第五話 再会
「おはよ〜」
「おは〜」
「昨日の未だにジワるんだけど」
「ほんと忘れて」
「だってスマホ忘れた〜ってやって来て、手に持ってんだもん」
「やばいよね〜」
(何年、友達というものと遊んで無いんだろう、別に要らないけど)
早朝のバイトから学校に向かう途中、同じ学校の生徒達が朝から賑やかにしてる中、一人でスタスタ歩くボク。
「おーい」
誰かが誰かを呼んでいる。こういう時とりあえず振り向くのがあるあるだと思うが、ボクは呼ばれる可能性ゼロ人間だから、全く動じない。
「おーい! 待てよ一緒に行こうぜ」
なんだか声が近い。こんなに、開けた道なんだからもう少し離れてやってほしい。ボッチにはこの登下校の間は無心で居たいんだよ。学校に行くと音や声で溢れかえるんだから。
「おい」
誰かがボクの肩を触ったと思えば、目の前がぐるぐる回っている。どうゆう状況?
「わりぃ、力加減ミスった」
さっきから呼んでいたのは、サクだった。振り返らせようとしたが、ボクが気を抜いていた事で、フィギュアスケーターのスピンの様に回ってしまったのだ。
「と、止めて…」
目が回る。どうやって止めたら良いんだ。そうだ、ミラーだ。カーブミラーの棒に捕まれば良いんだ。
「カーブミラー出てこい!」
地鳴りを起こしながらカーブミラーがでてき…
「いっ…」
(ん?なんか「いっ…」って聞こえたけど)
「はぁぁ、やっと止まれた… ゔぅっ。気持ち悪い」
やっと止まれたボクは、カーブミラーに捕まりもたれかかる。
「ってーじゃねぇぇか〜!」
叫びながら空からサクが降ってきた。着地はスマート。お見事。
「拍手してんじゃねぇよ。いきなりこんな物出すな」
「なんで空へ?」
「お前がぐるぐる回ってるから止めようと近寄ったんだよ。そしたら、いきなりこんなもんが生えてきてアッパーくらったんだ」
(グッドタイミング)
ボクはしてやった顔。
「どうすんだよ、この美形が崩れたら」
カッコつけるサクに、ボクは無表情。
(傷一つ付いてないし、この人どれだけタフなんだ)
「で、これ。この後どうすんだ」
サクはカーブミラーに指を差す。
「あー、前までは出したら出しっぱなしだったけど、タイムチェンジすれば直せる。でも、こんな人がいる前じゃ、能力は出せない」
「いや、さっき堂々と出してただろ」
「ほんとだ! どうしようどうしよう。また人から引いた目で見られる」
呆れ顔のサク。
「いいんじゃね? ずっと隠しながら生きるのもしんどいだろ」
「良くない。あの時は、ボクが体操服を盗んだ変態で終わってるし、まだ誰にもこの能力は知られてない。本当の事がバレたら、変態で済まない」
「変態は良いのかよ」
サクとボクが話してる時に後ろから声が聞こえた。
「このままでいいと思うよ」
振り向くと、見たことのある顔だった。
「いいのか? こういうの許可が降りないと置けないだろ?」
「許可が降りるかは分からないけど、ここ見通し悪いから。この道は開けてるが故に、車の路駐も多いし、この脇道に気をくばれる人が少ないから、大事故にはなってない物の、小さな事故は多いんだ」
「確かに。ここたまにぶつかりそうになる」
「じゃあ、このまま置いとこうぜ。なんか言われたら回収したらいい話だしな。お前何て名前だ?」
「田嶋。田嶋 優」
「田嶋って、あの田嶋くん?」
ボクはだんだん冷や汗が出てくる。田嶋くんはなんとも言えない表情で、
「覚えてくれていたんだね。学校一緒だとは知っていたけど、すれ違う事もあまりなかったから」
と言った。
「覚えているというか、なんと言いますか… ボクなんか気持ち悪いし、関わらない方が…」
「それ。歩み寄ろうとしてくれる人に、お前がそうなるから前に進めないんだ。もっと堂々としろ」
