第三十七話 二年後3 諦めたタイムトラベラー
文化祭……。
すいません。
皆が楽しいはずの行事のせいで、こちらが疎かになってしまった事を謝らせていただきます。
まことに申し訳ありません。
「っ…………!!」
蹴りを首に入れられ、顔面から地面に叩き付けられながら地面を滑る。
「早く起きろよ」
「言われなくっても立ち上がるさ!」
瞬間的に足に力を入れて踏み込み、セイン(偽)の正面から突きを繰り出す。
「無駄だ……」
軽くいなされ、反撃に右からパンチを貰うが、左フックを当てる。
軽く怯んだが足払いで足を掬われ右肩から地面に落ち、不快な骨の折れる音がした。
「くそっ!」
異世界にきてから、魔法という便利なものに頼って来たせいで、気を常時使うのを忘れている。
だから、肉弾戦では遅れをとる。
なら、一時、切り替えれば良い。「昔の……、魔法が使えない時の感覚を思い出せ」
「何ぶつぶつ言ってんだ…」
セイン(偽)に指摘され、集中している紅鷹に殴り掛かるが、避ける。
「なっ……」
目をつぶったまま、避けた事に驚いたのか、一瞬スキができた。
「後ろがお留守ですよ」
後ろから足払いをして空中に浮いたセイン(偽)を大きく上に蹴り上げる。
そして、セイン(偽)よりも僅か上にまでジャンプして地面に叩き落とす。
セイン(偽)の体が地面と接したと同時に轟音がなる。
「…………」
紅鷹も地面に着き、様子を見る。
まだ、セイン(偽)がこのまま立ち上がって来ないはずが無い。
砂煙りが立ち込める中、見ていたら、僅かな赤い光が見えた。
「まさか」
紅鷹は即座にその赤い光に反応し、右目を閉じて、左目に魔力を篭める。
砂煙りの中から現れた赤い光が自身の体に届く前に、左目の赤い紋様が浮き上がり、打ち消す。
「……!?」
セイン(偽)は、驚愕した顔をした。
一瞬、紅鷹はどうしてそんな顔をするのか分からなかったが、すぐに理解する。
「そういえば、お前は見たこと無かったな」
「なんだそれは?」
「見た通りだ。魔法を消し去った」
「くっ!!」
紅鷹の能力を確かめるためか、魔法を連発する。
「無駄だって」
正面から来た魔法は全て目によって消えた。
ホッと一息ついたとき、セイン(偽)がニヤリと笑った気がした。
刹那、背後から衝撃があった。
紅鷹は何の抵抗もしていないので、衝撃を緩和せづに食らってしまう。
「やっぱな……その能力の有効範囲内は視界に写る所だけってことか?」
「…………」
「もしかして、そんなの気づいて無かった? 馬鹿だな」
語尾に盛大な笑いをつけて言われた紅鷹は打開策が浮かばなかった。
近接戦闘は押され気味で、魔法の戦いも平行線。
おまけに自分の知らぬ弱点まで言い当てられた。
「諦めるのか…?」
自問自答する。
確かに、一度は諦めた。
同じ時間の枠組みの中で、何度も、何度も、エリスの死を回避するために色んな行動を起こした。
だけど、どんなに仮定を変えたって、エリスの死は変わることは無かった。
「諦めるのか…?」
もう一度、自問自答する。
まだ、戦闘方法ならあるじゃないか。
戦う力を持ってるじゃないか。
「こんなとこで、俺は……、俺はああ! 立ち止まっていられねえええ」
立ち止まっちゃいけないんだ。
紅鷹は、叫びながらセイン(偽)に殴り掛かる。
それを軽くいなされるが、それを想定していて紅鷹はつこんだ。
格闘はあくまで囮だ。
すでに、紅鷹の目は左目は閉じられ右目に魔力を篭た状態。
紅鷹は、さっきのセイン(偽)の背後からの魔法をコピーした。
だから、全く同じ現象がセイン(偽)にも起きた。
当たり前だ。
紅鷹の能力がもう一つ有るなんて知らないんだから。
「何っ!!?」
「潰せ」
前屈みに倒れるセイン(偽)の真上から重力の固まりを球場の形態で落とす。
「グゥアアア!!」
獣のような呻き声が聞こえ、そのまま押し潰されてしまえば良かったのだが、そう、上手く行くわけも無く、バリンっとガラスが割れるような音と一緒に重力の固まりは砕けた。
「一体何処のイマジンブレイカーだ?」
結構真剣に思った。
右手を翳すだけで魔法を打ち消すなんて、自分も似たような能力を持ってはいるが限定条件がある。
だが、セイン(偽)にはそれが無い。
