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短編小噺シリーズ ~評価の高いものを連載化させます~

王位継承権剥奪のために無能を演じているのに周りに勝手に天才皇子にされてます?!

作者: 雪丸
掲載日:2026/05/09

短編小噺シリーズ

 ルクセイン帝国第三皇子、ノア・ルクセインは悟っていた。

 この国の皇位継承争いは危険すぎる、と。

 長兄は武闘派。次兄は冷徹な策略家。

 歴代皇帝たちは、兄弟同士の暗殺と裏切りの果てに玉座へ辿り着いていた。


(絶対に関わりたくない……)


 それがノアの本音だった。

 実際の彼は極めて優秀だった。

 剣術、軍略、政治、学問。どれを取っても天才級。

 だが目立てば利用される。

 最悪、消される。

 そう判断したノアは、

 徹底的に“無能皇子”を演じることを決意する。

 会議中に居眠り。

 剣術訓練ではわざと転倒。

 経済の話では意味不明な発言。


「金貨って、埋めれば増えませんか? 」


 重臣たちは絶句した。

 ノアは内心ほくそ笑む。


(よし、完璧だ)


 これで王位継承権剥奪も近い――。

 しかし。


「なんという深謀遠慮……」


 側近のエリオットが震えた声で呟く。


「……え? 」


「無知を装って敵の油断を誘っているのですね……! 」


 違う。そうじゃない。

 だがここから、壮大な勘違いが始まった。




 ある日の軍議。

 隣国ゼルディア王国との国境での戦争問題が議題になっていた。

 将軍たちが難しい顔で地図を囲む中、いつものようにノアは居眠りをした。


「ノア様、起きてください。ノア様の発言の番です」


 エリオットに声をかけられ仕方なく起きる。

 とはいえ軍議など最初から書いていなかったので何を言えばいいか分からない。

 まぁ怒られない程度になんか言うか。


「敵の弱点はここだろう」


 そう言って地図の真ん中あたりを指差す。もちろん示した場所は適当だ。

 その瞬間、会議室が凍りついた。

 老将軍が青ざめながら言う。


「……確かに」


 敵軍の補給線には致命的欠陥が存在していた。

 誰も気づかなかった戦略上の穴。


「第三皇子殿下は最初から見抜いておられたのか……! 」


 違う。適当に指差しただけだ。

 だが噂は瞬く間に広がる。


 “昼寝皇子は実は天才”


 さらに最悪な事件が起きた。

 ノアは偶然、汚職貴族たちの密談現場へ迷い込んでしまう。

 逃げようとして窓枠に足を引っ掛け転倒。

 その拍子に壁の隠し金庫が壊れ、不正帳簿が大量に飛び出した。


「第三皇子殿下が腐敗貴族を摘発したぞ! 」


 だから違う。

 ただ盛大に転んだだけである。

 しかし国民人気は急上昇。

 街ではノアの似顔絵まで売られ始めた。

 本人だけが胃痛で倒れそうだった。




 ある夜。

 ノアは父である皇帝ヴァルディウスに呼び出される。


(ついに全部バレた……)


 覚悟を決めて謁見の間へ向かった。

 しかし皇帝は静かに笑った。


「お前は余によく似ている」


「……はい? 」


「無能を演じ、周囲を欺いているのだろう」


 違う。政争から逃げたいだけだ。

 だが皇帝は完全に勘違いしていた。


「兄たちを争わせ、自分は一歩引いて全体を見ている……見事だ」


 ノアは内心で頭を抱えた。

 なんでこうなるんだ。

 さらに第一皇子ガイゼルと第二皇子ルシオンの対立が激化し帝国内は内乱寸前に陥った。

 そこへ隣国ゼルディアが再度侵攻を開始した。

 重臣たちは混乱する。


「どちらの皇子に軍を任せるべきか……! 」


 争っている場合ではない。


 その時、皇帝が宣言した。


「全軍指揮権を第三皇子ノアへ委ねる」


「待ってください!? 」


 当然のように却下された。

 戦場へ送られるノア。

 ノアの優秀さは隣国まで届いており、敵軍は戦意喪失。逆に帝国軍は勢いづいた。

 その結果、帝国軍は圧勝。

 敵軍十万を撤退へ追い込む大戦果を上げた。

 兵士たちは歓声を上げる。


「軍神ノア万歳! 」


 ノアだけが死んだ目をしていた。




 戦後、帝国内では次期皇帝にノア待望論が爆発していた。


「次期皇帝は第三皇子しかいない!」


「民を導く理想の君主だ!」


「ルクセインの黄金時代が来る!」


 本人の意思を完全無視して皆次々とノアを称える。

 さらに長兄ガイゼルと次兄ルシオンまで言い始める。


「最初からお前には敵わなかった」


「我々とは見ている世界が違う」


 違う。本当に違う。

 そして迎えた皇位継承会議。

 ノアは最後の抵抗を試みた。


「ぼ、僕は皇帝に向いてません! 」


 だが重臣たちは感動した。


「なんという謙虚さ……! 」


「器の大きさが違う! 」


「これこそ真の皇帝! 」


 やめてほしい。本当に。

 こうして、平穏に生きたかっただけの第三皇子ノア・ルクセインは、後に“帝国史上最高の名君”として語り継がれることになる。

 本人が最後まで胃痛に苦しんでいたことは、歴史書には残っていない。


500pv or 50pt以上いただけた評価の高いものを連載化させます!

高評価よろしくお願いします!

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