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225  作者: Nora_
3/10

03

「はい――あ、いま姉はいないので帰宅してからでお願いします」


 時間的にも中途半端すぎる、何故十五時ぐらいに来たのかという話だ。

 だから姉のことを出させてもらった、遅くても十八時までには帰ってくるからそのときに来ればちゃんと相手をしてもらえるだろう。

 疲れている姉に押し付けるのは可哀想だけど私一人でなんとかできないこともあるから頼るしかないのだ。


「なにを言っているの?」

「……他の友達と過ごせばいいじゃない」


 ゆみがゆみをやっている限りは私はその中の一人でしかない。

 となれば、たった一人のために時間を使っていたらもったいないから本人が馬鹿なことをしようとしているならこちらが止めてあげなければならないのだ。


「他の子とはこの前過ごしたわ」

「見たから知っているわよ」


 見ていなかったら普通に迎え入れていたと考えると色々な意味で震えてくる。

 笑みを浮かべて迎え入れているところが想像できるけど、彼女からすれば酷く哀れな存在でしかない。


「あらストーカー? あ、閉めようとするのはやめなさい」

「うわぁ、不法侵入」

「友達が来たのに扉を閉めようとする方がありえないわよ」


 常識として飲み物を出して床に寝転んだ。

 朝の内に課題はやっておいたからゆっくりする権利がある、本当なら姉がいてくれた方がいいけどわがままは言えないから一人でこうしていればいい。

 今日は謎の人物もいるけどね、いやもう切れかける前に来るなんて計算高いというか、大して興味はないというか……。


「で、中野さんとはどうなの?」

「んーお姉ちゃんに興味を持ったところ」

「うのさんに? へえ、意外ね」

「お姉ちゃんは成人しているけど話し方は女子高生で通るぐらいだからね」


 でも、好きな人がいるという話だから好意を自覚して頑張っても一方通行で終わってしまう。

 いまでも遠慮をしているあの子が失恋なんかをしたらとてつもなく酷くなりそうだ、それこそ席に張り付いて三年間が終わりそう。


「それでは頭が痛くなるでしょう? はい、足を使いなさい」

「いい」

「はぁ、なに拗ねているのよ」

「別に」

「あさ」


 静かに名前を呼べばなんでも聞くと思ったら大間違いだ。

 決して拗ねているわけではないけど甘えてしまわないようにうつ伏せに変えたら逆に上に乗られてしまった。


「……重たいんだけど」

「あなただけじゃないのよ?」

「は?」


 いまのは暗に私も重いと言われたようなものではないだろうか。

 これでも食べた後は軽くであっても運動をして努力をしているのにあっさり否定してくれたことになる。


「私だって中野さんと二人で遊んでいるところを見て気になっていたんだから」

「ふーん、あんたストーカーなの?」

「あなたに放置されるぐらいならそうなってもいいかもしれないわね」

「うわ、あんたって本当は怖い子なのね」


 こういうときにちゃんと吐かせておく必要がありそうだ。

 ちゃんと聞いておかないとほとんど知らないまま終わりのときがきてしまう、ずっと関わり続けるつもりでいても相手次第では簡単に終わってしまうから考えてしまう。


「大体、どうして急に近づき出したの?」

「なんか話しかけた方がいい気がしたからよ、実際、あの子は教室で話すことが苦手みたいだったからあの機会を逃していたら友達になれることはなかったわ」


 そうしたら教室でちゃんと合わせようとするけどほとんど一人でいるあの子しか知ることができなかった。


「私だけでは物足りないの?」

「正直、これまではゆみがいてくれれば十分だったわよ」

「ということはいまは違うのね」

「やっぱり安定して一緒にいられる相手が多いのは安心感が違うわよ」


 沢山いる友達と過ごさないという選択を彼女はできないからここではどうにもならない、また、友達よりも自分を優先しろなどと考える人間でもない。

 この前と今回、こんな対応をしておきながらあれだけど私的には二回目まで重ならなければセーフだ。


