06
「他市までいきたい? またえらく急ね」
「大きいお店ができたの、そこにあなたといければ楽しめるだろうから」
他市の話なのによく知っているな、ここら辺に新しくできる店の情報だってこちらは知らないぐらいなのに。
「あー二人きりで?」
「あなたが誘いたいなら中野さんを誘ってもいいわ」
もう横にもかはいない、今日はやたらと真剣な顔で「もう帰るね」と言ってそれっきりだ。
ま、こちらに集中しているもかの方がおかしいからこれでいいのだ、別に寂しく感じていたりはしないのだ。
「ま、今回はいいかな」
「なら明日の朝からいきましょう」
「あんた暑いの大丈夫なの?」
「大丈夫よ? 明日が土曜日でよかったわ」
なら今日は早く寝るか。
散歩なんかも出かけているときに大量に歩けるだろうからしなくていい。
「あさ、本当は中野さんといたいのでしょう?」
「なんで急に? あんたとだってたまには出かけるのもありでしょ」
「大丈夫ならいいけれど……」
「余計なことを気にするな、さ、帰りましょ」
そもそも私達はどうして残っていたのか、友達が多くいる彼女ならメリットがあるけど私にはないのにアホだ。
小さい石ころを家まで運んでやると決めた自分、だけどすぐに終わってなんかつまらなかった。
なんだろうなぁ、別になにもないというわけでもないのに物足りなく感じている自分がいる。
ゆみが他の人間を優先しているから? ただ、それは私の中で当たり前のことではあるからあまりにも急すぎる。
「泊まってもいい?」
「お姉ちゃんに聞いて」
「なら帰ってきたときに言わせてもらうわ」
ということは少なくとも姉が帰宅するまではゆみが家にいるのか。
一人になってしまうよりはマシだった、部屋にいてもリビング的なところにいても一人だと寂しい。
あとはいま一人になるとマイナス方向に傾きそうなのもでかい、それを避けられるのであればなにか一つぐらい明日物を奢ったりはやらせてもらおう。
「はい、足を使って」
「は? 足が痛くなるでしょ」
「いいから」
「……なによ急に」
「だっていつものあなたらしくないもの、こういうときはこうしてちゃんと話を聞いておかなければならないのよ」
自分だってわかっていないからなにも出てこない、彼女は足が痛くなるだけで損でしかないのに……。
それでも色々と言い訳をして甘えていると「やっぱり中野さんが気になるのでしょう?」と、もしこれがもかとのそれからきているならかなり恥ずかしい。
友達になってくれと頼んで、だけどゆみや姉を優先するもかを見て私なんておまけみたいに考えて、ちょっと来てくれるようになったらすぐに……ねえ?
なにかがあるとしても暑いからとかそういうことであってほしい、だってこれなら別に恥ずかしくないからだ。
「別にそんなのじゃない」
「ふふ、素直じゃないわね」
「……あんたこそどうなの?」
絶対に自分のペースにはできないとわかっていても言われっぱなしは嫌だったから動くしかなかった。
やはりこういうときの彼女の笑みは苦手だ、もう出てきた時点で私の負けは決まっている。
「私? 私はこうしてあなたといられれば満足できるもの、お出かけだってできるなら最高よ」
「や、最高は言いすぎ、私なんて可愛気がないただの女じゃない」
あと面白みがない、会話をしているときに気を使わせてしまっているって最近はよく引っかかる。
この点ははっきり言ってくれるゆみの方がいい、ダメージを受けやすいから手加減はしてほしいけど抑えて別の言葉を吐かれても困るのだ。
ちゃんと言い合えてこそ友達だろう。
「ほらそういうところよ、いつもなら言わないじゃない? だから本調子じゃないのよ」
「どれだけもかに興味を持っていることにしたいのよ……」
「席が離れている分、よくわかるのよ」
「……楽しそうって言いたいの? あんたといるときより?」
「ええ、あなたも中野さんも凄く楽しそうだわ、見ているだけで悔しくなってくるぐらいには、ね」
休み時間になる度に見てみても友達とばかりいる彼女が言うのはちょっとおかしかった。
