表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】母を亡くした公爵令嬢は、虐げられないが、今日も願いが叶わない  作者: 春風由実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/29

24.公爵令嬢は知る


 小さな邸だ。

 裏庭から邸内に戻って少し廊下を進めば、すぐに声を拾うことが出来た。



「ハリマン。この私がエルリカを呼べと言っているのだよ?その意味が分からないのか?」



「ですから本日お嬢様にはお約束がございまして」



「友人より大事な用だ。エルリカにこちらを優先するように伝えてくれればいい。いいや、それよりも私が迎えに行こう。そこを退け」



「ですから──」



「叔父様。うちの家令を責めるのはおやめください。叔父様を部屋で待たせるようにと伝えたのは私です」



「エルリカ!あぁ、会いたかった。迎えに来たよ!」



 満面の笑みで私を見た叔父は、すぐに顔を曇らせた。



「エルリカ?それは何かな?」



 私は隣のクラウス様と目を合わせる。

 叔父の不敬極まりない態度を前にしても、クラウス様は微笑んでいたし、何故か嬉しそうにも見えた。



「エルリカ。どうしてそれと手を繋いでいるの?」



 叔父はまだ玄関に立っている。

 部屋に案内するようにとお願いしたが、それも拒んだのだろう。


 私は長めの息を吐いてしまった。


 すぐに私の手の甲を撫でられる。

 慰められているのかもしれない。



「エルリカ。それは駄目だよ。早く手を離して、こちらにおいで」



 これとか、それとか、あれだとか。

 叔父は気にいらない人間の名を頑なに呼ばなくなる人だった。


 私も近いうちに呼ばれないようになるのだろうか。

 すぐにそうなる気もすれば、そんな日は来ないような気もして、私の心は落ち着いていった。


 相反する思考を持っていいと認めてから、無責任にも心は好き勝手に考えを始めていく。

 それがかえって気を楽にすることを、私は実感として学習しているところだ。



「叔父様。クラウス様にご挨拶もないのですか?」



 叔父の周りの空気が澱んでいくように感じる。



「会えない間に私もよく考えたのだよ、エルリカ」



 叔父の考えたことなど、聞く前から嫌な予感しかしなくて困った。



「エルリカは公爵夫人である姉上の娘なのだから、公爵位を継ぐことは当然だった。だから学院卒業と同時に、エルリカが公爵となれるように手配する。あれ?あれは追い出そう。それも要らない。公爵となるエルリカは、私が支えるからね」



 グラスデューラー侯爵家の縁者が、何を言い出したのか。

 私は叔父にはっきり言い返すことにした。



「私には卒業と同時に公爵になるつもりはありませんし、仮に私が公爵となったところで、他家の叔父様を頼りにすることもありません」



「何も心配要らないよ、エルリカ。すべて私に任せておいて。それよりエルリカから早く手を離してくれませんかね」



 そう言った叔父は、クラウス様を睨みつけた。

 もう私の手に負える状況ではないことを私は悟った。


 何も言っていないのに、私の視線を受けたクラウス様が頼もしく頷き返してくれる。



「先日振りだね、グラスデューラー子爵。()()()()()()()()()()()()()()()()、子爵には報告があったからちょうど良かったよ。私とエルリカの婚約が決まった。正式には次の大会議で発表されるが、主な諸侯には今夜にも通知があるだろう」



 含みある言葉を流して、私は目を伏せてしまった。

 叔父や公爵への対策として、私たちはお互いの呼び方を変えることにした。



『それだけを理由にするのは、さすがに卑怯だったね』



 クラウス様のそのお言葉と、照れた笑顔が思い出される。


 それだけで陽だまりの中にいるように胸が温かくなった。



「王子の権力でエルリカを脅しましたね?エルリカ、我慢しなくていい。まだ間に合うから、嫌だと言って大丈夫だ」



 たびたび恐ろしいことを口にする叔父は、現実ではないものを見て生きているのではないかと思えてくる。


 母が生きていれば、叔父は違っただろうか……それもあの母を思い出せば分からなくなった。



「私は脅されてはおりません。クラウス様は叔父様たちと違って、私に何も強要されませんでした」



「嫌だなぁ、エルリカ。エルリカはまさかそれとの結婚を望んでいるとは言わないね?もしそうなら、それは気の迷いだよ、エルリカ」



 どうして話も聞かずに、気の迷いと決め付けられるのか。

 叔父は私の何を知るだろう。



「エルリカはまだ他を知らないだろう?だから勘違いしているだけだ。もっと多くの者を見てから選ぶといい」



「それで学院に通う令息たちに、私に近付くことを命じたのですか?」



「命じてはいないよ、エルリカ。少し誘導したかもしれないけれどね。エルリカの婿や友人の座を望む者は、この世に沢山いるのだよ?エルリカは選べる立場なのだから、王家や公爵家に従うことはない」



「叔父様の仰る意味が分かりません。友人はともかく、婿だなんて。彼らは皆、婚約されていると聞いています」



「婚約?そんなものは関係ない。エルリカの選ぶことが絶対だ。それに──エルリカには生まれから下にある者がいいと思うからね。好きに調教出来た方が、エルリカも嬉しいだろう?」



 関係ないなんて最低な──ん?んんん?

 今なんと仰いました?



「姉上はよく言っていたよ。エルリカは姉上を越える素晴らしい淑女になるとね。どうしようもない人間を数多この世に生み出しては慈しむ、女神のような娘に育つと予言されていた」



 淑女らしくない声、いや音が口から漏れた。

 その直後、隣でクラウス様がふっと軽く息を吐いていた。


 こんな私を知って、気が変わったと言わないだろうか。

 そんな想像をしているのに、私は自分を偽る気が起きない。


 クラウス様と目が合った。

 笑っていると思ったのに、真剣な顔をされていた。


 叔父を見る。

 目が合っているのに、叔父のその目は私を通り越して、どこか遠くを眺めているように感じた。





読んでくださいましてありがとうございます♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