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225  作者: Nora_
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02

「は、秦」

「こんなところでなにをしてんの? 教室で待っていればよかったのに」

「きょ、教室だと話しづらい……」

「ま、おはよ」


 そう言っている割にはゆみとも普通にお喋りを始めるから不思議な存在だ。

 教室と生徒が通る校門でなにが違うと言うのか、また、みんなと仲がいいゆみと会話できる時点でなにを気にしているのかという話。


「あさ、私は友達のところにいってくるわね」

「うん、いってらっしゃい」


 いま教室に着いたのに速攻でここから出ていくとは物好きだ。

 発言通り、中野のやつは自分の席で突っ伏してしまっているから無理そう、となれば暇だから歩きにいこう。

 そうしたら何故か中野が付いてきて助かった……ようなそうではないようなという感じになった。


「なにが違うの?」

「……ほら、私って普段はほとんど喋っていないから『中野が喋っている』とか言われそうだし……」

「自意識過剰すぎでしょ……」


 彼女にも私にもクラスメイトは全く意識を向けていない、ゆみならまだわからなくもないけど。

 自分の世界に浸ってしまうという発言はこういうところからもきているのだろうか? だとするなら少し厄介かもしれない。

 そりゃ周りの目を完全に気にしないのは無理だけど、気にしすぎても疲れてしまうだろう。


「と、とにかく、秦が出てくれてよかったよ、滝根はまだ苦手だから……」

「その割には友達みたいに話せるじゃない」

「あれは滝根が上手いんだよ」

「ま、ゆみが上手く合わせてくれるというのはその通りだけど、あんたは気にしすぎよ」


 自分で疲れる原因を作ってしまうのはもったいない。

 前々から一緒に過ごしている仲のいい友達でもいてくれればいいけど、いるのだろうか?


「これからもこういうことになる、秦が嫌なら……」

「いや別に嫌じゃないわよ、つか、教室から出ている時点で私とあんたはまるで変わらないしね」

「ありがとう」

「それはやめなさい」


 来月ぐらいには少しだけでもマシになっていればいいけどね。

 本人達が嫌ではなければゆみに協力してもらうのが一番だ、ただ、積極的に離れようとするからまず動いてもらうのに苦労しそうだったりもする。


「割と近いところにいたのね」

「友達は?」

「それよりあなたが急に消えたから気になったのよ」

「教室から出ていったのはあんただけどね。でも、助かるわ、中野のことで頼みたいことがあるのよ」


 こそこそ動かれるよりは目の前でやられた方がマシだろうということでぶつけてみた。


「「頼みたいこと?」」


 と、同じ反応をしてくれた二人、いけるかどうかはゆみ次第だ。


「私もなるけど中野の練習相手になってほしいのよ」

「は、秦」

「あんたの気にしすぎるとこ、こういう機会に絶対になんとかした方がいいからね?」

「でも、別に滝根に頼まなくても……秦がいてくれれば……」


 あ、うーん……これはまた勢いだけで行動しすぎたというやつだろうか?

 とにかくやってしまった感がすごい、それでももう進めたものは止められないから続けるしかなかった。

 きっと後でゆみに「あさのそういうところが駄目ね」と言われるだろうから覚悟はしつつ……。


「上手くできるならそれでもいいけど私じゃ正直足りないところが多すぎるのよ」

「本人にその気がなければ駄目よ、中野さん、あなたはどうしたいの?」

「……滝根は悪いわけじゃないけど秦がいてくれればそれでいいかな」

「ならあさが相手になってあげなさい」


 あ、もう駄目だ、この件で頼むことはできない。

 しつこく頼めばゆみでも怒る、下手をすれば一ヶ月は話せなくなるからここで終わらせなければならない。


「あー……なんか悪かったわね」

「謝らなくていいよ、でも、滝根に迷惑をかけたくないからこういうことはもうない方がいいかな」


 ぐっ、困ったような笑みが突き刺さる、こちらを責めてきていない分やられてしまいそうだ、だというのに今度はいい笑みを浮かべて「秦がいてくれてよかった」などと言ってくれたものだからやられた。