「そもそもあんたが前より来なくなったのも物足りない感じがする原因だけどね」
「本当に求めているの?」
「は? そんなの当たり前でしょ、友達とはいたいじゃない」
「そうなのね」
いやまさかこんなところで聞き返されるとは思わなかったから驚いた。
少しむかついてぎゅっと足をつねったら「痛いじゃない」と、地味に痛くなったのはこちらだ。
「あ、中野さんからメッセージが……」
「あんた中野中野中野ってもかが大好きなのねえ」
「いやほら」
「あ、本当だったのね、嘘かと思ったわ」
まあ、ゆみにしか言えないこともあるだろう。
なんか可哀想だから部屋外で返すように言っておいた、あの子だって同じ場所に私がいるとは考えていないだろうし。
自分が気になるからこればかりは我慢をしてもらうしかなかった。
「お、おはよう」
「は? あ、そういう……じゃ、私は帰るわね」
掃除でもするか、終わったあとは寝て過ごせばいい。
「ちょちょちょっ、あさがいなかったら滝根が可哀想だよっ」
でも、馬鹿力で止められて帰るのは無理になった。
「……なにこれ?」
「昨日連絡がきたときにいけるならどう? って聞いてみたの」
「で、あんたは普通に参加したってわけ?」
「だ、だって特に予定もないし……滝根やあさと過ごせるならそっちの方がいいから……」
「ふーん、ま、あんた達がそう決めたのならそれでいいわよ、さっさといきましょ」
地味にわくわくしている自分がいる。
だって余程の理由がなければ自分で他市にいくということがないし、電車なんかにも乗る必要がないからだ。
ただ、バレバレだったのか「落ち着きなさい」と言われて少し恥ずかしくなった、着いてお店にも入れたときにはなんとか復活したけど。
「へえ、いい感じじゃない、で、あんたはなんでそんなにそわそわしてんの?」
「あ、トイレにいきたくて……」
「はいいってきなさーい」
なにをやっているんだか。
ただまあ、大きいお店だからこうして待っていても誰かの迷惑にはならないのがいい。
色々なところに意識を向けていると「元気になってくれてよかったわ」というそれに引っ張られてゆみを見た、この前もこんなことがあった。
「だから……」
「でも、少しぐらいは私とのそれも含まれていると嬉しいわね」
「含まれているに決まっているでしょ、そもそもあんたが言い出していなかったらこんなところには一生とまでは言えなくてもいかなかっただろうしね」
「だからそれでいいの、あさの中に少しだけでも私がいればね」
はぁ……こういうモードになると厄介だ。
こちらが考えている間にも自己解決して前に進んでしまう、知ってしまったこちらは少しの間、前に進めないのにずるい。
「あんたこそやられてんじゃないの?」
「ふふ、そうかもしれないわね」
「あんた――」
「お、お待たせ」
いいか。
「さ、色々と見て回るわよ」
「そうね」
「うん」
せめて十五時ぐらいまではここで過ごしたかった。
お昼ご飯をどこかで食べられればあとは緩く見て回っているだけでいい、見ているだけでも楽しめる。
ただ……。
「お腹が痛い……」
「あんた……」
緩く見て、ご飯を食べてやっと十二時ぐらい、それから動こうとしたところでこれだ、正直、お腹がいっぱいになったら緩く見るというそれも別に無理してしなくていいかなと流されかけていたため、ゆみに悪いからなんとか合わせようとしてこれだった。
「ご、ごめん、私のことはいいから滝根を優先してあげて……」
「いやそういうわけにもいかないでしょ……」
流石に放置はできない、同じ建物内にいるとしても別れてしまったら気になってしまう。
でも、今日誘ってきたのはゆみだ、ゆみがどう選ぶのかでいくらでも変わっていく。
「まずはトイレにいきましょう、厳しいようならここで終了でいいわ。さ、中野さんいきましょう」
「え、滝根も付いてくるの?」
「私もいきたくなったのよ、あさは待っていてちょうだい」
「うん、じゃあそこで座って待っているから」
うるさくないBGMで楽しんだり、また座っているだけでも見える商品なんかを見ていたらすぐに帰って――こなかった。
