表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/45

第九話 消えるメガネ

 朝ごはんを食べた後、ボク達はトランプやバランスゲームなどアナログな遊びを堪能した。お昼ご飯も引き続きサクシェフのパスタを頂き、夜はバーベキューだった。そらそろ、お開きにする頃、田嶋くんは寂しげな顔をしていた。


 「また今日みたいな何でもない1日をサクさん、蒼井さんと過ごせたらいいな」


 「いつでもできる。田嶋も色々抱えてそうだけどよ、少なくとも俺とはるみはそんなもんどうだっていいんだ。気楽にいてくれ。お前、酒注ぐのもうまいしなっ!」


 「また部下扱いして…。 ボクも今日すっごく楽しかった」


 ボクは久しぶりに筋肉のつっぱりを感じず、笑顔になれた。


 「それだよ、はるみ。そうやって、何も考えず笑ってろ。笑った顔の方が可愛いぞ。ついでにその鬱陶しそうな前髪も切れ」


 「うんうん、僕もそう思うな。そんな蒼井さんが好きだな」


 「え……」


 サクとボクは固まる。


 「え!? あ、ち、違うよ? 自然に笑った蒼井さんの方が良いなって事だよ?」


 「あー、そういうことか! びっくりしたぜ。いきなりの告白かと思ったわ」


 「うんうん、ボクも言われてなさすぎて何て返そうか迷った」


 3人で和やかに笑っていると、


 「はるみ明日、前髪切ってこいよ」


 サクが話を戻した。


 (チッ。流せると思ったのに)


 「気が向いたらね〜」


 ボクは目を逸らし空返事。


 「女の子の髪の毛を切るタイミングは、自分で決めたいよね」


 ボクの反応を察して、フォローする田嶋くん。それでもサクは曲げない。


 「いや、切れ。思ってたんだよ。前髪を上げた時、必要以上に嫌がってだろ。ニキビとか肌荒れも出来てなかったし、何か傷になってるわけでもないし、何か別の理由があるんじゃないかと思ってな。言いたく無かったら言わなくてもいいけど・な!」


 カコンッ!


 サクは空になった缶ビールをゴミ箱へ投げ、綺麗に入った。


 「いや、言いたくないわけじゃないんだけど… サクは知ってると思うけど、ボクは人の思考が少し見えるんだ。そのキーが、前髪。正確に言うと、目でその人の目を見ればなんだけど。前髪もそうだけど、メガネだったり、何か1枚フィルターがかかると見れない。人の思考って見るもんじゃないよ、ほんと。要らない能力だし。メガネかけようかと思ったけど、ボク3.0と4.0だからさ、メガネかけたら、付いている埃の粒子まで見えて気持ち悪いんだよね」


 流石に二人共ちょっと引いてる顔をしている。分かる、ボクも。超能力を持っているせいなのか、何故なのかは分からないが、視力が2.0だと分かった時に、お父さんがこれはもっと見えているのかも知れないと、詳しく調べてもらえるところまで行ったから分かったのだが。ボクはこれが普通だと思っていた。別に見ようとして見なければ生活に支障は出ない。だが、メガネはどうしても必ずレンズを通して見ないといけないから、ストレスなんだ。


 サクは何か思いついた顔をする。


 「あ、俺。ガラクタ作るの好きなおっさん知ってるけど、一回聞いてみようか? まぁガラクタばっかだし、あんまり期待はできないけど、確かこの前マジックだとか言って、マスクを顔に装着した途端消えるマジック見せてもらったんだよ」


 「もしかすると、メガネもその要領で作れそうだね。凄く胡散臭いけど」


 そうだよなぁ。田嶋くんもそう思うよなぁ。ガラクタ作るの好きなおっさんから好印象持つの結構厳しい。でも、前髪を下ろしてると目に髪の毛が入って痛いし、痒いし、メガネも着けても消えるなら試してみたい。


 「どうする?はるみ」


 「一度会って見たい。そのおじさんに」


 「分かった。俺の家の近くのログハウスに住んでいるから、明日行ってみるか」



 そうして、ボク達は明日、ガラクタおじさんに会いに行く事になった。お腹も満たし、あまり遅くなると田嶋くんのご両親が心配しない様、片付けをしてサクと田嶋くんは帰って行った。


 さっきまでサクと田嶋くんの声が聞こえていたのが、耳に少し余韻が残っている。友達なんかずっと居なかったし、お父さんとお母さんも居なくなってしばらく経つ。一人の時間は慣れた物だったのに、たった1日過ごすだけで、こんなに名残惜しく感じるなんて。いや、待てよ。サクと田嶋くんは友達なのか?


 サクに伝えた場合。


 「友達? 友達じゃ嫌か? 彼氏になってほしいとか? あー、それは考える時間が要るなぁ」


 今更何言ってるんだと言う反応だろうな。イケメンスイッチ入ってちょっと腹立つけど。


 田嶋くんに伝えた場合。


 「僕は友達と思ってもらえると嬉しいです。蒼井さんと仲良くなりたかったから…」


 優しいし、人の気持ちを汲み取れる人だから、こんな感じだろうな。


 そっか…。ボクの勘違いかも知れないけど、やっと友達ができたんだ。大事にしないと今を。


 一人の時間に耐え切れず、ボクはお風呂に入りすぐに寝ることにした。


 翌日、例のガラクタおじさんのところに着いたが…


 トントントン


 「おっさーん、いるかぁ?」


 サクが、ドアをノックして呼びかけるが返答が無い。ログハウスと聞いていたが、本当にログハウスだ。漫画やアニメなどに、秘密基地と称して作られるログハウスとすごく似ている。