「……なんか怖いわ、なんにもしていないのに私が動いてあげたみたいじゃない」


 私だって動いてくれたゆみにここまですぐに心を開いたりはしなかった、これは本人に言ったことはないけど最初はなにこいつって内や家で言いまくっていたぐらいだ。

 なにもしていないのに近づいてきていたからよくわからなかったのだ、なんか罠にでもハメられるのではないかと不安になって遠ざけようとして失敗した形になる。

 まあ、ゆみが頑張ってくれたからこうしていまでも友達でいられているわけだから感謝するしかないけど。


「秦は友達になってくれたよ?」

「それだってあんたが断れなかっただけかもしれないじゃない、私の家まで歩くことになったぐらいなんだからそうでしょ?」

「いや、あのときも言ったけど途中で帰れたのに帰る選択をしなかったのは私だから」

「あーもう終わりっ、あんたのそういうところもなんとかしないとね」


 私らしくないものの、やっていくしかないか。

 変わることを望まれているよりはマシな状態だった。




「夏休みねえ」


 バイトなんかもできないし、姉もいないし、ゆみを誘っても課題のことしか言わないから退屈な時間が続きそうだ。

 できることと言えば部屋の掃除と課題だけ、いくら現実逃避をしようとやらなければならないから向き合うしかない。


「今日から机が恋人よ……っと、もしもし?」

「秦、今日って時間ある?」


 適当に応答ボタンを押したけど中野か。


「あるけど……あんた本当に学校と家にいるときだと違うわよね」

「い、いいでしょ、じゃあいまからいくから」

「それなら私がいくから待っていなさい」


 よっしゃ、これで少なくとも午前中はつぶせる、その後は適当にアイスでも食べてゆっくり帰ればいい。

 最低限の物を持って家をあとにする、テンションが上っていて走ったりなんかもした。


「秦ー」

「いや中で待っていなさいよ」

「そういうわけにもいかないよ」


 よくわからない、なにが変わるというわけでもないのに変なことをする。

 で、なにがしたいのかはすぐにわかった、買い物にいきたいらしいので今度は大人しく歩いて付いていく。

 途中から引っ越してきたわけではないため、特に目新しさはなかったけど中野が楽しそうだからそれでいいと片付けられた。


「この前雑貨屋さんに寄ったときに可愛い小物があってね」

「へえ」


 おお、そういう女子らしい趣味があったのか。

 まあ、始まりがどうであれ友達になったし、友達のことを知ることができるなら悪い時間とはならない。


「あれ……前はここにあったんだけど……」

「売り切れたんじゃない? お、あんたはこういうのが好きそう」


 ゆみにでも誘われないとこういうところには来ないからそういう点でも新鮮だった。


「可愛い……」

「ぷっ、あんたその緩んだ顔はなによ」


 可愛い物好き、甘い物好きのゆみであってもここまで緩むことはない、また、あの子なら一瞬で元に戻す。

 私的にはそういうところが可愛いと思っているけどそのまま伝えると大体はつねられてきた、だから素直に受け取るようになったらあの子の変わった瞬間を見られたということになる。


