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第1話 勝利の報酬

大地には、巨大なドラゴンの死骸が横たわっていた。

周囲には、勝利の勝どきを上げる兵士や冒険者たちの声が響き渡っている。

その喧騒の中、一週間にも及ぶ激戦を終わらせた

『英雄』――勇者パーティが、後方支援テントへとやってきた。


 テント内は戦場さながらの惨状だ。

負傷兵のうめき声が漏れ、俺たち裏方は、血と脂にまみれた武具の修繕に忙殺されていた。

 一週間、ほぼ不眠不休。

俺もひたすら目の前の壊れかけた防具を叩き続けている。


「これ、今すぐ直しとけ」


 投げ捨てられたのは、勇者の見事な銀の鎧だった。  

声の主は、勇者本人。確かに実力は桁外れだが、この高圧的な態度はどうしても好きになれない。


「……待ってくれ。順番にやってるんだ。今は他にも急ぎの依頼が山ほどある」

「はあ? そこに寝てる奴や、飯を食ってる鍛冶師がいるだろうが。

休む暇があるならちゃっちゃと手を動かせよ」

「そうよ。あんたたちみたいな戦闘に役立たないクズは、勇者様の言うことを聞いていればいいのよ」


 勇者の後ろから、魔法使いの女が追い打ちをかける。

 三日も寝ずに働いて、ようやく口にした食事を「休んでいる」と言い切る神経が信じられなかった。


「……彼らは三日も寝てないんだ。飯ぐらい食わせてやれ」

「自分の役割もこなせない奴は要らない。ここからきえろ」


 勇者は冷たく言い放つ。  

その直後、軍の兵士が慌ただしく駆け込んできた。

国王が直々に労いに来たという。

 テントの外では、着飾った国王と王女が勇者を迎えていた。

報酬の金貨を差し出す王女の瞳は、熱烈な憧憬で赤く染まっている。

 勇者はその手を取り、何事かを囁いた。  

パーティの女たちが面白くなさそうに顔を歪める。

……見せつけられている方は、アホらしくて欠伸が出る。


 さっさと仕事に戻ろうとした、その時だった。


 ドォォォォォンッ!


 胃の底を揺さぶるような爆音と共に、大地が激しくのたうった。  

立っていられない。


机からスープやランプが転がり落ち、悲鳴が上がる。  

ようやく揺れが収まったとき、俺の目の前には、

地の底も見えないほど巨大な『地割れ』が走っていた。


「おい……空を、見ろ……!」


 誰かの叫び声に、全員の視線が上を向く。  


そこには、あり得ない光景があった。  

青い空に、まるで防御魔法が割れたような『亀裂』が走っている。


「一体、あれは……」


 国王の呟きと同時に、その亀裂から『黒い染み』が滲み出した。  


染みは瞬く間に空を覆い、不気味な黒いもやとなって地上へと降り注ぐ。

 真昼が、一瞬で真夜中へと塗り替えられた。


 黒い靄から、無数の『腕』のような触手が伸びる。

 

それは近くにいた兵士を無造作に掴むと、そのまま空の闇の中へと引きずり込んだ。


「撃て! 撃てぇぇ!」


 魔法部隊が一斉に火球を放つ。だが、魔法は靄に触れた瞬間、パッと『消去』された。


「ひっ、こっちに来るな!」


兵士たちがパニックになりながら、逃げ回る。


まずい、その先は負傷兵たちが寝ているテントだ。


無数の触手が、逃げる兵士や、

寝台で動けない負傷兵たちを次々と掴んでいく。



俺は駆けだし、持っていた研磨途中の剣や、防具を投げる。


だが、その触手に届く前に、全て霧のように消える。


瞬きする間もなく捕まった負傷した兵士たちは、黒い靄に引きずり込まれる。


俺にはどうすることもできない。こんな時こそ勇者だと思い 勇者を見る。


奴は国王や自分の女たちを守ることに必死で、

負傷兵や俺たち裏方のことなど眼中にないようだった。

俺と目が合ったが、勇者は視線を逸らした。


何やってんだ、そう叫ぼうと思った時、触手がこちらを向き遅いかかってくる。


捕まる、そう思い目をつぶりかけた。

だが、横から強い衝撃が走った。

「――ッ!?」


 体当たりをしてきたのは、先ほどまで飯を食っていた同僚の鍛冶屋だった。  

彼は俺を突き飛ばした代わりに、自分を犠牲にして触手に捕らえられ、闇の中へと消えていった。


「待て!そいつを 離せ!」


 伸ばした手は届かない。

 突き飛ばされた俺の体は、そのまま背後に開いた巨大な地割れへと吸い込まれた。


「あああああああああああッ!」


 暗闇の中、俺の意識は深い奈落へと落ちていった。


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