 トントントン


 「居ないのかー?」


 返答が無い。突然来たんだ。留守でもおかしくは無い。


 「いねぇな」

 「また明日来ましょうか」


 ボクは大人気なく、少し拗ねてしまった。


 「また明日こりゃあ良い」


 サクがボクに元気づけてくれるが、今日は夕勤だけだが、明日は早朝と夕勤がある。だから明日は行けないのだ。


 「明日、朝と学校終わりバイトあるから行けない。しかも明日から土曜日まで」


 トボトボと、ガラクタおじさんの家を後にするが、その時。


 ギー…


 音が鳴る方へ目を向けると、


 「普通に出てきてるよ、おじさん」

 「もしかして、若い3人が押し掛けて怖くなって、居留守してたんですかね」

 「いや、まぁ取り敢えず行こう」


 サクが何か言いたげだったが、おじさんの家に向かった。


 「おぉ、おっさん。元気か?」


 おっさんと呼ばれていたが、見た目ではおじいさんと言った方が合っている。


 「…」


 キー…


 (また家に戻るんかいっ!)


 絶対サクと目があっていたが、何も言わずに家に入ろうとするおじさん。サクのことを、覚えていないとか? サクはおじさんの腕を掴み、耳元でうるさい掃除機の様な声で


 「おっさん!元気だったか!」


 と言った。


 そうすると、おじさんは


 「あぁ、サク。元気じゃよ。目の前におるのに何も喋らんから、用がないなら家に入ろうとしたんじゃ」


 (大丈夫か、この人…。完全に耳遠くなってる)


 「わりぃ! なんかボーッとしちまってさ。で、今日来たのも、メガネをかけても透明になるヤツ作って欲しくて来たんだ。作れるか?」


 「おぉ。それならお前さんに見せた、透明マジックを使えそうじゃな」


 サクは人当たりがいいが、お年寄りにも気を遣えるんだ。聞こえてない事を言ってあげる優しさもあるが、それによって聞こえるようになる訳じゃ無い。それならわざわざ言う必要もないと言う事だろうな。おっと、ガラクタおじさんの様子が…

 

  メキメキッ!! キラリンっ。


 「よし、設計図は頭に出来上がった。作業に取り掛かるからお前さんたちも中に入りなさい」


 ガラクタおじさんは、顔が20代並みに若くなり、服がはちきれ、筋肉が肥大し触りたくなるような腕になっている。


 (なんだか似ている気が…… 気のせいかな)


 ボクはそれ以上は考えないようにした。


 

 ログハウスに入ると、発明品で溢れかえっていた。家具はテーブルとソファのみ。ある意味、生活感の無い家だ。ボクたちは辺りを物色しながら、ガラクタおじさんの背中を見守る。


 早速ガラクタおじさんは、作業に取り掛かろうとするが、肝心のメガネの素材があるように思えない。どうやって作るのか…。


 すると、作業台になかったはずのメガネがいきなり現れた。ん? これ、ボクの能力に似ているけど、もしかして能力者!? マジックって聞いたし、能力者という事を隠すためにそう話していたのかもしれない。


 その後も発明品の隙間から取り出したガラスをメガネのフレームに嵌め込み、ボクの顔に合わせサイズ調節をして、メガネ自体は完成した。はて? 設計図とは?


 ボクは我慢できずにガラクタおじさんに


 「おじさん、超能力使えるの?」


 と聞いてしまった。


 ガラクタおじさんは、


 「へ? 何のことじゃ?」


 と、若返った顔に似合わない声と口調で、分かりやす過ぎるぐらいの恍けた顔で、ボクを見る。


 「いや、さっきいきなりメガネのフレームが作業台に現れたから…」


 吐かせようとボクも折れずに問い詰める。だが、ガラクタおじさんは、


 「何言っとんのじゃ、嬢ちゃん。 今作ったのじゃよ、ワシが。今!」


 何かバレるのを恐れて、言い分を曲げない子供のようだ。これ以上聞いても、無駄だと感じて、ボクはそこで問い詰めるのはやめた。


 「よし、ここからマジックじゃ。嬢ちゃん、着けてみなさい」


 渡されたメガネを言われる通り装着すると、


 (うげ… 細かい木屑と、埃がいっぱい着いてる…)


 レンズに付着している物で、気分が悪くなりそうだ。本当にこれが綺麗さっぱり見えなくなる物なのか。ボクは心配だったが、まだマジックが残っていることに期待を持ち、


 「おぉー」


 と、とりあえず言っておいた。


 「さ、嬢ちゃん。目を瞑ってもらえるか?」


 言われるがまま目を瞑るが、どのようにマジックを使うのか見たくて、バレない程度の薄目を開けてやる。ガラクタおじさんの横に立つ、サクと田嶋くんも興味津々だ。


 「これはタネも仕掛けも無い、レンズを付けただけのメガネじゃ。だが、スリー、ツー、ワンと3つ数を数えると…」


 パンッ!


 ガラクタおじさんが手を叩いた瞬間、ボクの目の前は、埃や木屑が無くなり、透き通った景色が見える。


 「おぉーー! 消えたぞ! 本当にどうやってるんだこれぇ」


 サクは大喜び。成功したんだな。でも何か違和感を感じる。これは作り出すというより、生み出した感覚だ。身体の奥に感じる波動といい、この見た目、サクに似ているんだ。田嶋くんもボクと同様、あまり驚いていない。さっきまでのウキウキした顔は何だったのだろう。


読んで頂きありがとうございます。

引き続き宜しくお願いします。

応援して頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