第二十八話 境界線
「………どうしてあなたが?」
巫女が、魔物たちの侵略によって世界を堕とすのを防ぐ為に勇者召喚を促したのに。
此処にいるということは、成功したという裏づけなのだろうが、どうしてここにいるの?
疑問が募る。
もしかして世界が救えなかった?
「そんなの決まってる。終わらせない。……まだ、やることは残っているぞ」
紅鷹は、巫女を生かすため、エリスを救うため、世界を救うことにしか目がいっていな為気づいてはいない。
巫女は目を開けた直後に見た右手が消えかかっていることにしっかりと気がついた。
そしてその消えかかっている人間が、巫女自身が世界を変える為に救って欲しいと願った本人だった。
「どうして此処に?」
再度疑問を投げかける。
「話すと長くなる。その前にあんたの魔力を回復させる」
「あなた魔法が?」
巫女にとっては最初に会った紅鷹は、召喚されることが無く、魔法も使うことができなかった。
そんな彼はちゃんと使えるかというおもいからでた言葉だった。
その言葉がしっかりと聞こえた紅鷹はそっけなく返す
「あんたがそうしたんだろ」
「そう、ね」
紅鷹はあらかじめ還元していた、魔力をありったけ巫女の形状に変換させ、それを手を腹に添えるようにして流し込む。
「っ!!?」
すると、魔力がすーーと巫女の中に入っていく感覚が感じ取れるが、しかし、紅鷹は気づいた。
自分の右手が消えかかっていることに。
紅鷹にとってありったけは、巫女にとっては計用量をあっというまに満タンにして、入りきりはしなかった。
「あなた、魔力が多すぎるのよ」
ジト目で紅鷹を睨み、それに思わず恐縮する。
「それで、お前にはやってもらうことがまだ残っている」
「結果だけ聞くけど、世界は救えたの?」
「救えた。だけど、この世界じゃ、彼女や妹は救えなかった」
「そう、で、どうするの? 私にはあなたがどうするのかがまったく分からない」
「それは、あんたに世界がどんな状況なのかを教えてもらわなければ行動することはできない。それに、この右手について聞きたい」
紅鷹が見たときとまったく同じような反応を示した後、真剣に考えるようにうつむいた。
すぐに、思いついたのか、早口で聞いてきた。
「あなた、何かパラドックスを犯した?」
「いや、そういうのは入念に気を配っていたので、ミスはないと思う」
「じゃあ、答えは一つね」
さらっと巫女は答えを導いた。
時間を越えるものなのにどうして、そんな簡単に気づいてしまうのかものすごく疑問だった。
「どうしてそんな簡単に?」
「あなたが答えのような物よ。時間はもう過去から未来に一本道で川のように流れているわけではない。未来方向から過去に何かをしないとパラドックスが起きる可能性だって起きてしまう。つまりは、これから私たちが勇者召喚を手助けしに行くってことが答えよ」
そうか、そんな可能性もあるんだ。と自分の行動を思い返しいくつか似たような経験をしたなと思った。
すると、消えかかっていた右手が少しだけ色を戻し、視覚に収めることができた。
もし、答えが出なかったら自分という存在が消えていたと思わされる現象だ。
しかし、俺たちは気づいた。
「とりあえず、行こう。リリスを説得に」
紅鷹はこれからを変える為に一緒に歩むため、手をだす
「ええ、いきましょう」
それに答えるように手を差し出しつなぐ。
そして、二人はこの時間から消えた。




