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225  作者: Nora_
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05

「はい、秦なら元気ですよ」


 目の前でごろごろしながら私の本を読んでいる、先程までは私のゲームをやっていた。


「え、多分寂しいとかそういうのは、はい、あー……つまらないと言われましても……」

「貸して」

「いやそういうわけには――え、いまから私の家にですか? それなら迎えにいきます」


 ふぅ、だけどやっぱりお姉さん的には秦がいきなり出ていったということになっているみたいだ。

 実家にいてくれた方がよかったという発言も本気ではない、でも、秦は多分このまま続けると思う。


「私がいってくるから中野は待っていなさい」

「え」

「あんたさっきからえええって言いすぎでしょ、別に喧嘩をしたわけじゃないんだから問題はないわよ」


 ああ、出ていってしまった。

 床に置きっぱなしだった本を本棚に戻し、適当に座って待っているとインターホンが鳴ったから一階に急いで移動した。


「秦――わっ」


 少しつまらなさそうな顔をしている秦と、涙や鼻水でぐしゃぐしゃな状態のお姉さん――うのさん。

 正直、秦があっちに移動してからもう一週間は経過しているからよく我慢できた方というか、うのさんからすれば私が来るものだと思っていただろうから秦が来て爆発してしまったというか、色々なことが一気に起きたからだと判断した。


「ちょっとタオルを貸してくれない? この通り、ぐしゃぐしゃに泣いていたせいでびしょ濡れよ」

「わ、わかった」


 奇麗なタオルを持ってきて渡すと「ありがと」と、秦はいいとしても未だに泣いているうのさんが気になる。


「部屋にいく?」

「リビングでいいわ」

「わかった」


 とりあえずソファに座ってもらって落ち着いてもらわないとなにもできない。

 飲み物を渡したら「ありがとう……」といつものうのさんらしくなかったけど話してくれたからよかった。


「秦、もしあれなら出ておくけど」

「あんたが気にする必要はないわ」

「でも……」

「……そうだよもかちゃん、別にもかちゃんが悪いわけじゃないんだから気にしすぎだよ」


 う、うーん……。

 急に喋らなくなる秦の真似をして黙っていたら二人がちゃんと話し始めてくれたから助かったものの、そうでもなければ滝根を呼び出すしかなかったところだ。

 嫌ではないなら秦がうのさんの家に戻るのが一番だ、今回の話し合いでそういう風になってくれればと願っておくしかない。


「あーお腹が減ったわねーでも、中野に作ってもらうのも違うから帰るわ」

「大丈夫だよ? それに食べたいなら作るよ?」

「いいの? じゃあ手伝うから一緒に作りましょ」


 調理器具を出そうとしていたらこちらの手を掴んで「ありがと」と、そのときの秦の顔はこれまでとは違うもので五秒ぐらいは見てしまった。

 でも、すぐにやめて必要な物を出す、見続けていたら「なによ?」と冷たい顔になってしまうだろうからもったいない。

 あとは広いわけではないからうのさんといてもらうことにした、決して信じていないわけではないから誤解をしないでほしい。


「できたよ……って、物凄く納得ができないという顔をしているね?」

「当たり前よ、まあ、冷めちゃったらもったいないから先に食べてからにするけど」


 いやでもうのさん的にはあんまり私達が仲良くしているところを見たくないだろうし、一人だけ放置というのもできなかったからあれが一番だったのだ。

 ただ……ご飯を食べている最中もむすっとした顔をしていて味わっている場合ではなかった、味がわからないとまでは言わないけど、うん……。


「ごちそうさま、美味しかったわ」

「それならよかった」

「でも、これ以上は本当に迷惑になるから洗い物をして帰るわね」

「うん」


 洗い物をして発言通り家から出ていった秦、だけどうのさんはずっと俯いて座っているだけだ。

 秦なりに私に頼ってくれているのだろうか? まあ、敢えて悪い方に考える必要もないからそういうことにしておこう。


「もかちゃんごめんね、こんなことに巻き込んで」

「気にしないでください」

「あさにも迷惑をかけちゃった……」

「でも、迷わずに迎えにいったりしていますからね、秦だってうのさんといたいんですよ」


 本人がいたらつねられていただろうから助かった……はずだったのに結局、つねられている自分がいた。

 そりゃ秦が出ていっただけだから鍵は開いたままだ、戻ってくるのも簡単にできる、それでこんな話を聞いていたらあの子なら出てくる。


「お姉ちゃんもしゃっきりして、こうしてすぐに会えるのに泣いたりするな」

「うわーん! 絶対に私といたいって思っていないよー!」


 なんでここで重ねてしまうのか、ちょっと素直になれない子なのかな?