サクはボクの態度にバシッと言ってくれたが、久々の同級生の再会がまさかの田嶋くんとはボクも対応の仕方が難しい。
「蒼井さんの彼氏?」
田嶋くんは、サクを指差して首を傾ける。
「ち、違うよ!こんなおっさんと」
「おい!おっさんは禁句だぞ!そろそろ制服着ながらおっさん呼ばわりは俺自身、痛く感じてくるだろ」
「もうすでに痛いです」
眉間に皺を寄せてメンチを切るサク。
「仲良いんだね。久しぶりに元気そうな蒼井さんが見れて嬉しいな」
子犬のような笑顔でどこか寂しげな顔をする田嶋くん。
「おい、おっさんは無視か?おっさんスルーするのか?」
コンプレックスにうるさいサクの頬を引き離しながら、ボクは問いかけた。
「田嶋くん、なんだか元気なさそう。昔はクラスのリーダーでもっとこう…」
「あぁ、あの頃は幼かったからね。高校生にもなると、自分の立ち位置は考えないと上手くやっていけないよ」
「色々あるんだね…」
「最近の若造は、もうそんな事考えんだなー」
苦笑いする田嶋くん。
「あの、蒼井さん少し話があるんだけど、今日時間あるかな…」
「これは青春の匂いっ…」
おじさんスイッチが入ったサクに、
「からかわないで、なんかそんな話でも無さそうだから……」
と言った後、ボクとサクは田嶋くんを見つめた。田嶋くんはどこか怯えてそうな表情。
「分かった。放課後、アオカフェで話そ」
アオカフェは、ボクの学校近くのカフェだ。その後、田嶋くんと別れて学校へ向かう。
「はるみ、田島ってやつ、小学生の時に関係ある奴か?」
ボクの顔を見ず、少し真剣な表情のサク。
「関係あると言いますか、田島くんの体操服をボクの能力で生み出した後、周りから変態扱いされたんだ」
「なるほど。田嶋は、お前のことそんな風には思って無さそうだったけどな」
「どうかな…」
「ま、後で茶でもしばいてゆっくり話せばわかるか。お友達になれたらいいな」
「べ、別に友達なんか要らない」
「ふーん。お前友達同士が仲睦まじく戯れてんの、無意識に見てんぞ。それでも欲しくないのか〜」
「見てないもん、サクはおっ…」
「はい、そこまでー。また禁句ワードに手を出そうとしたな。次言うと重罪だぞ」
「重罪って、何の罰があるの?」
「そうだなぁ。はるみの首に首輪つけて犬になるとか?」
「きも。発想がいちいちキモい」
「じゃあ、これからはお兄さんと呼びなさい」
「いや、サクでいいよ」
「いいよとは何だ。俺とはるみは一回り以上違うんだぞ」
「お〇さんがダメなら、仕方ないでしょ。お兄さんはちょっとボクが言うのが嫌」
「もうほぼおっさんって言ってるぞ、それ。わかったよ。禁句ワードには気をつけてりゃあ、何でも良いわ」
時は過ぎ、放課後になった。
門の前で田嶋くんを待っていると、何度か振り返りながら、何かに追われているようにやって来た。
「田嶋、後ろになんかいるのか?」
「着いてから話すよ」
不安そうにする田嶋くんを察して、サクは後ろに、前にボクと田嶋くんが並んでアオカフェに向かった。
「いらっしゃいませ。ご注文は」
「ホットコーヒー頂けますか?」
サクのビジュアルと声に店員のお姉さんはとろける。
「何飲むんだ?」
「ボク、オレンジジュース」
「おこちゃまだな〜」
「うっさい」
田嶋くんは、
「僕はアイスコーヒーで」
と言った。
ボクをみてサクはニヤッと笑う。未成年を馬鹿にして何が面白いのか。
「さぁ、田嶋何があったんだ?」
探偵のように目を光らせるサクに、
「てか、なんでサクいんの? しかもなんでボクの隣?」
ボクは少し離れツッコミを入れた。
「気になるじゃん。しかも、またはるみ放っておくと変な奴に絡まれるし」
デキてんだこの二人という目で見てくる田嶋くん。ボクは咳払いをして、話を聞いた。
