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第二十九話

 

 2009/06、28/11:41:25


 飛んだ先は、巫女が無事、俺の血肉を渡すことに成功したかを確認する為に飛んだ時間より少し後にした。


 その時間帯は、現代巫女とリリスの二人の会話を聞いている俺もいる。


 当然、俺は、そのとき自分なんかを見た覚えは無い。


 この時間にいる俺に気づかれずにし、この時間にいる俺と、現代巫女が去った後に、俺たちが行く。


 そのため、巫女にとって一回過去に飛ぶことが精一杯だった為、こんな風に過去の別の道を歩む自分と、親友のリリスを見ているのはどうも不思議な感覚がするのだろう。


(俺も感じてたよ、まるで世界に取り残されたような感覚を…)


 本当の繰り返しをしてこなかった巫女には、到底、エリスを救う為に繰り返した紅鷹の日々の苦しみを知ることは無いだろう。


 そんな気持ちで沈んでいた内に、俺はどうやら巫女をとっ捕まえにいったらしい。


 その後、現代巫女も心配はしながらも自身の仕事があるためか、リリスの前から消える。


 その間、何度も現代巫女はリリスを心配するせいか、後ろを振り返ってばかりだった。


「行くぞ」


 すかさず、巫女に声をかける。


 タイミングとしたらどう考えても今なのだから、さっさと用件を終わらして行こうじゃないか。


 まだ見ぬ世界へと。


「いきましょうか」


 二人は物陰から、腰を上げ、リリスに近づく。


 巫女は大して問題ない。


 さっき帰ったばかりだが、なにかいい忘れたことがあったとごまかせば良いからだ。


 しかし、紅鷹はこの時間ではまだ知り合いではなく赤の他人だ。


 万が一、召喚されたときの初めましてに影響が出たらどんなパラドックスが起きるか想像もつかない。


 だから、しっかりと時間の旅を続けていくうちに手に入れた、絹のフード付のコートでしっかりと顔を隠す。


 それに加え、万が一しゃべるような機会が出てきてしまったら困るので、魔法で声を紅鷹の声には聞こえないようにする。


 準備がすでに整っていた為、巫女はまるで現代巫女かのように振舞いながら声をかけた。


「リリス」


「? なにか忘れ物でも?」


「そうね、忘れ物というよりかは、贈り物ね。それで、本題なんだけれどあなた、迷ってる?」


「っ!?」


 リリスの反応を見る限りどうも迷っていることは本当らしい。


 そんなのは出会ったときに微塵も感じさせていなかったリリスはどうだったのだろうか、もう知ることは無いだろうと紅鷹は思考を放棄する。


「はい。迷っています。だって、勇者召喚とは人一人の人生を! その人に合った家庭や環境! それら全てを壊すことなんですよ! そんなのあんまりじゃないですか。この世界のことは私たちで解決すべきなのに」


「ハハッハハハ! そんなこと考えていたのか…」


 思わず笑いが出てしまった紅鷹は、真剣にリリスの瞳を見つめた。


 同時にそんなにも召喚する人間のことを考えて躊躇していたなんて、俺がよく聞く勇者召喚はいつも召喚される側の都合で勝手に呼び出されるまでは同じだが、リリスみたいにそんなに心配するような人間はいなかったな、と遥か昔に呼んだライトノベルが頭にふと出てきた。


「あなたは?」


 そうだよな、まだこの時間では俺のことを知らないんだよな。


 一つだけ、一つだけなら良いよな? 自問自答して紅鷹は答える。


「世界を救う勇者かな?」


 ジョークを言ったつもりはないのだが、リリスは苦笑いをもらした。


 ただ、まだそれでも勇者召喚をする意思は薄い。だが、もう一押し。


「必ずしも、召喚された奴が此方に召喚されたとしても不幸になるとは限らない。むしろ、召喚されたほうがいいと思うかもしれない。きっと、召喚されなかったらそいつは何も変えられないまま、人生の幕を下ろしていたかもしれない。良いんだ。召喚して。もしそいつが泣き言でも言ったらそいつを殴れ」


「どうしてそうなるんですか? あなたのいっている言葉の意味がよく分かりません」


「分からなくたっていい。唯、せっかく“本人が”教えてやってるんだから信じろ」


 その言葉を残すとすぐに、二人は身体強化を使って城から脱出した。


 そのときにはすでに紅鷹の右手はすっかりと色を戻し、存在が消えることは無かった。


 そして、しばらくの作戦会議をする為の場所を探す為に、顔がよく知れている巫女が正体をばれないような場所を探すのであった。


 

 











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