「別にそういうわけじゃないけどいまのお姉ちゃんだったら嫌、あの家にいくぐらいなら中野の家で過ごすわ、この子に迷惑をかけたという点は本当だからなにかをすることで返すしかないもの」

「え、いいの?」


 待ったっ、あの家にいくぐらいならという話であって別にここで過ごしたいというわけでは、私といたいというわけではないのでは?

 疑わずに信じて行動したいけど全て信じてしまうのは危険だ、自分が傷つかないためにちゃんと考えて行動しなければならない。


「は? はぁ、あんたも言いたいことがあるなら言っておきなさい」

「えっと、夏休みももうあんまり残っていないし、秦が泊まってくれるならありがたいんだけど……」


 とは考えつつもやっぱり本当のところを言わないのはらしくないからぶつけていた。

 結局、秦のなんとも言えない顔を今日は多く見ることになったのだった。




「秦、もう九月だね」

「そうね、それももう十日ね」


 九月になっても依然として暑いままだった。

 それでもこうして話しかけてきている中野は元気なまま、これからも同じようにいてほしいと思う。


「でも、結局私の家でゆっくりしてくれていないよね」

「泊まる側はいいけど泊まってもらう側は色々と損でしょ、だからあんなのは姉を納得させるためでしかないわよ」

「うのさんは悲しいのか夕方になると私の家に来るよ?」

「あんたが嫌じゃないなら受け入れてあげて、誰かといればどうでもよくなるものなのよ」


 さ、授業だ。

 授業が始まって静かになると休み時間よりも自由に教室内を見ることができる。

 普段はお調子者でも始まってしまえば真面目に向き合うのだから面白い、ま、当たり前のことだけど。

 後ろの席でよかった点はこれだ、前だったら黒板か隣ぐらいしか見られなかっただろうから? うん、感謝しかないね。


「次の時間に席替えだって」

「また急ね、あと中途半端すぎるわ」


 やるなら始業式が終わった次の日にでもやればいい。

 

「私は秦の隣がいいな」

「前にいかないで済むならあんたが隣でもゆみが隣でも楽しめそうね」

「あ、フラグ……」

「私中心で回っているわけじゃないから大丈夫よー」


 などと言っていた自分、が、前に移動することになってしまった。

 ま、横には中野がいるからそこまで悪いというわけではないけど、どうせならゆみも連れてきなさいよと神に文句を言いたくなる。

 ただまあ、普段神なんて信じていないくせにこういうときだけ文句を言うのは違うから? 表には出さずに抑え込んだけど。


「つかあんた、教室でも喋れるようになったじゃない」

「うん、だって私なんて見ていないから、それに秦とか滝音がいるのに突っ伏しているとかもったいないよ」

「あんた陽キャだもんね」


 一緒にいるときにいちいち「連絡を取っているよ?」とか「集まったよ」とか教えてくれたからね、聞いたのは私だから彼女が悪いわけではないものの、その度に差を見せつけてくれているのだ。


「友達といられないと嫌だよ? でも、今回は本当に変えないともったいないかったから」

「ふーん、ま、いいことね」


 裏ではどうか知らないけど最近はこの子、私のところにばかり来ているけど大丈夫なのだろうか? ゆみがそろそろ拗ねたりしないだろうか。

 そういうときでもすぐに見られるというのは大きい、というわけでゆみの方を見てみたら楽しそうに友達と話しているだけだ。

 私の方が友達の友達という感じだったのにいいのかねえ、それとも、ちゃんと会えているからこそのお互いの余裕なのか?


