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私の人生の大半は不幸ではないのだろうか?
そして、その不幸の原因、いや根源は一人の人間に起因する。
この頃アイツは本当に人間なのだろうか?
人間の皮を被った悪魔じゃないのだろうかと、私は思わずにはいられない。
私の不幸は3歳の時から始まった。
3歳の時にお隣に若い夫婦が引っ越してきた。
仲の良い夫婦で同じ年の一人の子供がいた。
色素の薄い茶色いふわふわした髪に大きい目。
自分には似合わないピンクのレースの服を着たとても可愛らしい子供だった。
ドキドキしながら紹介されるのを待ったのを覚えている。
「初めまして、榊原と申します。
カエデちゃんっていうの? 3歳? 薫と同じ年ね。仲良くしてやってね。」
子供の母親がニコニコと、紹介してくれた。
近所に同じ年の子供がいなかった私は初めてできる同じ年の子をワクワクしながらみつめていた。
「はじめまして、さとうカエデ です。おともだちになってね。」
そういって私はカオルに手を伸ばした。
小さな可愛らしい子供は大きな目をさらに大きくしてその手を握り返してくれた。ある言葉とともに。
その出てきた言葉とは、
「けっこんしてください。カエデちゃん。」
という全く場違いな科白であった。
結婚という言葉の意味をまだ良く知らなかった私はそこで一生悔やむ答えをしてしまう。
「うん、いいよ。
あっちでおままごとしようか?」
深く考えずに頷いた3才の私。
しかたがないとしても、せめて返事をしないでおくべきだった。
だけど、うんと私が頷いた瞬間、カオルはとても嬉しそうに笑ったのだ。
子供特有のまさに蕩けるような笑みで。
その笑みをいまだに忘れられない私も私かもしれない。
「あらあら、まあ。カオルったら。
この子、少し変わった所があるけどよろしくね。カエデちゃん。」
少し? でしょうか。おばさま。
私にとってカオルは今にでも未知の生物です。
そんなことを最初からわかるはずがもなく、小さいころ私とカオルはとても仲が良かった。
何故か出会ったその日からカオルは私に懐き、それから何をするのもどこに行くのも一緒だった。
なまじ、私があまり少女らしくなく、また対照的にカオルが少女特有の可愛らしさの余りある子供だったため、近所では評判の子供たちだった。
本当にカオルは可愛らしく、恋というものを知らない小さな私でさえその仕草にドキっとさせられることが何回かあった。
そして、それは私だけが感じていたことではなく、大人はそれ以上に感じていた。
それを思い知ることが出来る事件がいくつか起こった。
ある時、私が幼稚園から帰ってくると、いつもと違うことに気づいた。
カオルがいくら待っても来ないのだ。
同じ年だが、カオルは幼稚園に通ってなく、私が帰って来るまで一人で遊んでいるか、家で本を読んでいる子供だった。
4歳ですでに字が読めたカオルはそのまま自分の母親から教育を受けていた。
だが、カオルは私が帰るといつもその勉強を放り出し、「遊ぼう!カエデ。」と顔をほころばせて駆けてくるのだ。
その顔を見るのが好きで私からカオルの家に行くことはなかった。
そして、その時はそれが仇となった。
いつもなら10分もしないうちにあの大好きな笑顔が見られるのに、今日は1時間も経ってもカオルは現われなかった。
渋々、カオルの家に行くと1時間も前にカオルは出かけたという。
「来てない。」
カオルの親にカオルが来ていないことを告げると大慌てで周りの探索が始まった。
そして、その日の夕方ごろにカオルは見つかった。
警察に保護されて。
子供のころは何のことかわからなかったが、どうやら、見知らぬ男に誘拐監禁されていたということだった。
この事件はかなり大事になり新聞にも載った。
もちろん只の誘拐監禁事件ではなかったのだ。
何故だかわからないが、その事件の容疑者である男は死に、それに気づいたカオルがその監禁場所から抜け出し警察に行き、この事件の真相が初めて明らかとなったのだ。
私は警察から帰ってきたカオルの笑顔と言葉を一生忘れることはできないだろう。
カオルは警察から家の前へと送られると両親ではなく、私の方へとあの笑顔で駆け寄って抱きついてきたのだ。
多分この科白を聞いたのは私だけだろう。
「カエデのためにね。今日良いことしたんだ。」
「えっ? 何?」
「ふふふ。ひみつ。」
『すいません、少しいいですか。』
手を上げて、ユウキは佐藤女医の言葉を止めた。
『その通りよ。』
いやにきっぱりと佐藤女医が断定した。
『・・・私、まだ何もいってませんけど。』
『聞かなくてもわかるわよ。貴方が何を聞きたいのかぐらいね。
それで、答えは貴方が思った通りよ。』
『やっぱり、その犯人はアイツなんですね。』
佐藤女医は重々しく頷いた。
あの時は言葉の意味がわからなかったが、今なら良くわかる。
犯人はアイツで。
動機はこの町内に変質者を減らすこと。およびそういった不審者に対する警戒をあげること。
この事件があったおかげでこの町内の警戒は厳しくなり、私は大きくなるまで変質者や痴漢の類にあったことはなかった。
はっきりいってユウキはこれ以上話を聞くのは恐かった。
だから、今度は自分の好奇心に身を任せず身体の赴くままに行動を起こした。
『すいません、胃が痛いので病室に帰らせてください。』
そういって車椅子を動かそうとしたら、ガシッと車椅子の車輪を力強く掴まれてしまった。
逃げられない・・・。
『駄目よ~。胃が痛いなら薬をあげるし、何なら注射打ってあげるからね。
何せ私は内科の医者だから。
遠慮することはないわ。』
そういってイヤに迫力のある笑顔で迫られる。
・・・注射は嫌いだ。
それが顔に出たのだろうか。
『注射が嫌なら最後まで話を聞いてね。』
『・・・・ハイ。』
ここまでお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があれば教えていただけると嬉しいです。




