部始終見ていたんだ。
頬に涙を煌かせながら、身内に手をかける少女……を、僕は隣で見ていた。
少女は家族を殺すという、残酷なことをしているはずなのに、窓から入り込む月明かりに照らされて、神聖な行為をしていると錯覚してしまいそうだった。
部屋は暗く、月明かりが入ってこなければ少女がどこにいたのか分からなかっただろう。
「なんで信じてくれないの? ほんとのことなのに……っ、」
「……っ、……ぐ……う……っ」
少女はベッドの上で7歳上の姉の上に馬乗りになり、力いっぱい首を絞めている。姉は少女の手から、逃れたくて足をバタつかせているけれど、少女はものともせずに姉の首を締め上げていく。
「みんな、きらい……。よってたかって変人扱いして……。お父さんもお母さんも、お姉ちゃんも、きらいっ! みーんな、だいっきらいっ!!」
「……ぁ……、ぐ……っ」
そのうち抵抗が力ないものに変わり、姉は目尻から光るものを流して息絶える。少女が気づいたのは遅く、息絶えてからもしばらく首を締め上げていた。
今の少女には近寄りがたく、遠くからでしか眺めることしかできなかった僕に、彼女は笑顔をはりつけたままくるりと振り向く。その笑顔は僕から見れば、恐怖するしかなく、ただ部屋の前で立ち尽くしていた。そのまま近づいてくる彼女から逃げ出したくなるが、身体を恐怖に支配されて動けない。目の前まで来て、僕は彼女に抱き上げられる。
そう。僕は……、人間ではない。少女は僕の飼い主だ。
「ずっと見てたよね。お姉ちゃん、死んじゃったよ」
僕を抱き上げたまま、彼女は、階下へと伸びる階段を降りていく。僕は彼女の腕の中から、逃げたい思いでいっぱいだった。しかし、恐怖に支配された身体の所為で、全く自分で身体を動かせず、彼女に抱きかかえられたままだ。
「お父さんとお母さん、どうしよっかな~?」
口調こそいつもと同じ調子だが、あんなことがあったばかりでは、それにさえ、怖いと思ってしまう。何を迷う必要があるのだろう。いまさら、断念もできないことをしたというのに。
「一人一人は、めんどくさいから……、もう家ごと燃やしちゃおっか? ね?」
僕に同意を求められても、そんな恐ろしいことを笑顔で、平気で言う彼女を僕は見上げることしかできない。口答えしようにも通じるはずもなく、無視されることは分かっている。だから、黙って彼女のすることの一部始終を見ているしかできない。
外に出た彼女は、玄関から裏庭へと家の周りをぐるりと半周する。外は肌寒くて、身震いしてしまう。彼女の方は用意周到で、パジャマの上にカーディガンを羽織っていた。
つまりこうすることは、今思いついたのではなく、前もって準備していたのだと分かる。
裏庭に一本だけぽつんと伸びている木の下に僕は降ろされる。家からは、10メートルほど離れた場所だ。
彼女は木の下の草むらから、何か液体の入っている、布で蓋をされたビンを手にとっていた。もう片方の手には、マッチだ。
鼻歌交じりで、マッチに火をつける。小さい子供が自分でマッチに火をつけるのは嫌がるはずなのに、少女は自らの手で火をつけている。あまりにも大人びて見えて、やはりいつもの少女とは違うと再確認できた。
「―――。ほら、ちゃんと見ててよ? 今から家の中に火を投げ込むから」
名前を呼ばれた気がするが、彼女の嘲笑じみた表情に恐怖しか覚えず、身動きも声もだすことが出来ない。投げるフォームが見えたかと思いきや、元から窓を開けていた自身の部屋へと布に火をつけたビンを投げ込んだ。
狂いのない放物線を描き、壁に当たることなく、窓を通り抜けていく。耳障りなガシャーンというビンを割れた音とともに、部屋が淡い橙色の光に照らされる。うまく引火できたのだと一目で分かる。
「これで、お父さんもお母さんも死んじゃうよね?」
燃え広がっていく炎に背を向けて僕を見てくる。
