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第四話 過去

 (なになになに、こいつ。もー… 近いし。とりあえず今のうちに何か牽制でも張らないと、このチャンスが、もう来ないかもしれない)


 「すすすすすす、すき…」


 「えっ…」


 トルネード頭がポッと顔を赤くする。その瞬間ボクは、腹話術のように口を動かさず小さな声で、『ちぢれ麺サンダー』と説いた。トルネード頭の顔に近距離から命中し、後ろへ吹っ飛んでいく。


 「なわけねーーーだろーーー!! ふぅ… あんなに飛んでいったんだから、すぐにはボクに近寄れないだろうね。 あーキモかっ」


 ボクが腕を上に伸ばし、伸びをし始めたその時、煙の向こうから何か殺気を感じた。


 「ひぃーーーー!! トルネードの頭が崩れてアホ毛がナイフみたいになってるぅ!」

 

 ボクが目を見開き青ざめている間に、ゆっくりと近づいて来ている。


 「僕のチャームポイントを分かってくれる人だと思っていたんですけどね。違いましたか。生きて捕獲しろと言われてましたので、半殺しで連れて帰ることにします」


 「いやいや、好きにはなって無いですけど、チャームポイントを否定してないです。肯定した上で気遣ったつもりだったんです… はは半殺しはやめ…」


 その瞬間、ボクの顔の目の前に毛先がやって来た。


 (終わった…)


 ボクは目を瞑り、グッと力が入る。何か抵抗しないと行けないのは分かってるが、実戦で死の危険を味わうことなんか初めて。何も思いつかない。もう諦めた頃…


 グニュッ!!


 (ん? なんか音がしたけどボクは痛くない)


 ゆっくり目を開けると、目の前にサクが立っていた。


 「サク!! なんでここに!?」


 驚くボクにサクは、


 「なんでって、俺は、はるみの護衛だ。その為にここ(アオハル高)にきた」


 すごく良い声で、カッコいい登場だけどなんだかめっちゃウキウキしてるこの人。


 「って、刺さってる!刺さってるよ、腕! 大丈夫なの!?」


 びっくりしてボクは尻餅をつく。


 「あぁ、刺さってねぇよ。ほら、食い込んでるだけだ」


 むにゅっ、すっっっぽん!!

 青年のように眩しい笑顔。


 (この身体、何で出来てんだよ)



 「この人ですか。邪魔者が増えたという人は」


 アホ毛をくしで直す、トルネード頭。


 「こいつ誰なんだ?」


 トルネード頭に指を差し、ボクの顔をみる。


 「トルネード頭。 多分アザーからきた。ボクを連れ去ろうとしてる」


 「トルネード頭さん、この通り、俺刺さんないんですよ。だから、もう戦うだけ無駄なのでこれだけ持って帰ってください」


 「痛っ!!」


 「わりぃ、力加減ミスった」


 「おい!ボクの毛根殺す気か! 乙女の髪の毛をむしるなんて。20本は、いってる」


 「だから、わりぃって言ってんだろ?」


 「なんだよさっきからわりぃって。ちょいちょい言葉が若いんだよ! アラフォーだからって足掻くな!」


 「は? まだ言うか? "さっきはごめんなさい。お詫びに裸エプロンするから" ぐらい言えよな」


 「おっさんにおっさん扱いして何が悪いんだよ! 割にあってねーよ!」


 

 ボクとサクが喧嘩中、トルネード頭はどんどん崩れていく。口喧嘩に夢中になって、気がついた時には、タコの足のように髪の毛が降りていた。


 「あ、あの…」


 ボクは申し訳なさそうに口を開けると、


 「もう、終わりましたか。なんだか捕獲なんかどうでも良くなって来ました… 僕トルネード頭って名前でもないですし」


 (ほったらかしにされすぎて、蛸壺から出て来たタコになってる)


 元トルネード頭の所に、近づくサク。

 

 「じゃあ、これ。土産にどうぞ」

 

 「いやさっきのボクの髪の毛! あー、禿げてないかなぁ」


 頭を触りながら地肌を感じるかチェック。


 「あ、どうも」

 

 タコの様になったまま、去ろうとする元トルネード頭。


 「受け取るんかい!」


 思わず突っ込んでしまったが、これで助かったと思うとホッとするボク。


 

 「勝手に出歩くなよ。近くに居ても、はるみが好き勝手動くと隙ができて危険だ」


 「昨日決まったばかりで、護衛するのがウキウキするだけでしょ」


 男に免疫が無いボクは、満更でも無い顔をしていたが、サクの方を見ると、本当にウキウキしていた。


 「おっさん」

 「おっさんじゃ無い、ここではお兄さんだ」

 「お兄さん? おじいさんの間違いじゃない?」

 「おいおいおい、このビジュアルの爺さん居たら、死ぬまでモテてしまうじゃねぇか」

 「自己肯定感の塊すぎてしんど」

 「おい、しんどってなんだ。目上に向かってその言葉は良くないぞ」

 「はいはーい、お節介上司さーん」


 キーンコーンカーンコーン


 「やばい、これ5限のチャイムだよね。5限飛んじゃってるよ、最悪だ〜」

 