「ね、ねえ、私も名前で……呼んでもいい?」

「ゆみのことならちゃんと言ってからにしないと怒られるわよ」

「……秦ってわざとやっているよね」


 今回はゆみのことをわざと出しただけだけど、急にこんなに変化したのは何故なのか。


「私? それなら好きにすればいいじゃない、初対面のときから名前で呼ばれても問題ないぐらいよ」

「じゃ、じゃああさ……さん」

「いや、なんで名字は呼び捨てなのに名前はさん付けなのよ。あさでいいわ、いまはなんとも言えない時間だけどね」

「なら私はもかって」


 急に首に触れられてゾワッとした、でも、触れてきたのはゆみだったからまだなんとかなった。

 教室で変な声を出してしまったら終わりだから抑えられた自分を褒めてあげたい。


「中野さんが羨ましいわ、私もあさの隣にいきたかった」

「こ、今度はなれるよ」


 二人きりになると暗い顔をすることが多いゆみのことだからわざと私の名前を出しているようには見えない。

 じゃあなに? 私が勝手に妄想していただけでこの二人の間にはなにもなかったということ? いやでもそれにしては私を放って二人だけで盛り上がっていたぐらいだし……うーん。

 まあ、何回も言っているようにその方が自然だけどね、寧ろ私を優先してばかりいたらそれは不自然だ。

 ちなみにもかに対して「そうね、そうだといいわね」と自然な笑みを浮かべて返していた。


「それよりあさ、あなた髪の毛が伸びているけど切らなくていいの?」

「あーお姉ちゃんが切ってくれていたけど最近は一緒にいないからね、どっちの方が似合ってる?」


 邪魔なら切る、暑いなら切る、寒いなら伸ばすぐらいの適当さしかそこにはないからどちらでも構わなかった。


「んー長い髪のあなたも短い髪のあなたもどちらも魅力的だけれど……」

「短い方がいいってことならあんたが切ってくれない? 自分でやると失敗しそうで怖いし」


 適当な私でも適当すぎるのは恥ずかしい、それに前髪で既に失敗をしているから任せたいのだ。

 とはいえ、失敗したらというのは向こうもそうだろう、だから無理ならはっきり言ってくれればよかった。

 別に伸ばすことになっても今年は気にならない、暑いけど髪のせいで汗を大量にかくとかそういうこともないからね。


「あさは……んー長い方も短い方も……」

「いやいや、そこまで悩む必要もないでしょ――あんたさっきからそんなに近くで見てきてなによ?」

「私が切る」


 顔が真剣すぎる……。


「どっちでもいいわよ、ちなみにもか的にはどうなの?」

「あ、だけどいまのも似合っているから……うーん……」


 似合っているかとか聞かなければよかった、だって似合っていないと言われたところで変えるつもりもないのにアホだ。


「待って」

「はいどうぞ」

「名前で呼び始めたのね」


 そっちかい、求められたからとしか答えられないぞ。


「よし、それなら現状維持が一番よ」

「なんにも繋がっていないけどあんたがそう言うなら」

「うん、私もその方がいいと思う、そもそも美容師でもないのに人の髪の毛を切るのは……」


 なら伸ばしていくことにしよう。

 どうせすぐに冬なんかはくるからね。




「あ、起きた」

「いつからいたの?」


 奇麗だった髪もボサボサで魅力がなくなってしまっている気がした。

 自分のせいでこうなっているということなら……いやでも出ていっておきながら戻るとか言うのもあれだし、好きな人と上手くいっていないだけなのかもしれないしでうーん……。


「……午前四時ぐらいから、あさはこの時間ぐらいに起きて歩きにいくから動くならこのタイミングかなって」

「なら一緒に歩きましょ」


 ちなみに早起きが得意な私でも流石に四時ぐらいから外に出たりはしない。

 県によっては補導対象になってしまうというのはどうでもいいけど、それだと放課後までに耐えられなくなるから昔にやめたのだ。


「ねえあさ、もう駄目なの?」

「求められていないからよ、出ていったのに自分から戻りますなんてできるわけがないでしょ」

「え、じゃあ動かなかった私が馬鹿ってこと?」

「いや、お姉ちゃん的には正しい選択をしていたと思うわよ? 私なんていても食材が多く減る、電気代が増えるぐらいでマイナスしかなかったんだから」


 日用品なんかも多く用意する必要があるからもっとだ。

 少し出してもらっているとはいえ、出るのを選んだのは自分だからと頑張っている状態なのだから余計な存在は増やすべきではない――と、姉といたいからという理由で住み始めた迷惑な人間は考える。