「冗談よ、私的にもあなたの側に人がいてくれると助かるわ」

「一人になったからって無茶をするような人間でもないけどね」

「どうだか、でも、中野さんなら止めてくれるからいいわ」


 中野がちゃんと止めてくれるなら、はっきりと言ってくれるようになったら私にとってもいいことになる、あとは少しだけでも一緒にいたいと思ってもらえたなら嬉しいかな。


「三人で連絡先を交換しましょう」


 三人で、か、姉のことといい中野とは色々と動かす子みたいだ。


「んー中野が交換してくれるとは思えないけどね」


 ゆみのことがまだ苦手でも直接顔を見なければいけるのだろうか? 少しだけでも本当のところを知ることができたらあの子だって変わっていくはず、上手くやれるかどうかはわからないものの、珍しく役立てるときがきたのかもしれなかった。


「む、難しいかしら?」

「ただ、なんでもそうだけど言ってみないと始まらないからね、来てくれたタイミングで話してみるわ」

「ええ、お願いね」


 よっし、頑張ろう。

 もう少しぐらいはこういうことがあってほしいとわがままな自分もいたけどね。




「え、無理――あっ、秦と交換できたのは嬉しかったけどね」


 とすぐに動き出したのに結果はこれだった。

 なんでよ、そもそも嬉しいって言われるのも怖いわよと言いたくなる。


「ゆ、ゆみは悪い子ではないわよ?」

「滝根が言い出したから怖いんだよ、それに滝根とは友達じゃないし……」

「ならいまから呼び出すから友達になったらいいじゃない」

「む、無理っ」


 なにも机の下に隠れなくても……。

 ソファに座ってどうしたものかと考えていると「む、無理だから」と、頑張ればいつかは……いけるのだろうか?


「地味に家族以外で二人目の連絡先なのよ」

「流石に他の友達と交換ぐらいはしているでしょ?」

「は? そんなの陽キャだけでしょ」

「え、そうなの? 私だって十人ぐらいと――ぶぇ」


 なんかむかつく、それぐらいの余裕があるならゆみに対してだってもっと堂々としていればいいのに。

 メッセージは見ないという約束で見させてもらったら本当に複数人登録されていた、中には家族のもあるだろうけど関係ないぐらいにはいた。

 ものすごい敗北感、心配なんかしなくても勝手にやるんじゃないの? と自分の一部が囁いてくる。


「れ、連絡、取り合ってんの?」

「うん、みんな他校にいっちゃったからスマホを使うしかないからね、あ、夏休みに集まろうって約束をして実際に集まったよ」

「そ、そう」


 おかしいな、私の方は連絡して約束をして集まれた子なんていないけど。

 ゆみが勝手に来ただけだし、それ以外は帰宅した姉とゆっくりしていただけ、学生らしいなんて口が裂けても言えない感じ。

 気にしないタイプならいいものの、私の場合ならまあそれでも楽しめた~などと言ったところで強がっているようにしか見えないところが究極的に残念なところだった。


「でも、友達の中の子の誰とも滝根は違うから無理なんだよ」

「どう違うのよ、ただの女子高生じゃない」


 読書が好き、ご飯を作るのが好き、あとはたまに冷たいけど優しいところもあるというだけだ。


「奇麗で……無表情のときに怖いから」

「うわ、馬鹿にしているじゃない」

「みんな可愛い子だからね」


 どんな軍団よと内で暴れている間に「せっかく交換をすることができたし、迷惑にならない範囲でメッセージを送らせてもらうね」と笑って言ってきた。

 許可は貰えていないけどこっそり教えては駄目だろうか? というか、ゆみにどう説明すればいいのかをまず考えなければならない。

 そのまま伝えると流石に可哀想だからゆみとあった日から中野が家に来ていないと――インターホンが鳴ったから出てみると滝根ゆみさんがいてそれも無理になった。


「こんにちは」

「こ、こんにちは。た、滝根」


 そりゃ中野だってこういう反応になるわ、あと、私が無理やり召喚したように見えるから勘弁してもらいたい。

 責めてくる子ではないだろうけどちくりと言葉で刺されたら後半は引きこもる自信がある、そうでなくても外で遊んでいないのにそんなことになったらもう学生をやめた方が精神的にいいぐらいだ。


