第九話 消えるメガネ
朝ごはんを食べた後、ボク達はトランプやバランスゲームなどアナログな遊びを堪能した。お昼ご飯も引き続きサクシェフのパスタを頂き、夜はバーベキューだった。そらそろ、お開きにする頃、田嶋くんは寂しげな顔をしていた。
「また今日みたいな何でもない1日をサクさん、蒼井さんと過ごせたらいいな」
「いつでもできる。田嶋も色々抱えてそうだけどよ、少なくとも俺とはるみはそんなもんどうだっていいんだ。気楽にいてくれ。お前、酒注ぐのもうまいしなっ!」
「また部下扱いして…。 ボクも今日すっごく楽しかった」
ボクは久しぶりに筋肉のつっぱりを感じず、笑顔になれた。
「それだよ、はるみ。そうやって、何も考えず笑ってろ。笑った顔の方が可愛いぞ。ついでにその鬱陶しそうな前髪も切れ」
「うんうん、僕もそう思うな。そんな蒼井さんが好きだな」
「え……」
サクとボクは固まる。
「え!? あ、ち、違うよ? 自然に笑った蒼井さんの方が良いなって事だよ?」
「あー、そういうことか! びっくりしたぜ。いきなりの告白かと思ったわ」
「うんうん、ボクも言われてなさすぎて何て返そうか迷った」
3人で和やかに笑っていると、
「はるみ明日、前髪切ってこいよ」
サクが話を戻した。
(チッ。流せると思ったのに)
「気が向いたらね〜」
ボクは目を逸らし空返事。
「女の子の髪の毛を切るタイミングは、自分で決めたいよね」
ボクの反応を察して、フォローする田嶋くん。それでもサクは曲げない。
「いや、切れ。思ってたんだよ。前髪を上げた時、必要以上に嫌がってだろ。ニキビとか肌荒れも出来てなかったし、何か傷になってるわけでもないし、何か別の理由があるんじゃないかと思ってな。言いたく無かったら言わなくてもいいけど・な!」
カコンッ!
サクは空になった缶ビールをゴミ箱へ投げ、綺麗に入った。
「いや、言いたくないわけじゃないんだけど… サクは知ってると思うけど、ボクは人の思考が少し見えるんだ。そのキーが、前髪。正確に言うと、目でその人の目を見ればなんだけど。前髪もそうだけど、メガネだったり、何か1枚フィルターがかかると見れない。人の思考って見るもんじゃないよ、ほんと。要らない能力だし。メガネかけようかと思ったけど、ボク3.0と4.0だからさ、メガネかけたら、付いている埃の粒子まで見えて気持ち悪いんだよね」
流石に二人共ちょっと引いてる顔をしている。分かる、ボクも。超能力を持っているせいなのか、何故なのかは分からないが、視力が2.0だと分かった時に、お父さんがこれはもっと見えているのかも知れないと、詳しく調べてもらえるところまで行ったから分かったのだが。ボクはこれが普通だと思っていた。別に見ようとして見なければ生活に支障は出ない。だが、メガネはどうしても必ずレンズを通して見ないといけないから、ストレスなんだ。
サクは何か思いついた顔をする。
「あ、俺。ガラクタ作るの好きなおっさん知ってるけど、一回聞いてみようか? まぁガラクタばっかだし、あんまり期待はできないけど、確かこの前マジックだとか言って、マスクを顔に装着した途端消えるマジック見せてもらったんだよ」
「もしかすると、メガネもその要領で作れそうだね。凄く胡散臭いけど」
そうだよなぁ。田嶋くんもそう思うよなぁ。ガラクタ作るの好きなおっさんから好印象持つの結構厳しい。でも、前髪を下ろしてると目に髪の毛が入って痛いし、痒いし、メガネも着けても消えるなら試してみたい。
「どうする?はるみ」
「一度会って見たい。そのおじさんに」
「分かった。俺の家の近くのログハウスに住んでいるから、明日行ってみるか」
そうして、ボク達は明日、ガラクタおじさんに会いに行く事になった。お腹も満たし、あまり遅くなると田嶋くんのご両親が心配しない様、片付けをしてサクと田嶋くんは帰って行った。
さっきまでサクと田嶋くんの声が聞こえていたのが、耳に少し余韻が残っている。友達なんかずっと居なかったし、お父さんとお母さんも居なくなってしばらく経つ。一人の時間は慣れた物だったのに、たった1日過ごすだけで、こんなに名残惜しく感じるなんて。いや、待てよ。サクと田嶋くんは友達なのか?