小さな身体にこれほどの残虐さが隠れていたとは、信じられなくて物怖じしてしまう。
いつもの心優しい彼女に戻って欲しい。その思いが僕の身体を動かす。そして、いつの間にか彼女に飛びかかっていた。
「な……っ!?」
しかし彼女の頬を引っかいたにすぎず、すぐに捕まる。脇の間に両手を差し込まれ、高く抱えられる。抵抗しても前足も後ろ足もただ空をかくだけで、彼女はものともしていない。
僕を表情のない人形のような目で凝視してくる。
「……信じてくれないの? 私の想像の世界とか、夢だって言いたいの?」
僕には、よく分かる。それは……夢なんかじゃない。
僕も彼女と同じように、一緒にいたのだから。
けれどそのことを彼女に伝えたくても、伝わるはずなんかない。僕の声は彼女にとって、ただ鳴き声を上げている程度にしか聞こえないのだから。
『少なくとも、僕は君と一緒にいたよ。どこにいたって君のそばを離れたことなんてない』
「もういい。信じてくれないんでしょ?」
『信じて! 僕はずっと……っ!?』
視界が大きくぐにゃりと曲がる。少女の顔さえ、ぐにゃりと曲がってしまっていて原型をとどめていない。
僕には、何が起きたのか全く分からない。耳元で風が切れる音が聞こえてくる。手足も含め、どこかに触れているような感触もない。
最初は、彼女に振り回されているのだと思った。もしそうだったら、脇の下に手の感触があるはずなのに、それがない。それに耳元で風が切れる音がこんなに大きいはずがない。少女にだけ目を向けていれば、彼女が段々と小さくなって見えるのがよく分かる。
そこでようやく、僕は彼女に投げ飛ばされたのだと分かった。僕を投げ飛ばせるとは、少女の力ではない。一体どこからそんな力が出るのだろうか。
用意周到で、火にも怯えなくて、僕を投げ飛ばすほどの力。何かがとり憑いているとしか考えられなかった。
『っ!?』
背中にようやく何かの感触がして、痛む背中を庇いながら身を起こせば、少女の部屋だった。
つまり……、絨毯やカーテン、燃えやすい物全てに引火していて、天井は、橙色の光を反射している。
熱い。幸い火には入らずに済んだが、あまりの暑さに汗が噴き出してくる。
僕は火に囲まれていて、ここから抜け出すのは一苦労しそうだ。
それでも一刻も早くここから抜け出したくて、廊下と部屋を隔てている扉に体当たりする。そうすればいとも簡単に開き、異臭が鼻を突いた。
なんの匂い……?
それを理解するよりも早く、僕が開けた扉から大きな爆発が起きる。その爆発の真下にいた僕は、壁へと跳ね飛ばされ、背中を強く打ち付ける。それだけではなく、毛という毛から火があがり、その熱さにじたばたする。そんな風に暴れても火が消えるはずもなく、むしろ燃え広がっていく。
その爆発で建物自体に引火したらしく、ゴウゴウという音が耳に入る。
そこでようやく、さっきの異臭がガスの匂いだと気づいた。
恐らく彼女は、僕を家に投げ込むことも考えに入れていたのだろう。僕に廊下への扉を開けさせて、建物を爆発させる。本当に少女は用意周到だと思う。
冷静になれというのも無理な話で、燃える熱さに暴れるだけだ。
そのうち、肉が焦げるような匂いが鼻につく。それが自分の皮膚が焼ける匂いなのか、寝静まっている少女の家族が焼ける匂いなのかは分からない。
ただ分かるのは、
僕はもうすぐ死んでしまうということ。
だから、意識が完全に遠のく前に、身体を手放したんだ。
読んでくださってありがとうございます。 まだまだ序の口です。
かなりの長丁場になりそうな気がして、気が気でない。
このお話はルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」をモチーフにしてます。
世界観ぶち壊して書いてますので、また違ったアリスとしてこれから楽しんでくれたらいいなと思ってます。
遅筆なもので次がいつになるのさっぱり…。すんませんっ!