時計なんかもあって時間もすぐに確認できてしまうからこそ気になってしまう、だけど無駄なプライドで確認をしにいこうとも思えない。
お腹が痛いならそういうこともあるでしょと片付けてから冗談抜きで一時間後、二人はあくまで先程と同じような感じで出てきた、それと大丈夫らしいので続行らしい。
「ゆみ――」
「もか、あなた靴紐がほどけているわよ?」
「あ、本当だ、教えてくれてありがとうゆみ」
ぐはっ、なにがあったのかなんて容易に想像できてしまうのがなんとも……。
ゆみの方から誘ったのもそういうことか、困る的なことを言っていたのも自然とゆみといられるからか。
なんかいちいち遠回りというか、なんで二人ともはっきりしないのか。
別に二人が仲良くなったってそれは私からすれば理想でしかないのだから、いちいち気にしたりしないのに。
言いづらいということならこちらを誘ったりせずに二人だけで会えばいい、歩くことが好きなもか――中野なら何回でも来てくれる。
「あさ、なにか言った?」
「あ、お腹がいっぱいだから見て消化したいって言おうとしただけよ」
「ふふ、そうね、太ってしまうから私的にもそうしたいわ」
え、なら今日のこれで進むかもしれないわけか。
だったらこちらも上手くやらないとな、満足できるまで付き合うことにしよう。
それとも帰った方がいいのか? ただ、参加しておいて途中で帰るということは全くしないから言われるまでは気にしなくていいか。
「ごへ……」
それよりちゃんと足元を気にしないとな。
ま、おまけだから全くこちらに気づいていなくても仕方がなかった。
「結局進展なしかい……」
無駄に疲れた、自分のせいとはわかっていてもなにをしているのかと文句を言いたくなる内容だ。
二人ともいちゃいちゃもせずにただ店に寄ってはぺちゃくちゃ話しているだけ、電車内でも、こちらに着いてからもそうだった。
だからこうして一人になれたらかなり楽になった、あれを見るぐらいならこうして一人でいた方がいい。
「ただいまー」
「おかえり」
「あれ、ベローンってなってどうしたの?」
「ちょっとゆみ達と他市までいったから疲れたのよ、お疲れ様」
「ありがとう!」
冗談であっても妹に好きとか言えてしまう姉を見習ってよマジで……。
お腹も空いていないから今日はいらないと言ったらやたらと心配されてしまった、でも、本当に食べたい気分ではなかったから大丈夫だと答えておいた。
なんか意地を張ってここで食べることを決めてくれた姉、ただ、姉なら側にいてくれても疲れないから構わない。
「なにかありましたね?」
「なら言っておくけど、ゆみも中野もお互いにはっきりしなくて面倒くさいのよ」
私が一番面倒くさいとはわかっていても言わないのは無理だ。
「あれ、もかちゃんはあさに興味を持っていたんじゃないの?」
「ん? ああ、そんなのゆみと過ごしやすくするための作戦みたいなものよ」
「なるほど、あ、食べ終えたから洗い物をしてくるね、それと自動販売機でジュースを買ってくる」
「りょーかい、気をつけなさいよー」
歯を磨いてからもうごちゃごちゃ考えたくないから無駄に抵抗をせずに寝た。
朝になったら昨日はできなかった散歩をして、いや、散歩で片付けられないぐらいには歩いてやった。
そのせいで全身筋肉痛になったけど部屋にこもっていたよりはマシだ、月曜日になったら学生だから学校へ。
「おはようあさ」
「うん、おはよ」
陽キャってすげえ、私にだって同じような笑みを浮かべられる。
まあ、実際は本命とそうではない人間では違うとわかっていても、語彙がないとしてもすごいとしか言いようがない。
「土曜日はありがとね、お腹が痛いのが治ってよかったなぁ」
「そうね、ゆみだって終了にならなくてよかったと思うわ」
「うん、ゆみに悪いからね」
よし、学校でも散歩をしよう。
いける場所は外と同じで限られているけど悪くない時間を過ごせる。
「あさ」
「まだなにかあんの……って、今度はゆみか、教室で待っていなさいよ」
「朝ご飯を少し多めに食べてしまったから動く必要があったのよ」
