第3話 奈落の住人
揺れる光を目指し、薄暗い通路を進む。
さっきと違うのは――一人ではないことだ。
目の前を、ぴょこぴょこと頭を揺らしながら先導する妙なゴーレム。
さっきよりは、少しだけ心細さが解消された。
……前言撤回。
こいつ、とにかく、うるさい。
黙る、という機能を知らないのか。
「いやー、久々に誰かと会話できたっすよ。この辺、基本オフラインなんで」
「オフ……何だって?」
『※※※Error_404…言語パック未同期。再接続を試み――※※※』
「今の、なんだ」
『気にしないでくださいっす。Error_ping……ただの独り言みたいなもんなんで』
気になるわ。
意味不明なやり取りが挟まるせいで、
正直、一人で歩いていた方が気が楽だった。
聞けば、彼女には何か目的があったそうだが、
気がついたらあんな場所で眠っていたのだという。
眠りが長すぎたせいか、
たまに変な「独り言」が出るのだとか。
俺には彼女の言葉の半分も理解できない。
だが、「壊れている」ということだけは分かる。
鍛冶師の勘が、そう告げていた。
修理や修復なら、俺の分野だ。
俺は直すことしかできない。
壊れたものを見ると、無性に直したくなる。
それがまるで、俺の「呪い」のようだ。
(……だが、直せるのか?)
剣や鎧を直すのとは訳が違う。
ましてや、話すゴーレムなんて聞いたこともない。
鍛冶師として彼女の構造に興味はあるが、
下手に触って完全に壊しでもしたら――
それは、鍛冶師にとって死よりも重い、最悪の結末だ。
だから俺は、何も言わずに彼女の背中を見つめ続けた。
やがて、揺れる光が大きくなってきた。
「出口っす!」
彼女が叫び、走り出す。
俺も逸る気持ちを抑えつつ、光の中へ飛び出した。
トンネルを抜け、視界が開けた瞬間。
俺は絶句した。
「……なんだ、ここ」
眼下に広がるのは、灰色の世界。
中央には、心臓のように赤く脈打つ火山。
まるで、この世界そのものが生きているかのようだった。
奈落で感じていた熱気の正体が、それであると告げている。
周囲に広がるのは、崩れた塔、折れた橋、砕けた石像。
見渡す限りの瓦礫の山だ。
そして空を仰げば、そこには世界を閉じ込めるような巨大な「ドーム」が広がっていた。
地上ではない。ダンジョンか?
地の底に、こんな世界があったのか。
呆然と立ち尽くしていると、視界の下方に人影が見えた。
「……助かった」
反射的にそう思って近づいた瞬間、俺の体は凍り付いた。
先頭に、黒いマントに身を包んだ影。
その後ろに、武器を構えたメイド服の少女が二人。
さらに禍々しい角を生やした魔王のような大男、
異形のモンスター達や、大きな鉄の筒を抱えた女。
種族も、格好も、バラバラだ。
一目散に逃げ出すべき、化け物たちの集団だ。
まるで寄せ集めの悪夢だ。
(……なんだよ、あれ)
王国なら、一瞬で戦争が始まるような異様な顔ぶれだ。
俺は、そっと一歩、後ずさる。
背を向けようとした、その瞬間だった。
ピッピが臆することなく一歩前に出て、元気よく手を挙げた。
「あ、もしもしー! ちょっと道を尋ねたいんすけどー!」
ピッピはあろうことか、その異様な集団のど真ん中へ、
スキップでもしそうな勢いで突撃していったのだ。
「やめろ!! それ絶対ヤバいやつだ!!」
俺の制止は虚しく響いた。




