01
急いで帰っても仕方がないから職員室に用がある友達が出てくるのを待っていた。
ただ……なかなか出てこない、担任の先生と話すだけでどうしてここまで時間が経過しているのかという話、変な関係というわけでもないし、話を聞いた分では物凄く大事な話をするわけではないみたいだから謎だ。
「ありがとうございました、失礼します」
やっと出てきてなんとも言えない感情が内を染めた。
いやでもこちらが勝手に付いていっただけだから内だけで片付けて近づく。
「疲れた……」
「お疲れ様、だけどなんでこんなに長かったの?」
「なんか凄くお礼を言われたの、普通のことをしているだけだからと言っても聞いてもらえなくて……」
「ま、あんたが頑張っているのは本当のことよね」
「あなたまで……そんなのじゃないわよ」
んーまあ、この子に自信満々でいろと言っても難しいだろうから終わらせて学校をあとにした。
学校から三十分ぐらい歩かなければならないから片付けたはずのなんとも言えないやつがすぐに出てくる。
自転車登校をすればいいとわかっていもわざわざ買ってまでなんとかしたい距離ではないわけで、結局はこうして時間をかけて登下校しているのが現実だった。
「あれ」
「ああ、同じクラスの中野ね」
中野もか、ぼっちともそうではないとも言えないレベル、話しかけられたら反応する程度の人間、基本的にクラスメイト全員と安定して話せる彼女でもそう上手くはやれないある意味高レベルの人間だった。
いちいち冷たい反応をするわけでもないし、非協力的気でもない、ただ……。
「ちょっと話しかけてくるわ」
放課後になったらすぐに消える人間だからなかなかに珍しい、なんか話しかけておけって内の自分が囁いてくるのだ。
滝根ゆみ、彼女は珍しく参加しないことを選んだ。
「ねえ」
「ん……? あー……同じクラスの……なんだっけ」
「秦よ」
「ああ」
いや多分これはわかっていない、でも、そこはどうでもいいか。
「なにをしていたの?」
「花を見ていただけ」
「へえ、花とかに興味あるんだ?」
「育てようとは思わないけど結構好きだよ、それより滝根のこと放置していていいの?」
「それなら大丈夫、あの子、待つことが好きな子だから」
これは適当に言っているわけではなく、実際にそうだから口にしているだけだ。
過去に急に母から◯◯をやってからゆみの家にいけと言われて二時間ぐらい待たせてしまったことがあった、それでも怒らずに寧ろにこにこしていたぐらいだ――あ、当然謝ったけどね?
「いやよくないでしょ、私もいくから戻ろうよ」
「はは、やっぱり中野は想像通りの人間ね」
「え、なんか悪く言われている感じ?」
「いや、全くそんなことはないから安心してちょうだい」
慣れない存在が参加してもゆみは上手く会話をしていた、おかげで長い距離も気にならなかった――のはいいけど……。
「ねえ中野、想像でしかないけどあんたの家ってここら辺にないわよね?」
「そうだけど、歩くのは好きだからいいよ」
「……送るわ」
断れない性格なのか、そのままなのかはわからないけど悪いことをした。
冷たくするタイプではないからこそだ、初回で失敗してしまうとは……。
「え、別に私の意思でここまで付いてきたんだから気にしなくていい――あれ? 滝根、この子っていつもこういう感じなの?」
「そうよ」
「なるほどね、なら送ってもらおうかな」
が、中野の大人のところに助けられた形になる、自分のためでしかないけど謝罪をしておいた。
「中野、なんで基本的に一人なの?」
「面倒くさいとかじゃないよ? ただ、すぐに自分の世界に浸っちゃうんだよね」
「なるほどね」
「今日のご飯はなににしようかなとか、今度あそこのお店にいってみたいとかそんな感じかな。秦は?」
すごい平和な内容だった、だからこそ大して変わらないのにもったいない感じがしてきてしまう。
「私はゆみの方から来てくれるから一人になることはほとんどないわね」
「いいことだね、そういう友達がいるの羨ましい」
「動いてみたらいいんじゃないの? あんたならいけるでしょ」
「うーん……そうかな」
「いけるわよ」
いけるいける、いまのままでいればあっという間に友達はできる。
というか、少し笑みを浮かべて友達になりたいとでもぶつけてやれば友達なんて余裕で作れるのだ。
毎回ゆみが見せつけてくれている、あの子の場合はただ相手をしているだけで勝手に相手がそうやって動いてくるけども。
「あ……」
「はは、可愛い音ね」
「うーん……あ、秦も食べていきなよ」
「え、それは駄目でしょ」
そもそもなんのために付いてきたと思っているのか、申し訳ないことをしてしまったからなのにご飯を食べさせてもらうのは変だ。
少し不思議ちゃん……なのだろうか? 天然? 抜けているところがある? とにかく甘えるわけにはいかない。
「ちょっと頼みたいことがあってね、実は昨日、多く作りすぎちゃって食べるのに苦労しているんだよ。それでほら、冬というわけじゃないから悪くなっちゃうからさ」