話を聞いてると、どうやら何者かにストーカーされているらしい。家に帰っても目線を感じ、特に学校では姿まで感じるほどの。でもそれがなんでボクに話して来たのか。
「蒼井さん、小学生の事覚えてる?」
田嶋くんの言葉にボクは目のやりどころに困った。側から見れば、変態そのものだ。
「お、覚えてます… あの時はごめんなさい。気持ち悪い思いをさせて」
机に頭を付けて謝ると、田嶋くんは
「謝らないで。僕は蒼井さんが悪い事したなんて何も思ってないから」
「へ?」
ボクは目が点になり、肘をついて窓を眺めていたサクはニヤッと笑った。
「確かに、僕の体操服を持っていると知った時は驚いた。でも、あの後、家に帰ると母さんに言われたんだ。体操服忘れていたから持って行ったのに、学校で貸してもらえたのねって。あの日、学校に予備が少ない中、他クラスの何人かが体操服を忘れて予備は無かったから、僕は大縄跳びの大会には出られないとなっていた。そこで思ったんだ、蒼井さんは何かの力で作り出したんじゃないかって」
(ぎくっ… 感鋭い…)
ボクはゴクリと息を飲み込む。
「えっと… 考えすぎじゃない? そんな風に出来たら魔法じゃん あはは… ねぇ?サク」
サクは窓の方をずっと見て、返事もしない。
(こんな時に黙りこんじゃって)
ボクは飴が入っているかのようにぷくっと口を膨らませた。
「僕も現実的じゃないと思っていた。でもこの前見たんだ。そこで確信した」
「見たって、何…を…」
ボクは冷や汗が止まらない。サクはさっきから全然動かないし、田嶋くんの目も見れない。
「赤い髪の毛の人が、建物を壊して行っている所に、蒼井さんが出て来てそいつを火だるまにした所だよ。驚いた、僕は恥ずかしながら腰が抜けちゃってしばらくそこから動けなくて、盗み見は良くないけど、そのまま見ていたんだ」
ボクは頭に手を当て、下を向き、
「Oh no……」
「なんでいきなり英語?」
田嶋くんは不思議そうにこっちを見ている。
ボクは頭が真っ白になった。変態だと思われて悲しかったはずなのに、本当の事がバレるのも、怖い事だったんだと改めて気づいた。過去に囚われていた自分がやっと解放される時なのに、何でこんなに胸が苦しいんだろう。
「顔をあげて、蒼井さん」
ゆっくりと目は合わせれないが、田嶋くんの方に顔を向ける。
「話、続けるね。 その後、サクさんがやって来て、パンチで火を消した。 この二人は何か特殊な能力があるに違いないとその時に確信したんだ。だから、僕は蒼井さんに謝りたい。あの時、皆んなが蒼井さんに酷いことを言って避けていた所を見て見ぬふりをした僕の事を。あの時は、本当にごめんなさい。今更言っても遅いけど、蒼井さんは悪くない、悪いのは僕だって伝えたくて。あの日から蒼井さんは、どんどん暗く寂しそうな顔をするようになったから、前を向いて、蒼井さん」
ボクは前髪の隙間から田嶋くんを見た。さっきまで不安そうな怯えている表情だったのに、今は暖かく夕焼けのような、淡い笑顔をしている。小学生の時の田嶋くんに戻ったみたいだ。
ポタッポタッ…
「あれ…、何で机に水が…」
ボクの目の前はぼやけてどんどん前が見えなくなっていく。するとサクは何も言わずにボクの頭をガシッと掴み、サクの胸に引き寄せられた。頭をポン、ポンと2回優しく叩く。
しばらくボクは涙が止まらなかった。嬉し泣きもあったが、何より本人に本当の事を分かってもらえて、さらに本当の事を分かってもらっても尚、ボクを受け入れてくれる事、今まで孤独だった日々の寂しさや苦しさを振り返ると、泣き止まないといけないと思いながらも、泣く事で全てに蹴りをつけれる気がした。