 ま、まあ、いまはもう出ているから大丈夫だ、ただ、この流れだと姉の場合は……。


「そんなの気にならないから戻ってきてっ」

「しー流石に夏寄りの朝でも迷惑よ、あと――」

「だめー!」

「だ、だから静かにしなさい」


 それと喋ってほしいなら口を押さえるべきなのにどうして抱きしめてくるのか。


「もかの家にいっていたって本当?」

「え? あ、うん、毎日じゃないけど話を聞いてもらっていたよ」

「もかに迷惑をかけることになるぐらいなら戻った方がいいけど、本当にマイナスなことしかないのよ?」


 体温高ぁ、昔からそうだから違和感はないけどなんでここまで違うのかがわからない。

 そんなことを言ったらゆみなんかいつも手が冷たかったりするけどさ、人によって違うとはわかっていても姉妹だからその差が気になったりするものなのだ。

 食べ物の好みなんかは似ているけどね、あ、だけど苦手な食べ物が多い私とそういうのがほとんどない姉という時点で意味ないか。


「そんなことはないよ、あさがいてくれないと嫌だもん……」

「いや、実家にいてくれた方がよかったってお姉ちゃんが言ったんだけど……」

「……でも、もう大人になったから、あさが仲良くしたいならゆみちゃんやもかちゃんと仲良くしても文句は言わないよ……」


 すぐに戻りそうなものの、わかったと言うまでここで抱きしめられたままになりそうだったからちゃんと答えておいた。

 いますぐにということだったから荷物をまとめて移動する、これから学校なのに自由にやってくれる姉だ。


「大好き」

「それは熱烈すぎない?」

「……でも、お姉ちゃんはもう邪魔しないからね」

「そもそも好きな人がいるんでしょ?」

「……そんなのあさに決まっているじゃん……」


 えぇ、好きな人がいると言われてそれは私だ! とはならないでしょ。

 あと、姉は妹として、家族として好きというやつを勘違いしているだけだ。


「だから彼氏君か彼女ちゃんができるまでこうさせてほしい」

「許可が出る前にしているけどね」

「これはほら、なにをするのかを見せているだけだから」

「はは、そうね」


 でも、ご飯なんかが食べたいから離れてもらうことにした。

 今日は作ってくれるということだったから任せて待っているともかからメッセージが、『また戻ったんだね』というそれに苦笑する。

 姉は連絡をするのが早すぎる、それとも、私が寝ている段階からこうすることが決まっていたから連絡をしておいたのだろうか?


「相手はだぁれ?」

「もかよ、早起きなのよ」


 散歩の時間に外で待っていてにこにこしているのだからすごい話だ。

 今年は体感的にそんなに暑くないとはいえ、それでも気になるときもなくはないから強いとしか言いようがない。


「お、やっぱりゆみちゃんよりもかちゃんの方が積極的に動いているよね?」

「なんか変えなければいけなかったみたいよ」

「それはそうだよ、だってなにもしなかったらあさを取られちゃうんだからね」

「私なんて取ってどうすんの? 髪でも切るの?」


 それ以外でメリットは……なんだ? 私がいること? だけどそれなら姉、ゆみ、もかがいてくれることの方がでかいからそれに比べたら話にならないレベルだ。


「あ、髪と言えば少し伸びたよね、切った方がいい?」

「いやいいわ」

「くぅ、姉としてなにもできないなんて……」

「ご飯とか作ってくれているじゃない」


 朝からこれの繰り返しは疲れる。

 だからご飯を食べて、しっかり準備をしてから早めに家を出た。

 いつもなら登校している時間ではないから落ち着く、自由に散歩をできている気がしてルンルン状態だった。


「ごはっ」


 後ろから突撃されるまでは、だったけどね。


「おはようあさ!」


 と、やってくれた人間は最高の笑みを浮かべていたのだった。

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