「多く作りすぎちゃったって現実でもあるのね」
作られた世界の中だけの話とまでは言わないものの、上手くコントロールして片付けてしまうものだと思っていたから意外だ。
「あるよ? 毎回やる気が一定というわけじゃないから多く作って楽をしようとするときがあってね。とにかくお願い」
「い、いや、そういうわけには――ねえゆみ、中野ってこういう子なの?」
「滝根はいないよ?」
「……わかっているわよ、だけど貰うわけには――あー……」
結局、上がらせてもらってしまったうえに食べさせてもらうことになってしまった。
ご飯の方は美味しかった、何回も食べたくなるぐらいにはレベルが高かった。
「……ありがと、美味しかったわ」
「ううん、秦こそ食べてくれてありがとう」
「あー」
まあ、断られたら断られたでもう近づかなければいいだけなのだからここで動かない方が損だ。
ゆみが自然と来てくれるとは言ったけど友達が多い分、一緒にいられない時間もあるから寂しくなることも多い、そんなときに彼女といられたら違うのではと考えている自分がいる。
「ん?」
「さっきの話だけど、友達……にならない?」
はいいものの、自分から動くことがこんなに恥ずかしいなんて初めて知った。
ゆみから勝手に近づいて来てくれたことにかなり感謝しなければならないのだと今更わかった。
「いいの? 私、つまらないと思うけど」
「そんなことないわよ」
「ありがとう、嬉しいよ」
「あんた嬉しいは嘘でしょ……」
「え、嬉しいけど」
ま、まあ、悪く言われているわけではないからいいか。
洗い物ぐらいはやらせてもらって中野家をあとにした、家に着いたらお風呂を溜めてから少し腹筋運動をする、食べた物はこうして少しだけでも対策しておかないと太るから駄目だ。
「ただいまー」
「おかえり」
「あさ!」
「もう夕方だけどね、あ、ご飯は友達の家で食べてきたから」
この人は母ではなく姉だ、私は姉の家と姉にお世話になっている。
別に両親と仲が悪いわけではないけど姉の方が好きだから付いてきたのだ、同じ市の近いところだから困ることはなかった。
「なんでそんなに遠回しな言い方をするの? ゆみちゃんのお家で食べてきたって言えばいいのに」
「今日友達になった子なのよ」
うん、やっぱり自分から頼んだからまだうわー! と叫びたいそれが残っている。
「へえ! いいことだね!」
「お風呂溜めておいたから先に入りなよ、なにか作っておくから」
「いやいいよ、あさが入ってきて」
「なら一緒に入る?」
「それならいいね!」
ということで、大して広くない湯船に二人でつかってさっぱりしてから部屋に戻ってきた。
ここは姉とは別だから狭いわけではない、が、私的には一緒でよかった。
「あさ、今日はここで寝てもいい?」
「うん」
「よし、それならもうずっとここにいるね」
「ご飯は?」
甘い物が好きだけど菓子パンなどを買ってくる人ではないし、時間的にもなにかを作って食べたわけでもない。
「今日はいいや、最近、あんまり食欲がないんだよ」
「それは駄目よ、いまから作ってあげるから食べて」
「あさが作ってくれるなら食べる」
作戦だったとしてもちゃんと食べてくれるならそれでよかった。
姉の家に来る前に練習をしておいたから困ることはあまりない、わからないならスマホを見れば一発だ。
少しお腹が空いてきてちょっとぐらいは食べてもいいかもなんて揺れ始めたものの、なんとか耐えることができた。
「私、好きな人ができたんだ」
「え、それで食欲がなかったの?」
「うーん……そこが繋がっているのかどうかはわからないけど好きな人ができたのは本当のことだよ」
ほーそうか、まだ好きな人ができたという段階だけどおめでたいことだ。
他の人に興味を持つことは大切だからだ、一人ではやはり生きていけないからだ。
「だからね?」
……そう口にしてから一分が経過した、なにも言わずに律儀に待っている私もあれかもしれない。
「やっぱりなんでもない、こういうのは自分のペースというものがあるからね」
「そ、そう」
「よし、歯を磨いてあさの部屋にいこう!」
そこからは緩くお喋りをしたり、部屋にある少ない本を読んだりして時間がきたら寝た。
結構早く寝て早く目が覚めるタイプだから早い時間なのをいいことに軽く散歩をするのが日課だ。
「おはようございます」
「おはよう、今日も早いねえ」
「はい、この時間が好きなんです」
名字や名前は知らないけどいつも挨拶をするお婆ちゃんだ、家の前に置いてある椅子に座ってくれていると安心する。
朝から安心して少し調子に乗って歩く距離を伸ばしたら後悔したけどね……これから登校しなければならないのになにをしているのかと呆れた。
「いってきます……」
「いってらっしゃい!」
姉は朝から元気でいい。
あの笑みを見られて少し回復した足で学校に向かった。