ボクが落ち着いた後、本題に移った。田嶋くんのストーカーの正体を暴いて欲しい、そしてもう止めるように伝えたいとのことだった。早速、アオカフェから出てから家まで同行しストーカーがいるのかを確認したが、現れなかった。それを踏まえて話し合った結果、親不在のボクの家が一番泊まりやすいとの事で、田嶋くんとサクはボクの家にストーカーを見つけるまで泊まることになった。サクは要らないと伝えたが、思春期の二人が親不在の中、お泊まりは不謹慎だと、親目線でうるさかったから、仕方なくだが。
田嶋くんはご両親に、テスト勉強をするからサクの家に泊まると、説明して荷物を準備し、ボクの家へ。サクは近くのショッピングモール、NANDEMOで服などを買って、やって来た。ボクはバイトがあるから、二人が家に入ったと同時にバイトに向かった。
「いらっしゃいませ〜」
(男二人がボクの家に…)
バイト中、ボクは男に免疫が無いことに気づき、胸の鼓動が店内に響き渡るほど緊張していた。
ピンポンピンポンピンポン…
ピンポンピンポンピンポン…
(ん? ドア開いたのに誰も入ってこないな)
ボクはレジにいたが、17時から22時までの時間帯によくシフトが被る、男子大学生の西口さんは、商品の前出しをしていて離れていた。お客さんが居ない間に、ボクは飲料水の品出しする為、レジを離れた。
「西口さん、ウォークイン入ります」
「お願いしまーす」
西口さんの後ろを通り過ぎたが、さっきのが気になり確認することにした。
「あの… さっき自動ドアが開いた時、誰か入って来ましたか?」
「それ、俺も思ってた。入って来たと思ったら誰も居なくて。多分、前まで来たけどUターンして帰ったんだよ。財布忘れたつって。そう思わないとちょっと不気味だしね」
「ですよね…」
「俺、代わりにやろうか? こんな話した後密室にいるの怖くない?」
「大丈夫です。ボク、幽霊とか信じないタイプなんで」
「そっか、それならお願いするね」
ボクはどこかで違和感があったが、考えないようにした。
ウォークインは冷蔵庫そのものだ。長時間は居れない。夏は涼めて快適なんだが。これは内緒だけど、サボれるしね。
(ささっと終わらせよ、寒いし)
ガシャ、ザー… ザー…
「よし、終わったしお客さんも入って来たから戻ろう」
ボフッ…
(あれ、扉を開けたいのに手が届かない)
もう一度試す。
ボフッ…
(なんで?目の前に手が届くはずが届かない。って… このぶつかってるのってまさか幽霊?)
「本当にいるの?幽霊って? ボ、ボボクは信じないぞ。せーのっ」
狭い空間で、できる限りドアから離れ思いっきり走る。走るのが苦手なボクは、思ったより勢いが出ない。ここで低体温症になるわけには行かない。せっかく変態からのしがらみを抜け出せたところなんだ。
ドンッ!!
「いってててて。やっとドアに触れた」
おかげで鼻は赤くなったが。重いドアノブを押そうとすると、何か後ろに気配を感じた。スルーして開けようとするが身体がまた前に進まない。
(これ絶対幽霊だ、幽霊本当に居るんだ)
幽霊には塩が良いとよく言われているが、ここでばら撒くと、後々ボクの仕事が増える。目を瞑り考える…
指を立てて、目を見開き思いつく。そう、僕は僕の体に塗りたくれば散らからないという事を。在庫として置かれている500mlの水で湿らせながら。後で払うから安心してね。
(よし、完成!)
「ぶエックションッ」
完成したと同時に、ボクは重大な欠点を見つけた。とてつもなく寒い事。そりゃそうだ。冷蔵庫の中で水遊びしてるのと同じなんだから。ボクがぶるぶる凍えていると、僕の足と足の間から何か覗いていた。
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