「え、や、やばい……?」

「いや、それこそ可愛い、わよ?」

「か、からかわないで」


 可愛いかよ、反応を見て楽しむ人間の前では悪い選択だ――というのはいいとして、お腹が空いたからなにかを食べにいこう。


「別に冗談とかじゃないけどねーあ、なんかお腹が空いたから食べましょ」

「それならかき氷」

「あいよー」


 とかなんとか言いつつ、これをお昼ご飯としてしまうつもりだったから少し物足りなかった。

 あと、氷が食べたければ家の冷蔵庫が作ってくれた氷でいいでしょとか可愛気のない自分もいる。


「くっ、こういうところか……」


 一生ゆみみたいにはなれない、明るい子にもなれない、それでも無駄に敵を作らなくていいからなどと言い訳をしていくだけの人生だ。

 まあ、どうあっても敵ができるぐらいなら意識されない方がいいけどさ。


「ん?」

「いや、お、おう、混んでいるわねぇ」


 つまりそれだけ可愛気のある人間が多い――というのはもういいか。

 売り切れることはないだろうからその点は安心できるけど……。


「学生的には大体が夏休みだから、でも、こうして待っている時間も楽しいよ」

「ぐは……」

「だ、大丈夫? あ、最近は暑いからちゃんと飲み物を飲まないと、はい」

「……ありがと」


 彼女が動けば動くほどこちらが弱ることをわかった方がいい、なんてね。

 飲ませてもらって緩くお喋りをしながら待っていたら順番がやってきた、店員さんなんかには一切気にせずにいけるみたいだからスムーズに注文を済ませてくれた。

 味の方はなんでもいいと答えたら違う物を選んだみたいだ、席に座った途端にスプーンで掬って「はい」と。


「なるほど」

「はは、こういうことがしてみたかったんだ」

「あむ……つ、冷た~……」


 ……いい方にも傾くけど悪い方にも傾くなんとも言えない時間になっていく。


「だ、大丈夫?」

「オーケーオーケー……大丈夫よ」


 勝手に自滅しているだけだから気にする必要はない。

 こうして失敗をしても少しずついい方に変えていけばいいのだ、一人では無理でも誰かがいれば絶対にできる。

 友達が無理でも姉がいてくれることが大きかった。


「はは、秦って面白い」

「は、はあ……?」

「そっちも欲しいな」

「あんた……よくなってきたわねえ、はい」


 な、なんだこの気持ちは、ちゃんとわかってしまったら駄目なことかもしれない。

 一人良くない方向でゾクゾクしていないでさっさと食べてしまおう。

 ま、かき氷の方は美味しかった、冷房が効いているのもあって少し寒く感じてきてしまったぐらいだけど。


「美味しかった」

「そうね」


 なにかを食べたい欲も落ち着いた。

 となれば、お金をそう消費しなくていいからお財布的にも優しかった。




「あ、鳥だ」

「猫だ」

「ワンちゃんだ」


 先程から元気いっぱいすぎる、そしていちいち小さなことに反応しすぎだった。

 というか、猫とか犬とか単体でいすぎだ、ここら辺は実はあまりよくない場所なのかもしれない。


「お、滝根だー」

「あんたねえ……って、本当にいるじゃない、友達といつでも仲良さそうねー」


 は? いやいや、課題をやるから遊べないって言っていたのにいいのかこの裏切りは……。

 確かに課題をやらなければならないなら集まらないと断ったのも私だけど、いやでも、もし参加していたら中野と過ごせていなかったわけだし……。


「うーん……」

「いいよ?」

「は?」


 急すぎて付いていけない。


「滝根と遊びたいならいっていいよ? ここで解散になっても十分楽しめたから満足できたよ」


 そういうこと、はぁ、黙ったからなのか?

 問題なのは学校にいなくても出てしまっていることだ、あとはゆみとかあまり仲良くもない人間がいるわけでもないのに遠慮をしていることだ。


「いや、友達の友達と過ごすとか気まずいからいいわよ」


 誰に対しても気にせずにいけるならゆみといられないときに一人の時間が多くなったりはしていないのだ。

 そりゃ合わせることはできるけど初日ぐらい気を使わないでいたい、となれば、参加なんかするべきではない。

 相手だってゆみと遊んでいるのに友達だからということで変なのが急に参加してきたら困るだろう。


「いいの?」

「というか参加しておいて途中で他のグループに~なんてできるわけがないでしょ、私をなんだと思ってんの?」

「え、私と滝根だったらまだまだ話にならないぐらい滝根のことが好きだろうから言ったんだけど……」

「はぁ、誘って私が受け入れたんだから堂々としておけばいいのよ、いくわよ」


 やめやめ、参加しなかったのはこちらなのだからゆみが悪いわけではない。

 少し離れたら落ち着けた、何故かこちらの袖を遠慮がちに掴んできているから離れることがないのはよかった。

 毎回変なことを言ってくるわけではないから複雑さもどこかにやれたのだ、彼女はもっと堂々としていればいいのだ。


「は、秦」

「んー」

「秦の家にいってみたい」

「なにもなくていいなら」


 家まで連れていってリビングと呼べそうなところでゆっくりしていると「お姉ちゃんの帰宅だー!」とやたらと元気な姉が。

 もちろん姉の存在に中野が驚く、それでも出ていったりはしなかったからよかった。


「え、私とあさの家に知らない女の子がいる……」

「この前一緒にご飯を食べた子よ、中野もかって名前なの」

「は、初めまして」

「私とあさの家に……なんてね、うのって名前だからよろしく!」


 陽キャ人間の姉に任せて歩いて疲れた足を休ませる。

 んーただやはり自分勝手だとはわかっていてもゆみのことは気になってしまう。

 連絡先は交換してあるからメッセージでも送れば反応してくれるだろうけど淡々と対応されたら今度会ったときに話しづらくなりそうだからなんとも、姉なんかに言っても私が悪いと言われるだろうし、なにより中野が気にするだろうからできない。

