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夜中の2時少し前。

ユウキは予定通り何の眠気も感じずにバリバリに元気であった。



「さてと、そろそろいいかな。」

誰に話すことなく一人呟く。

安心なことにこの病室は一人部屋で誰もユウキの独り言を聞く者はいなかった。



ベッドに倒れこみ、お腹を抱え込む。

「う~ん、お腹が痛い~~。」

そういって、綺麗に伸ばされてあったシーツや布団などをその態勢のまま無造作に掴んだり、引っ張たりする。

仰向けになったり、横になったりと、その身体を動かし、程よくベッドが乱れたころに枕もとにあるナースコールに手を伸ばし、躊躇することなくそのボタンを押した。



ほどなく、当番の看護婦が現れた。











夜勤担当の女医が専用の病室で待機していた時にそれはやってきた。


「佐藤先生、お願いします。入院患者が腹痛を訴えています。」

「わかりました。その患者は何の病気で入院しているんですか?」

他の病気の併発を考え、そう尋ねた。

「いえ、その患者は左足骨折です。持病やその他の病気はありません。

10代後半の女性です。」


「わかりました。カルテの用意をお願いします。」







車椅子で連れてこられた患者はお腹を抑え苦しそうに息をゼイゼイと吐いていた。

「・・・・・・・え~っと名前はユウキちゃんね。お腹が痛いって聞いたけど、どのあたりかしら?おへその下、上?」


「下です。」

そういって下から女医を見上げる。


目があうとにっこりと微笑まれた。

安心できる優しい笑みだった。


女医はまっすぐな黒髪を後ろで無造作に束ね、目をみて尋ねてくる。

まず、最初の印象は良い人そうだなというのであった。胸にかかっているプレートを見ると『佐藤カエデ』と書かれてあった。


美人というわけでもなく、可愛いというタイプでもない。

あのドクターの相手だからと思って想像していたのとは全然違うタイプだった。

どちらかというと中性的で、意思の強い優しい目をしている。


どこにでもいそうでいない、優しい人。

ユウキの腹痛という仮病に一生懸命考えてくれている。医者というのはこうでないと、あの榊原ドクターを比べて女医の株を上げる。



「・・・・・これは大変ね。盲腸だわ。今から手術しないと!!」

「っえ!! ウソ!?」

別のことを考えていたため、手術という言葉に敏感に反応してしまった。


「うん、ウソよ。」

にっこり笑いながら佐藤女医はユウキの目をみて答えた。








「・・・・・・。」

たらたらと嫌な汗が流れる。

仮病がばれてしまった。


「どうしてこんな事したのかな?怒らないから言ってみなさい。」

そういって佐藤女医がユウキに説明を求めた。





下を向いてユウキは正直に理由を答えた。

「ごめんなさい・・・。だますつもりはなかったんですけど、榊原ドクターと付き合っているっていう人がどんな先生か見たかったもので・・・。」

正直に話すが佐藤女医は聞いていなかった。

『榊原』という名前が出た瞬間から。





何の反応もないことにユウキは顔を上げる。

すると、佐藤女医は傍から見てもわかるぐらい顔をしかめていた。

よく見れば整っている顔、その眉間に出来た皺を手で抑え、肘を机に乗せていた。

それは最大限に現れた嫌悪感をどうにかして抑えようとしているようにしか見えなかった。



「・・・・誰がそんなこと言っていたの?」

怒らないと言ったのに、その声はさっきより何オクターブも低く、怒りたいのを必至で我慢しているようであった。






「本人からです!!」

坂上さんという看護婦の言葉を飲み込み、元はといえば榊原ドクターが悪い!!とユウキ自身が聞き出したのを棚にあげ、本人に怒りの矛を向けさせた。


「そう。カオルからなの。あの馬鹿がっっ!!!」



ーーーガン!!



その馬鹿という声と同時に佐藤女医が机に拳を思いっきり叩いた。

痛そうな音が聞こえるが本人はそんなことよりも怒りの方が強いのか、気にせずになおも怒りの呟きをやめない。



どう見ても佐藤女医は榊原ドクターを嫌っている。

患者に恋人の存在を知られて恥ずかしがっているという羞恥の様子には間違っても見えなかった。




彼女は怒っていた。

それもかなり本気で。

体中から怒りのオーラが見えそうだし、今もブツブツと文句を一人で言っている。





「あ、あの、佐藤先生?」

さすがにこのままではいけないと思い、そう呼びかけると、ユウキがいることを思い出し驚いた顔をする。



「えっ!? あ、ごめんね。ユウキちゃん。ちょっと嫌なことをたくさん思い出しちゃって。

榊原ドクターの言ったことは全部嘘だから信じちゃだめよ。

特に私が恋人なんて真っ赤な嘘だからね。」





「は、はい!」

最後の科白は今まで以上に凄みを利かせて迫られてしまったユウキは、YESとしか、答えようがなかった。











「・・・それじゃあ、幼馴染で昔から一緒っていうのも嘘なんですか?」

その言葉を発した瞬間、またまたその顔が劇的に変わった。

今度は怒りから悲しみへ。








ユウキの両肩をグッと掴まれた。

「・・・どこまで聞いたの?」

もう力も出ないという脱力しきった声だった。


「え~っと、とりあえず、先生落ち着いて?」

泣きそうにしている先生の背中をポンポンと軽くたたき落ち着かせる。



なんだこの人、すごく可愛い・・・。

思わず沸いてくるこの庇護欲。同じ女同士なのに胸キュンしたのをユウキはとりあえずどこかに置いた。



そして、昼に榊原ドクターから聞いた『愛の人生』というものを語った。













話し終わった瞬間に、大きなため息が聞こえた。

頭を抱えて悩んでいる佐藤女医から発せられたものだった。



「・・・嘘ですか?」

あの榊原ドクターがユウキをからかうためにあんな嘘をつくとは思えず、佐藤女医におそるおそる確認を取るが返事がなかなかない。



「半分は本当よ。だけどね、それはあくまでカオルの主観であって、私の意志はどこにもないのよ。

そう、いつもいつもそうよ。アイツは私の話なんか聞きやしない。」




達観した表情でそう話す佐藤女医を哀れに思う。

苦労したのだろう、あの榊原ドクターと人生のほとんどを一緒だったのだ。

苦労も並外れたものではないことが察せられる。



「ユウキちゃん、聞いてくれる?」



そういって今度は佐藤女医から本人曰く『不幸な人生』を語られる。














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