「なに?」

「あー……連絡先の件はなしでも……いい?」


 まあ、これについては本当に助かったけどさ。


「中野さんが嫌なら諦めるしかないわよ、それでしたの?」

「うん、秦とは夏休みになる前にしたよ?」


 ひぇぇ、なんでこれには気が付かないのか。

 強いのか強くないのかがまるでわからなくなる、中野と関わっている限りこういうことが続くということなら考えるだけでテンションが下がる。

 まだ自分が睨まれていたり圧をかけられていた方がマシだった。


「受け入れてもらえてよかったわね」

「うん、嬉しいよ」

「でも、断られた身としては寂しいわ、中野さんとだって友達になりたいのよ」


 おー頼んだわけでもないのに周りが勝手に動いてくれるのは楽でいい。

 この子にいい笑みを浮かべて近づいているぐらいが丁度いいのだ、私なんかおまけでいい。

 そもそも私からすればゆみ派だしね中野は、私が一緒にいてほしいと考えるなんてとてもとても……。


「うっ、べ、別に無理ってわけじゃないけど……」

「諦めるしかないというのも本当に無理ならって話であって私としては中野さんが大丈夫なら交換したいのよ?」

「じゃ、じゃあ滝根が……やってくれるなら」

「ええ、ありがとう」


 いいいい、自分とは一切関係のないことで盛り上がっていても文句は言わない。

 ゆっくりしてくれればよかった、なんなら姉が帰宅してからもいていいぐらいだ。

 祭りなんかにはたまには一人で言って、適当なところで座って花火を見ることに決めたのだった。




「おー人が多いわねえ」


 毎回決まった物だけを買って食べて待つ自分だけど今回は少し変えていくことにした。

 それでも早めに会場にいって長く待つというスタンスは変わらない、途中、ゆみや中野を発見したけどこちらが見られることもなく平和に安定のポジションを陣取ることができた。


「あなたはここが好きよね、さ、中野さんも遠慮しないで座って」

「う、うん」


 あー……これはなんともゆみらしいところを見せてくれた。

 中野のことを考えてあげなさいよというのを込めて見てみたら「なに?」とあくまで真顔で聞き返してくれたから別にと返しておく。

 はぁ、やっぱりこのみんなを優先してしまうところが恋愛という点では邪魔になるのだとよくわかる一件となりそうだ。


「あなたイカ焼きが好きよね」

「ゆみ」

「なに? ……ええ、え? いやいや、あなたが勝手に勘違いしているだけじゃない」


 いやでもこうして苦手だと言っていた子と一緒に祭りにいくぐらいなのだからもう少しぐらいは、ねえ?


「秦、これ食べる?」

「いや、私もこうして買ってきているから大丈夫よ、あんたは細いんだからちゃんと食べておきなさい」


 お、お金持ちでもあるのか、両親のためか? 中野ならありえるな。

 そう考えると姉に一つしか買っていない自分が情けなく感じてきた、なんか一緒にいるとこんなことばかりだ。

 それでも途中でわかりやすい態度で帰ったりはしない、そういうことはしないように努力をしてきたからこの点で失敗をしてしまうことはない。


「今年も来られてよかったわ、中野さんの方から誘ってくれたのは意外だったけれどね」

「秦が無――気が付かなかったみたいだからそれなら滝根と……って」


 思い切り見ないでスルーしていたからあまり大人の対応ができているとも言えないけど。

 食べながら適当に人が歩いているところを見ていると「悲しかったわ」と多分私だけに聞こえる声で言ってきて彼女に意識を向ける、でも、他の子がいるところで露骨にやるタイプではないからいつも通りだった。