地面に出来たクレーターを見ていると、まるで、怒りに身を委ねたかねように目を真っ赤に充血させ、唸っている。
「…………」
紅鷹は、セイン(偽)がどう来るか見極める積もりだったが、いつの間にか視界に写るセイン(偽)は消え、ただ、後ろから感じる殺気を受ける事しかできなかった。
刹那、背後からとんでもない衝撃で一瞬、意識が飛んだ。
視界は強制的に白くなり、何も見えない。
聞こえない。
だが、痛感だけは残っており、背中の痛みと、右頬に今現在当たっている足が、ふりぬかれ、大きく後ろに吹っ飛ぶ。
紅鷹が滑った地面は、砂煙りがたちこめているが、見えないほどではない。
地面に倒れながら、顔を少し起こしてセイン(偽)を捜す。
だが、先程までいた場所には当然いなかった。
「グウ、アアアアアアアアアアアアアア!!」
セイン(偽)は、紅鷹の腹の上に立っていた。
叫び声を上げたのは、紛れも無く、セイン(偽)が紅鷹の腹部に攻撃を仕掛けたからである。
お腹に全くと言っていいほど力を入れていなかった紅鷹は、セイン(偽)の攻撃をもろに食らった。
腹筋に力が入っていなければ鍛えた腹筋は意味を成さず、弱点とも言える。
「つまんねえ。終わりか?」
セイン(偽)が不満そうに紅鷹に言う。
(終わるのか?)
紅鷹は、声も出せず、心の中でしか言う事が出来ない。
身体中に疲労が回り、魔法も何発も討ち、精神力を擦り減らした。
頑張っても勝てそうに無い。
(自分で、巫女に、終わらせない、とかカッコイイ事言っといて、自分が戦う事、勝つことを諦めて終わろうとしてる)
「けっ…………」
セイン(偽)は、折角現れた人物の期待はずれに幻滅する。
(折角、俺と互角に戦える奴がいる、と思ったらこれか…)
「……………」
紅鷹は、もう、気力さえも、無い。
身体を動かす事も、戦う意思も、あんなに必死になって助けるすべを捜し続けていたのに、純粋な力によって道を閉ざされる。
(終わる……)
「っ…………」
泣くしか無かった。
ただ、抗えぬ未来に悔しい涙を流す事しかできなかった。
「泣いてんのか? あほらし。弱いからそんな事になるんだ」
弱いから。
紅鷹の心に突き刺さる言葉。
物凄く重かった。
日本にいたから、異世界に来て、能力を手に入れ、チートとか、自分が最強にでもなって浮かれていて、それで、エリスは殺された。
あんなに、爺に、言われていたのに。
『油断はするな。敵を倒して終わったと思った瞬間が一番のすきなのだからな、覚えておきなさい』
そんな言葉忘れ、魔王を倒した時に、警戒心をゼロにして、敵の、セインの攻撃に気がつかなかった。
思えば、そうだった。
心の浅い所では、仲間に迷惑かけないよう、守れるように努力しよう、とか考えていながら、奥底で、魔法や、目の能力さえあれば大丈夫なんて思ってた。
全部、自分が弱かったからいけないんだ。
「死ねよ…」
(ああ、ごめん。ごめんなさい。俺の個人的な事に巻き込んで、ごめん巫女)
最後の瞬間に出て来たのは、こんな事に巻き込んだ巫女に対する謝罪だった。
それと、諦めだった。
(終わる………)
紅鷹には、セイン(偽)の魔法が近づいて来るのが見えた。
それは、多分左目を使えば消し去る事が出来るものかもしれない。
だが、同時に、数百も出現する魔法を消し去る事、退ける事は出来ないと思う自分がいた。
能力には穴が多数あった。
いや、もう、どうでもいい。
紅鷹は、思考を止めた。
目を開ける事を止めた。
抗う事を止めた。
(終わる……これで、本当に…)
紅鷹は、全てを諦めた。
「なっ………………………………!?」
だが、諦めた紅鷹は視界を聴覚を使う事を断念しているために、セイン(偽)が何に、唖然、愕然としているのかは分からない。
だが、セイン(偽)の言葉がこんな状況を打破してくれる存在がいることを証明してくれる。
「な、な、なんで、なんで、二人いるんだっ!?」
地面に横たわっている紅鷹の後ろから声がする。
「俺は、……とっくの昔に理なんて越えているんだぞ?」
余談、かき氷は、ある程度場所がわるくても完売する。
かき氷の強さを初めてしりました。
当然のように黒字になりましたので、被災地のほうに義援金として送るそうです。
こんな話、求められてませんよね。すいません。




