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第四十九話 レモングラス


 (絶賛息切れ中に、サーラと戦えるの? いや、無理無理、一旦距離を取ろう)


 「テレポーテーション…」


 小さな声で唱え、ジャガーを抱えてもう一度、テレポーテーション。宮廷の真ん中にある忌々しい王様の銅像の影に隠れた。


 しばらく王様を放ったらかしにしていたが、今は何をしているんだろうか。サーラ達に見つからない様、細心の注意を払いながらこっそり覗くと、


 「うわぁ… めっちゃ暇そう。余裕かましすぎて、もう、腹も立たないわ」

 

 王様は退屈そうに寝転んでいたのだ。だが休息も束の間。ジャガーがボクの肩をポンポンと軽く叩き振り返ると、何万匹にもなりそうな蟻がジャガーを包み込んでいる。


 「ジャガー!? どうなってるのこれ!」


 すると、銅像を挟んで反対側にサーラの声が聞こえる。


 「蟻の衣、完成…。後は揚げるだけね、チーターって美味しいのかな」


 (ジャガーの事食べようとしてるの!? しかもこの大量の蟻も犠牲に!?)


 ジャガーを助けるため、


 「酸味付けの強い味方、レモンいらっしゃーい!」


 ボクの手にレモンを編み出し、ジャガーに振りかける。


 タラー… ピトンッピトンッ…


 (蟻ってレモンが苦手なはずだけど…これやばい! すっごく効率悪い!!)


 レモンから手で絞れる果汁はそんなに多くはない。全身にかけるとなるとなかなか時間がかかりそうだ…。


 「フッ。そんなのしても無駄だよー。蟻って結構どこにでも居るものなの。だから…」


 「ヒィえーーーー!!」


 ジャガーへレモン果汁をかけている間に、ひっきりなしに蟻の行列がジャガーの身体によじ登って行く。


 パチッパチっ…


 「この音ってまさか…」


 ボクが銅像を超えて、反対側を確認すると、唐揚げ店に置いてあった、ドデカフライヤーが、用意されている。


 「さぁ、蟻さんたち〜 そのまま行進ー、始め!!」


 1匹ずつは小さいのに、巨漢のジャガーをせっせこと運び出そうとしている。


 蟻に包み込まれたままのジャガーがもがいているが、運び蟻の足は止まらない。よく見るとさっきのゴキブリと仲間も引き連れて運んでいる。


 「またゴキブリ… でも、ボクだって戦闘員だ。ジャガーを助けないと!」


 ボクが動き出そうとすると、


 「ちょっとキャラ被り、何してんの。そこでじっと唐揚げになるのを見ときな〜」


 サーラから放たれた蜘蛛の糸でボクの身体は拘束された。拘束を解こうとするが、ただの蜘蛛の糸では無くさそうだ。びくともしない。


 (能力を発動するには、対象の物に指をささないと発動できない。と、すれば、掌から何かを生み出さなければ…)


 瞬時に思いついたのは、


 「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ。答えはフライパン!!」


 フライパンだ。これを投げてフライヤーを倒すことが出来れば、油は溢れて、ジャガーが唐揚げにされる事も無くなる。


 「蒼井選手、いきまーす!」


 ボクは身体をぐるぐる回転させ、遠心力によってフライパンはフライヤーに向かって飛んでいく。


 ガンッ!


 「……。」


 「キャラ被り、何してんの? あー、このフライパンで、アンタも調理して欲しいってわけね。良い度胸してるじゃん」


 (違う違う違う!! ボク特訓したし、こう… フライアーごとパーン!っと飛んでいくと思ったんだよ。なんでこうなる…)


 ボクの投げたフライパンは、フライヤーに見事命中したが、フライヤーの側面がただへこんだだけで、何も状況は変わっていない。さらにボクにもアリの行列、おまけにさっきのゴキブリもやってきて、フライヤーの横で油の注がれたフライパンの方へ、運ばれていく。


 (ジャガーは全身つかるけど、ボクはフライパンだしお尻だけで済むから大丈夫… じゃない!! 大火傷で、結局死ぬ!!)


 危機的な状況でボクは頭をフル回転。


 (そうだ!!)