「あれ、友達から電話が、ちょっと出てくるね」

「うん」「ええ」


 離れた後もすぐに話し出したりはせずに静かだった、向こうが賑やかな分、ある意味絶妙な感じで悪い時間ではなかった。


「あさ……」

「どうしたのよ、せっかく楽しい祭りなのに情緒不安定じゃない」

「……今年も当たり前のように誘ってくれると思っていたのよ?」

「あーだけど中野が可哀想だから、あくまで私がおまけでも私が動けば中野は気にするじゃない」


 誰が誘ったのかが重要なのだ、そして場合によっては邪魔になる。


「だからそれは――おかえりなさい」

「うん、いまから他の友達と集まるって電話だったよ、私は滝根とかと過ごしたいから断っておいたけど」


 ほらとゆみを見てみても今回も効果はなかったけど。

 こうして揃ってしまえば勝手に盛り上がってくれるから話を振られたときだけ話すを徹底した結果、いい気分のまま花火を見ることができた。


「大規模というわけではないけどここの花火は奇麗で好きよ」

「私も毎年いっていたから今年もいけてよかったよ」

「私も」


 さて、帰るか。

 好きな人がいるとのことだったから誘ったりはしなかったけど姉はちゃんとその人と会えたのだろうか? これは中野の件と違って「会いにいってくる」と言って出ていったから勝手な妄想とはならない。


「あさ、今日は泊まってもいい? 中野さんも一緒にどう?」

「私の部屋があるからお姉ちゃんも許可してくれると思うわ」


 姉が嫌かもしれないものの、部屋数なんてリビング的な場所と寝室一つぐらいで十分だった、でも、余裕があるからこうして誘っても騒がない限りは迷惑をかけることはないのはいい。


「私もいいの?」

「いいでしょ」

「な、なら泊まらせてもらおうかな」


 お風呂なんかは自宅で済ませた方がいいだろうからまずは中野の家に寄らせてもらう――って、そうか。


「あんた地味に歩いてきたのね」


 当たり前のように五分もかからずにいけるような場所に住んでいるつもりでいたけどそうではないのだ。


「え? あ、うん、だけどいい運動になったよ」

「元気ねえ」

「ただ、付いてきてもらうのは申し訳ないから走っていってくるね」


 それもそれでどうなのか、これでゆみに付いていってしまったら差を作っているみたいで嫌だ。

 やられる分にはいいけど相手に対してやりたくはない、そもそも私が~というあれがまた出てくるからね。


「いいわ、私は私で動くからあさは中野さんに付いていってあげて」

「いいの? それなら中野いくわよ」


 ま、一人だけ少し遠くから来ているのだからこれは差を作っていることにはならないだろう。

 正直、少し汗をかいていて早くお風呂に入りたいからここでごちゃごちゃさせたくはなかった、中野をお風呂に入らせてさっさと自分も家で入るのだ。


「え、でも……」

「私なら大丈夫よ」

「わ、わかった、じゃあまた後で会おうね」

「ええ」


 外で待っていると彼女の家まで歩いた時間よりも早く出てきた。

 家から出てきたというのに、お風呂上がりだというのにはぁはぁと肩で息をしていて呆れた、ゆっくりでいいと言ったのに届かなかったみたいだ。

 ただ、ゆみを待たせることになったら可哀想だからいくわよとだけ言って歩き出す。

 家が遠くなければ迷わずにゆみと行動していただろうからその点だけは申し訳ない、多分、お風呂だってちゃんと言うことを聞いてゆっくり入ってきたはずだ。


「秦、さっき滝根の様子がおかしくなかった?」

「私があんたにしたのと同じようにスルーしたからよ」


 そうよね? これも言われたことだから勝手な妄想とはならない。


「あ、やっぱり……」

「別に嫌だったからじゃないわ、空気を読んだ結果なのよ? ゆみと仲良くしたがっていたみたいだから出しゃばらないようにしたの」

「確かに仲良くしたいけど秦とだって同じなんだから無視……はやめてほしかったな」

「次からはしないわよ、こうして過ごしている時点で意味ないしね」


 連絡がきてもう外で待っているとのことだったからゆみの家に寄る必要はなくなった、これで後はごろごろのんびりすることができる。

 なんだかんだで過ごせてよかった、話し相手がいないのはそれなりに気になるということがわかったからだ。


「おっかえりー!」

「連絡していた通り、この二人を泊めるから」

「大丈夫だよ! ささ、二人とももうお風呂に入っているみたいだから部屋にいこうか」

「うのさんがおかしいわ」「お、お邪魔します」


 姉ならいつもこんな感じだから気にする必要はない。

 ゆみがいれば中野が自由にやられてしまうということもないだろうから一人お風呂に入ってくることにしたのだった。

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