彼女はそういうのばかり、物足りないからさっさと中野に対して動いてほしい。
段差があったから座ると彼女も真似をしてきた、なんか気持ちが悪いけどそれは表には出さない。
「私もあさやもかの席の近くにいきたいわ」
「ま、楽よね」
「声をかければすぐに反応してもらえるような距離って魅力的じゃない?」
「うん」
変わってあげてもいいものの、先生はそれをよしとはしないから意味がない。
同じように動くであろう一月に期待するしかなかった、そのときまでには関係もはっきり変わっているからもどかしくはならない。
で、そこからは特に変わらずに授業休み時間授業休み時間の繰り返しだったから今回は残らずに帰ってきた。
「ただいまー」
「お姉ちゃん、ここらへんからばっさり切ってくれない?」
「え、それは短すぎじゃない?」
「洗うのが面倒くさくて、最近はなんかやる気が出ないのよ」
「あさがいいならやるけど……」
受け入れてくれるみたいだったから任せてのんびりしていた。
数分後には頭が軽くなってよかった、今度は私が自動販売機でジュースを買って渡しておいた。
「もうお姉ちゃんがいてくれればいいわ」
「あさっ」
「しー」
お風呂に入ってしまえばもう寝られるというのがいい。
課題なんかも出ていないからベッドに寝転んでいたらまだまだ暗い時間に起きてしまったのは残念だけど。
「もうおばあちゃんなのかしらねえ」
まあいいや、警察なんかに見つかる可能性なんかもないだろうから歩いてみよう。
早朝に歩くのと同じでわくわくした、少しドキドキもしたけどこれも悪くない時間だった。
「ただい――」
「トイレ……ぎゃ――」
「しーっ、この時間に叫んだら不味いってっ」
つかこの時間に私以外の人間が入ってくるなんてありえないのだから驚きすぎだ。
「ん!」
「離すからね? はぁ……真夜中に悲鳴が聞こえるようなことにならなくてよかったわ」
今度は姉関係なく出ていかなければならなくなるところだった。
「……どこにいっていたの?」
「日課よ、今日は早めに目が覚めたというだけね」
「せめて五時ぐらいからにしなよ……もう一緒に寝よ?」
「うん、流石に起きておくと授業中に辛くなるからね」
この歳でおもらしも辛いだろうから先にちゃんとトイレにいかせて姉のベッドで二人で寝た。
ただやっぱりもう大人寄りになっているのか寝られなかったから準備をして家を出た、姉には気づかれずに済んだ。
「あさ……?」
「そうねーもう朝ねー」
いつもより早く出ているのにどうしてこうも遭遇してしまうのか。
前と違ってゆみ目当てだとわかりきっているのはいいけどね、それに別に一緒になったってデメリットもない。
「えっ、なにその髪……」
「面倒くさいから切ったのよ。おはよ、あんたは相変わらず鶏かって言いたくなるぐらいには早起きねえ」
「なんで切っちゃったのっ?」
「なにマジな感じにしてんの? 面倒くさいからって言っているでしょ」
ご飯を食べていないのにお腹が空かないのもそこからきている、そういえば姉もその点をよく見逃してくれているな。
しつこく言うと私が怒ると考えているからだろうか? いまはしつこく言われたくないから助かっている。
「あさっ」
「ぐぇ、あんた力が強いんだから考えて掴みなさいよ」
「……もしかしてこの前一時間ぐらい戻らなかったから?」
おいおい、あ、だけど遠慮がなくなった結果なのだろうか? それなら求めていたのだからちくりと言葉で刺すのは可哀想、
「はあ? あんたそれは自意識過剰ってもんよ」
かもしれないけどやっぱり無理だ、なんでそこまで自分中心で考えられる。
「だってそれぐらいしか……」
「いやいや、私があんたのことを気にしているならともかくそうじゃない状態でこんなことをしていたら気持ちが悪い人間じゃない」
「ならいいんだけど……」
ま、朝から色々とあって退屈な一日ではなくなったのはいい。
学校に着いてからは当然、誰も髪のことで触れたりしてこなかったから楽でよかった。
ただ、夜も朝も昼もご飯を抜くと辛くなることがわかったため、無理やりにでも突っ込もうと決めたのだった。