第5話 氷の公爵令嬢の異変
違和感というものは、たいてい後から気づく。
その時は「気のせい」で片付けてしまうからだ。
そして現在。
俺は三度目の公爵家訪問に来ていた。
(……静かだな)
以前と同じ応接室。
同じ時間。
同じ紅茶。
違うのは——。
「本日も、ありがとうございます」
セレスティア嬢の声だった。
小さい。
明らかに小さい。
(あれ?)
前はもっと、こう……威圧感というか。
存在感があった気がする。
「最近、気温が下がりましたね」
話題を振る。
「……はい」
終わった。
(早いな!?)
沈黙。
彼女は視線を落としたまま、カップを見つめている。
前はもっと、こちらを観察していた気がする。
(……楽になった、のか?)
距離を取る作戦の成果かもしれない。
彼女も緊張しなくなったのだろう。
うん、良いことだ。
……なのに。
なぜか落ち着かない。
「……体調でも?」
思わず聞いていた。
彼女の肩がぴくりと揺れる。
「問題ありません」
即答。
だが。
ほんの少しだけ、寂しそうに見えた。
(いや、気のせいだな)
氷の公爵令嬢が寂しい顔などするはずがない。
◇
帰り際。
廊下で侍女と目が合った。
ものすごく、じっと見られた。
……責めるような目で。
(え、俺なにかした?)
「…… ヴァイス様」
小声で呼び止められる。
「はい?」
侍女は何か言いかけて、やめた。
「……いえ」
深々と頭を下げられる。
なぜか、少し怒っているように見えた。
馬車に乗り込んでも、妙な感覚が残った。
(関係は、悪くなってないはずだよな……?)
距離は適切。
礼儀も完璧。
失言もない。
なのに。
彼女の小さくなった声が、妙に頭に残っていた。
「……今の、試された?」
答えは出ないまま、馬車は進んでいった。




