第4.5話(番外) 距離という失敗(セレスティア視点)
失敗した。
完全に。
◇
レオンハルト・ヴァイス様が来訪される三十分前。
私は鏡の前に立っていた。
「……落ち着いて」
深呼吸。
三回。
本によれば、自然な会話には準備が必要だ。
話題も用意した。
質問も考えた。
今日は、前回より少し——。
(距離を、縮める)
そう決めていた。
◇
だが。
彼は部屋に入った瞬間、三歩下がった。
正確に。
迷いなく。
(……避けられている)
理解は早かった。
当然だ。
私は無表情で、愛想もない。
会話も得意ではない。
きっと前回、何か失礼を。
「本日もお越しいただき、ありがとうございます」
声が硬くなる。
直せない。
彼は完璧な礼儀で応じた。
だが——。
視線が合わない。
距離が遠い。
踏み込んでこない。
(嫌われた)
胸の奥が、静かに沈む。
話題を待つ。
来ない。
沈黙。
何か言わなければ。
だが焦るほど言葉が消える。
「……はい」
短い返事しか出なかった。
(会話が終わった)
失敗。
また失敗。
彼は穏やかに微笑んでいた。
優しい表情だった。
だから余計に分かる。
(気を遣われている)
本当に興味がある相手には、こんな距離を取らない。
◇
「本日は、以上でしょうか」
帰ってほしくなかった。
けれど引き止める理由がない。
「とても有意義な時間でした」
丁寧な言葉。
完璧な距離。
——終わった。
扉が閉まったあと。
私はしばらく立ったまま動けなかった。
「……次は、もっと」
うまく話そう。
迷惑をかけないように。
嫌われないように。
そう決意したはずなのに。
なぜか、少しだけ視界が滲んでいた。