 

 ボクはある事に気付く。


 蟻に包まれたまま、指を空に向け、こう叫んだ。


 「アメレモングラス!!」


 すると、ボクの半径5メートル以内にポツポツと雨が降ってきて、次第に雨の量が増えていった。


 「雨? なに、この匂い!!」


 サーラが鼻をつまみ、すごく嫌がっている。ボクとジャガーにまとわりついていた蟻達もどんどん土の中へ逃げていく。


 そう、ボクが拘束されサーラとジャガーの近くに運ばれた事によって、まとめてアメレモングラスに当たることが出来たんだ。アメレモングラスというのは、文字通り、レモングラスの雨。虫は大体、アロマの匂いや柑橘類の匂いが苦手。サーラが虫を操る能力ながら、性質も似ているかもしれない。さっきのレモン汁で余裕に満ち溢れていたが、実際自分にも降りかかるのとは全く別の話だ。結果、ボクとジャガーは拘束が解けて、解放されたのは良いけど…


 「やばいやばいやばい。 蟻さん達、どんな所でボク達を離してくれてるんだよぉぉぉ…!」


 ジャポンッ……


 「あっちちちちち! ウォータージェット、ぶるるるるる…」


 火がついた状態で熱された油に入ることは防げたが、少々の雨ではまだ冷めておらず、油の入ったフライヤー、フライパンの中へボクとジャガーは落ちてしまった。すかさずウォータージェットで、ジャガーとボクに向けて放ったが、自らに向ける事など初めてで、顔面に高水圧の水が放出され、油まみれの身体に水浸しでめちゃくちゃだ…。


 「うるるるるっ!」


 ジャガーは全身で身体を揺らし、水切りをした。


 「晴美さん、ありがとうございます」


 「ど、どういたしまして…」


 「ですが!!」


 「なに!?」


 「アメレモングラスというのがあるのなら、僕が運ばれている間にできたじゃないですか!! 何故、あのタイミングで!!」


 まだ油が取れきれてない顔で、ジャガーの鼻がボクの鼻に当たりそうなぐらいの近さで詰められるボク。確かにそうだ。ボクがサーラとジャガーの近くに居なくたって、効果範囲を広げて半径10メートル以内にアメレモングラスを降らせれば良かった話だ。


 「ごめん… 窮地に陥らないと思いつかなくて…」


 ボクが謝ると、ため息をつき、距離を取るジャガー。


 「さて、晴美さん。この女どうしましょうか」


 「もちろん、目には目を、歯には歯をでやってあげないとね」


 悪い顔をした、ボクとジャガーがサーラの方を見る。


 「ひぃっ!」


 サーラはさっきのアメレモングラスのせいで、能力が使えそうに無さそうだ。


 「ガルルルル!!」


 ガルガルと言ったジャガーは、持ち前の速さで、サーラの背後に行き、身体を鷲掴みにして動けないようにした。そこに、ボクは


 「ファイヤー・フィーバー!」


 炎のムチでサーラのお尻を叩く。


 「ひゃん!!」


 痛そうにするサーラにボクは、


 「もっと痛そうな声出しな!」


 と言いながら、またお尻に向かってムチを振る。


 「痛い!!」


 なんだかサーラは痛いはずなのに少し嬉しそうに見える。その反応を見てボクも


 「良いねぇ、もっと痛が…」


 と、ノリノリで続けていたが、ジャガーの顔を見ると、すっごく冷めた顔をしていた。


 「晴美さん、そんな趣味があったんですね…」


 ふと我に帰ったボクは、慌ててムチを後ろに隠し、


 「い、いやいやいや、そんな訳… ムチと言えばと思ってやっただけだから…」



 「アンタ達、私で遊んで楽しい? 殺すなら早く殺しなさいよ!」


 サーラは顔を赤くしながら、怒っている。だが、ボクとジャガーは声を揃えてこう言った。


 「殺さないよ」

 「殺しませんよ」


 サーラはさらに怒った顔をしながら、


 「何言ってんの。殺さないと、私達何するか分かんないよ!?」


 そしてまた、ボクとジャガーは声を揃える。


 「あー、だから…」

 「あー、だからですね…」


 パンッパンッ! ボコッ! 


 「そこでじっとしてて」


 ボクのファイヤーフィーバーで数発往復ビンタをして、ジャガーの鋭い拳でサーラを気絶させ、避難していった人の居ないクレープ屋に横たわらせた。一方その頃、サクとタルトは…



 「父親に捨てられたとはいえ、やっと必要とされて嬉しいんじゃないの? おっさん」


 「さっきからおっさんって言ってるけど、このイケてるメンズにおっさんは酷くないか?」


 「それだよ。イケメンをイケてるメンズって言ってる時点で、おっさん。まずその略称がイケメンって事も一瞬分からなかったぜ」


 「分かるだろ。逆に分からないで使っていたのか?」


 「なんかめんどくさ。なぁ、そろそろ始めてもいいか? 話の長い感じもおっさんでしんどくなってきたんだけど」


 「おっさんおっさんうるせぇなぁ。いつでもかかってこい若造。俺のファンタジーは奪わせねぇよ」


 若者VSおっさんとは認めたくないアラフォーの戦いが始まる。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き宜しくお願いします。

応援して頂けると幸いです。

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