第二十二話 誤算と気づかぬ爆弾
ストックがきれた……。
2009/06、28/11:34:59
時間を飛んで、たどり着いた場所は召喚の場である。そんなのは当たり前だ。誰だって理解できる話だが。移動したのは時間なのだから。といっても、自転と公転をしている為に、もとの場所に戻るのにはGがかかるのだ。(この星って地球と同じなの? といった質問が飛んできそうだが他にどうしろと? といいたくなるがそんなのはどうでもいい)
なぜなら、目の前にいる人物二人は、紅鷹もよく知っている二人だった為にGのことは気にはならなかった。
一人は、エルフォード国の姫君リリス。
紅鷹を、このエルフォードに直接召喚魔法を用いて召喚した本人。
そして、もう一人、それは、紅鷹を召喚するように手引きした、“時の巫女”。
紅鷹に、時間を飛び越える魔法を教えた者。
(っ!?)
一瞬、驚愕にそまった。
俺のさがし求めていた人物がそこにいるのだから。なぜ? 疑問があがるがそれよりも違和感が強烈に浮き上がる。
だが、すぐに違和感には気づいた。
彼女は、“この時代の巫女だ”。
紅鷹の探している、“未来から来た巫女”ではない。もし、彼女が未来から来た巫女だというなら、膨大な魔力を使って、精神を疲労させ、魔力の乱れが生じるはずだがそれが感じられない。
だが、この現場は一体何なのか? 疑問が、不安感が、心拍数の増幅がとまらない。
もしかしたら、今この場で、俺のDNAを受け渡しているのでは?
そして、すでに目的を終えた巫女が、事切れているのではないか?
すぐさま気づかれずに召喚の場から外に出て、探知魔法を展開する。
それを凡そ、全国に広げる。数十秒しか及ばない魔法だがしっかり機能はしている。
しかし、見つからない。
「っち!」
思わず悪態をつく。
二つの意味で迂闊だった。
一つは、先のことしか見えずに外に出てしまい、目の前の、自分のDNAが受け渡されているのかを確認しなかったことについて。
もう一つは、もしすでに事切れているのなら、この世界で言う魔力の乱れが生じるはずなのだ。
それが、どこの国や場所にも無い。
それはつまり、すでに巫女はある程度の行動を起こして、尚且つ死んではいな状況。
これは困る状況だ。
すでに巫女が死んでいればある程度の魔力の乱れを見つけ、場所を把握し、時間を飛び越えてすぐにでも会うことができる。
しかし、リリスと巫女の現場を見ていない限り、まだ、未来の巫女が来ているかの確証がもてずに、解を導き出せない。二度手間になってしまった。
(巻き戻すか……本当はもうあまり使いたくは無いのだが)
そうして、この時代の入りからやり直す為に紅鷹は呟く。
「戻れ」と。
2009/06、28/11:34:59
先ほどと同じ状況で二人。
リリスと巫女がなにやら難しい話をしている様子が目に映る。
だが、実際に聞きたい事が一切聞こえてはこない。
(魔法を使うしかないか…)
存在がばれる可能性を考えたが、それはそのときで何とか成ると思い、発動する。
『聴力強化』
キーーン、と少し耳鳴りがしたがすぐにそれは収まり、周りの小さな音が、二人の会話が聞こえてきた。
「これは?」
リリスの声が聞こえた。そしてリリスに答えるように巫女の声が聞こえた。
「私も良くはわからないの。ただ、これを渡してきた人はものすごい剣幕でお願いしてきたのよ―」
『これを生贄として勇者召喚魔法を発動して』と。
「でもなぜその人はこの血肉を?」
「わからない……此処に血肉があるということは少なくともこの血肉の本体の人は死んでいるはずだ。だが、召喚魔法でそれを行ったとしても生き返るなんてことは起きない」
「じゃあなぜ、こんなものを?」
わからない。そう、巫女は首を横に振った。
(そういうことか)
紅鷹の中では解はでた。
すでに、未来から来た巫女が現時点での巫女に、俺の血肉を渡している。
だが、さっきやった探索魔法ではなにも引っかからなかった。魔力の乱れも無い。
つまり、すでに死後から数日がたっている。
「すでに死んでるのか…」
会いに行くしかない。
過去に飛んで死ぬ前の巫女に。
そして、紅鷹は少し時間に余裕を持つ為、一週間以上時を飛んだ。
ただ、ここで紅鷹は大きな誤算をしていた。
現代の巫女が、未来の巫女から紅鷹の血肉を受け取ったのは前日の27日なのだから。
実質的に、未来から来た巫女は、死んではいない。消失したのであることに。
「これを受け取ったのは確かに昨日なのですか?」
「そうよ。だから、私急いで報告しに来たのよ。絶対なにかを知ってそうな顔で、その顔はフードでよくは見えなかったけど、ただ、絶望に近い色をしていたことはわかった」
「…少し考えさせてください」
リリスは迷う。
“この血肉を使うべきか、否か”。
そして、“勇者召喚を促したのは巫女だけではないこと”を。