サクに伝えた場合。
「友達? 友達じゃ嫌か? 彼氏になってほしいとか? あー、それは考える時間が要るなぁ」
今更何言ってるんだと言う反応だろうな。イケメンスイッチ入ってちょっと腹立つけど。
田嶋くんに伝えた場合。
「僕は友達と思ってもらえると嬉しいです。蒼井さんと仲良くなりたかったから…」
優しいし、人の気持ちを汲み取れる人だから、こんな感じだろうな。
そっか…。ボクの勘違いかも知れないけど、やっと友達ができたんだ。大事にしないと今を。
一人の時間に耐え切れず、ボクはお風呂に入りすぐに寝ることにした。
翌日、例のガラクタおじさんのところに着いたが…
トントントン
「おっさーん、いるかぁ?」
サクが、ドアをノックして呼びかけるが返答が無い。ログハウスと聞いていたが、本当にログハウスだ。漫画やアニメなどに、秘密基地と称して作られるログハウスとすごく似ている。
トントントン
「居ないのかー?」
返答が無い。突然来たんだ。留守でもおかしくは無い。
「いねぇな」
「また明日来ましょうか」
ボクは大人気なく、少し拗ねてしまった。
「また明日こりゃあ良い」
サクがボクに元気づけてくれるが、今日は夕勤だけだが、明日は早朝と夕勤がある。だから明日は行けないのだ。
「明日、朝と学校終わりバイトあるから行けない。しかも明日から土曜日まで」
トボトボと、ガラクタおじさんの家を後にするが、その時。
ギー…
音が鳴る方へ目を向けると、
「普通に出てきてるよ、おじさん」
「もしかして、若い3人が押し掛けて怖くなって、居留守してたんですかね」
「いや、まぁ取り敢えず行こう」
サクが何か言いたげだったが、おじさんの家に向かった。
「おぉ、おっさん。元気か?」
おっさんと呼ばれていたが、見た目ではおじいさんと言った方が合っている。
「…」
キー…
(また家に戻るんかいっ!)
絶対サクと目があっていたが、何も言わずに家に入ろうとするおじさん。サクのことを、覚えていないとか? サクはおじさんの腕を掴み、耳元でうるさい掃除機の様な声で
「おっさん!元気だったか!」
と言った。
そうすると、おじさんは
「あぁ、サク。元気じゃよ。目の前におるのに何も喋らんから、用がないなら家に入ろうとしたんじゃ」
(大丈夫か、この人…。完全に耳遠くなってる)
「わりぃ! なんかボーッとしちまってさ。で、今日来たのも、メガネをかけても透明になるヤツ作って欲しくて来たんだ。作れるか?」
「おぉ。それならお前さんに見せた、透明マジックを使えそうじゃな」
サクは人当たりがいいが、お年寄りにも気を遣えるんだ。聞こえてない事を言ってあげる優しさもあるが、それによって聞こえるようになる訳じゃ無い。それならわざわざ言う必要もないと言う事だろうな。おっと、ガラクタおじさんの様子が…
メキメキッ!! キラリンっ。
「よし、設計図は頭に出来上がった。作業に取り掛かるからお前さんたちも中に入りなさい」
ガラクタおじさんは、顔が20代並みに若くなり、服がはちきれ、筋肉が肥大し触りたくなるような腕になっている。
(なんだか似ている気が…… 気のせいかな)
ボクはそれ以上は考えないようにした。
ログハウスに入ると、発明品で溢れかえっていた。家具はテーブルとソファのみ。ある意味、生活感の無い家だ。ボクたちは辺りを物色しながら、ガラクタおじさんの背中を見守る。
早速ガラクタおじさんは、作業に取り掛かろうとするが、肝心のメガネの素材があるように思えない。どうやって作るのか…。
すると、作業台になかったはずのメガネがいきなり現れた。ん? これ、ボクの能力に似ているけど、もしかして能力者!? マジックって聞いたし、能力者という事を隠すためにそう話していたのかもしれない。
その後も発明品の隙間から取り出したガラスをメガネのフレームに嵌め込み、ボクの顔に合わせサイズ調節をして、メガネ自体は完成した。はて? 設計図とは?
ボクは我慢できずにガラクタおじさんに
「おじさん、超能力使えるの?」
と聞いてしまった。
ガラクタおじさんは、
「へ? 何のことじゃ?」
と、若返った顔に似合わない声と口調で、分かりやす過ぎるぐらいの恍けた顔で、ボクを見る。
「いや、さっきいきなりメガネのフレームが作業台に現れたから…」
吐かせようとボクも折れずに問い詰める。だが、ガラクタおじさんは、
「何言っとんのじゃ、嬢ちゃん。 今作ったのじゃよ、ワシが。今!」
何かバレるのを恐れて、言い分を曲げない子供のようだ。これ以上聞いても、無駄だと感じて、ボクはそこで問い詰めるのはやめた。
「よし、ここからマジックじゃ。嬢ちゃん、着けてみなさい」
渡されたメガネを言われる通り装着すると、
(うげ… 細かい木屑と、埃がいっぱい着いてる…)
レンズに付着している物で、気分が悪くなりそうだ。本当にこれが綺麗さっぱり見えなくなる物なのか。ボクは心配だったが、まだマジックが残っていることに期待を持ち、
「おぉー」
と、とりあえず言っておいた。
「さ、嬢ちゃん。目を瞑ってもらえるか?」
言われるがまま目を瞑るが、どのようにマジックを使うのか見たくて、バレない程度の薄目を開けてやる。ガラクタおじさんの横に立つ、サクと田嶋くんも興味津々だ。
「これはタネも仕掛けも無い、レンズを付けただけのメガネじゃ。だが、スリー、ツー、ワンと3つ数を数えると…」
パンッ!
ガラクタおじさんが手を叩いた瞬間、ボクの目の前は、埃や木屑が無くなり、透き通った景色が見える。
「おぉーー! 消えたぞ! 本当にどうやってるんだこれぇ」
サクは大喜び。成功したんだな。でも何か違和感を感じる。これは作り出すというより、生み出した感覚だ。身体の奥に感じる波動といい、この見た目、サクに似ているんだ。田嶋くんもボクと同様、あまり驚いていない。さっきまでのウキウキした顔は何だったのだろう。
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