第4話 距離という失敗
結論から言おう。
俺は、完璧な判断をした。
たぶん。
◇
前回の訪問以降、俺は一つの結論に至っていた。
——公爵令嬢セレスティア・アルヴェインとは、適切な距離を保つべきだ。
理由は明確。
彼女は完璧すぎる。
つまり不用意な発言=即失点の可能性。
平穏に生きたいなら、安全圏を維持するしかない。
(近づきすぎない。これ大事)
よって本日の方針。
・礼儀正しく
・丁寧に
・踏み込まない
完璧だ。
◇
「本日もお越しいただき、ありがとうございます」
セレスティア嬢が頭を下げる。
「こちらこそ、お時間をいただき感謝いたします」
距離、三歩。
声量、控えめ。
視線、礼儀範囲内。
(よし、理想的な社交距離)
彼女は一瞬だけ動きを止めた。
だがすぐに席へ着く。
「紅茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
会話終了。
……早いな?
「最近、王都は穏やかですね」
無難な話題。
「……はい」
短い。
いや、前回も短かった。
問題ない。
(距離を保てている証拠だ)
沈黙。
……長い。
妙に長い。
ちらりと視線を上げると、彼女がこちらを見ていた。
目が合う。
すぐ逸らされた。
(今の、試された?)
正解が分からない。
とりあえず紅茶を飲む。
◇
二度目の沈黙。
三度目の沈黙。
会話量は明らかに減っていた。
だが俺は冷静に分析する。
(これは成功だな)
無理に踏み込まないことで、互いに負担が減っている。
安全。
実に安全。
「……本日は、以上でしょうか」
セレスティア嬢が言った。
ほんの少しだけ声が弱い気がしたが、気のせいだろう。
「はい。とても有意義な時間でした」
社交的満点回答。
彼女は一瞬、何か言いかけて——やめた。
「……そう、ですか」
◇
帰り際、廊下ですれ違った侍女たちがざわついていた。
「様子がおかしくない?」
「ええ、ここ数日ずっと……」
(?)
俺のことではないだろう。
公爵家には色々あるはずだ。
馬車に乗り込み、俺は満足げに息を吐いた。
「うん」
今回の訪問。
完璧な距離感だった。
圧もない。
緊張も減った。
「関係改善、成功だな」
そう結論づけた。
——なお、この時点で。
俺だけが、致命的な勘違いをしていた。