 だから結局先程と同じで抑え込んでやるつもりだった課題をやっていくことにした。


「もかちゃんは料理ならなにが好き?」

「焼き鮭が好きです」


 りょ、料理……よりも好きな食べ物と言った方がしっくりくるけど。

 あー駄目駄目、流されてはいけない、少しぐらいは初日の内にやっておくのだ。


「お、それなら丁度冷蔵庫にあるんだ、だからいまから作ってあげるね」


 流石に嘘だと決めつけて姉を見ていたら本当に冷蔵庫から出してきて驚いた、昨日の朝だって食べたのにまた補充していたらしい。


「あ、ありがとうございます、手伝います」

「お、それなら一緒にやろうっ」


 自分の部屋でやるか。

 場所を変えればやる気も出る、もう課題モードになっているから邪魔になる物はなかった。

 おかげで最初考えていたよりも進められて、美味しいご飯を物凄くいい気分で食べられた。


「あさ、お姉ちゃんはもかちゃんを送ってくるから」

「まあ待ちなさい、それなら私もいくわよ」

「それなら二人でもかちゃんを送ろー」


 少し子どもなところがあるから小さな枝を拾って軽く振りながら歩く姉、中野の方は私の隣で姉が優しいと何回も言ってきていた。

 謎に感謝されるぐらいならチョロくても姉に懐いてもらえた方がいいから許可を貰ってから連絡先を教えておいた。

 うんうん、自分よりもわかりやすく魅力的な人間と仲良くする方が自然だからね、友達になってくれとは頼んだけど不自然だからこれでいいのだ。


「ありがとうございました、秦もありがとう」

「うん、ま、暇だったらまた連絡してきなさい、あ、お姉ちゃんなら今日みたいなのはレアだから夕方頃に来なさい」

「わ、わかった。それではこれで失礼します」


 もうゆみが他の子と楽しそうにしていたことなんてどうでもよくなった。

 今日は気持ち良く寝られる、寝たら効力が切れるとしても悪い状態のまま重ねるよりはマシだ。


「ねえあさ、私――」

「お、中野に興味でも持ったの?」

「え? あ、もかちゃんはいい子だけどそういうのじゃなくてさ、なんか寂しい気分になったんだ」


 は? あれだけにこにこ楽しそうだったくせになにを言っているのか。

 笑っていたと思ったら急に泣き出したりする情緒不安定なところもある人だけど今日は全くそんなことはなかったから付いていけない。


「だって友達が増えたということはお姉ちゃんからどんどん離れていっているということだから……」

「ゆみの姉じゃなくてよかったわね」


 ゆみの姉だったら日本と外国ぐらいの距離に感じていただろう。

 ま、これだって姉基準で姉が勝手に話しているだけだからあまり意味はないけど。


「なんでゆみちゃんが出てくるの?」

「はぁ、だって私と違って友達が多くいるでしょ?」

「ゆみちゃんは関係ないよ、あさと私の話をしているんだからふざけないでほしいな」


 あー一度こういうモードになったら言い返そうとしないで合わせておく方がいいな。

 正論であれどうであれ、合わせておかないと大袈裟でもなんでもなく朝のおかずが消えたりする。

 起床時間が違うのもあって夏休みなんかは食べないこともあるものの、夜ご飯の方でやられたら悲しくなるからそうするのだ。


「そもそもお姉ちゃんとしてはゆみちゃんと仲が良すぎるのもちょっとね……」

「そう言われても困るわよ」


 あの子は昔からの友達なのだから自ら離れることを選べたりはしない。


「なんてねっ」

「はぁ、もうそういうのやめなさいよ」

「だって妹がちゃんと他の子と仲良くできていて文句を言うわけがないじゃん!」


 はぁ、冗談でもやめてもらいたい。

 離れるのは無理、でも、姉にお世話になっているから少しぐらいは言うことを聞かなければならないという風になる。

 中野といるのはやめるぐらいなら、姉の方に興味を持っているいまなら頼まれたらやってしまうかもしれない。


「んーゆみちゃんもいいけどもかちゃんとお付き合いをするのも面白いかもしれないねー」

「同性同士だけど」

「昔、あさが寝ぼけているときに同じような話をしたら『同性同士とか関係ないわよ』って答えてくれたよ?」

「って、私の話?」

「そうだよ? あ、私も好きになったら同性とか関係ないと思うけどねー」


 おお、これは中野的にも大きいだろう。

 いい方に傾いてくれることを願っている、私もその途中でちょろっとぐらいは仲良くできればそれでよかった。

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