 頭を抱えるボクを見て、


 「あー、5限自習ぽいから大丈夫だ。ヒョロヒョロのおじいちゃんが入って来たから」


 「え、それって田端先生じゃない?歴史である意味一番怖い先生」


 「もしかしてピンチ?」


 「大大大ピンチだよ」



 急いで2人が戻ると、6限の間2人は廊下に立たされた。


 「もー、何でサクまで何も言わないで出てくるんだよ〜」


 「だっておじいちゃんぐらいの歳だぞ?」


 「90歳だって」


 「本当か? 定年超えて勤務してて良いのか? でも、廊下に出されるだけなら授業サボれるしいいんじゃないか?」


 「田端先生が教える授業の成績はみんな右肩上がりに成績が伸びるんだって。だから、非常勤で今も働いてもらってるらしい。 それと、ただ出されるだけじゃなくて、明日の朝5時までここに居ないといけないよ」


 そう、怒っていても田端先生は声を荒げたり、高圧的な態度を取らないが、静かに精神的苦痛を与えてくるタイプだ。中にはトイレに行くついでに、帰ろうとした生徒が居たらしいが、門の前で立ちじっとこちらを見つめていたという噂がある。ただ、もう一つの噂があるのだが…


 「じゃあ、はるみはラッキーだな。俺と2人で朝まで居れるんだからな」


 ボクの護衛の為にこの学校に来て、早くもとばっちりを喰らっているのに、爽やかな笑顔でこっちを見てくる。


 (おじさんだけど、ほんとこの人、何も言われなかったら確かに20代にしか見えないわ)


 

 時は過ぎ、生徒達や先生達が帰った0時頃。


 「さむ…」


 ボクは両肘に手を当てぎゅっと力が入る。


 「まだ4月の終わり頃だからなぁ。朝晩は冷えるな。 これ着ろ」


 サクは、ボクに着ていたブレザーをかけてくれた。


 「いやいや、ボクもブレザー着てこの寒さ何だから良いよ、これ」


 ブレザーを脱ごうとするボクを見て、


 「いや、こうすれば寒くない」


 中に来ていたカッターシャツがビリッと破れ、ヴァイロンに纏った炎を消した時のように、溢れんばかりの筋肉が盛り上がった腕になった。


 「それ逆に寒くない!? 服さらに脱いでるじゃん」


 驚いたボクに脱ごうとしたブレザーを掛け直しながら、


 「こうすると熱を持って寒さを感じにくいから、大丈夫だ。風邪を引くと困る、このまま着ていろ」


 と、サクは言う。

 お風呂に入ったときのジーンとする感じと同じ感覚だ。まだ会ったばかりなのに、何だこのどこかに感じる親近感は。


 「その筋肉って、すごく鍛えたの?」


 「いや、30超えてから人並みに運動はするようになったが、極端に鍛えているわけでもない。20代の頃は全くしてこなかったしな」


 サクの筋肉をじっと見つめるボク。


 「じゃあ、いつからこんな事ができるようになったの?」


 「15の頃だったかな。目の前で同級生が車で轢かれる寸前で、今思えば自殺行為だったと思うけど、考えずに突っ走って、気づいたらこの腕で車を止めていた。その生徒は無事だったが、そこから俺は気持ち悪い呼ばわりで、友達も避けて行くようになった」


 「一緒だ…」


 「何だ?一緒って」


 慌てて口を塞ぐボク。そこに顔を覗き込んでくるサク。


 「何か訳ありそうだと思ったが、お前の力をバカにする奴が居たんだな」


 そのまま頷くボクに、サクはそっと抱きしめた。温かく、両親以外でやっとボクの力を受け入れてくれる人が出来たんだと言う安心感で、自然と涙が出て来た。


 「泣いてるのか」


 抱きしめたまま、ボクの顔を見ずに囁かれる。


 「泣いてない」


 「そうか。はるみが泣く事なんてない。他と違う所を笑う奴が居たとしても、自分がそれを悔やむ必要なんか無いんだ。その笑った奴らは、はるみが生きる中で必要な存在か? 違うだろ? お前の人生は、お前が居れば完結するんだ。その中でもし、受け入れる奴が現れれば、そいつの胸に飛び込んで行けばいい」


 サクはそっと離れ横に座った。しばらく沈黙が続いたが、ふと思った事があった。


 「サクもアザーに関係あるって事?」


 「いや、俺筋肉デカくなるだけだしな。関係ないだろう」


 さっきまで年相応の雰囲気だったのが、また青年に戻った。


 「デカくなるだけのレベル超えてますけど!?」


 「ははっ。まぁ、どこに繋がろうと俺は俺だ。そう思えるようになったのも、親父とかぁちゃんのおかげだけどな」


 ボクはお父さんとお母さんの顔を思い浮かべる。


 「わりぃ。まぁ、お前の親父さん達も帰ってくるさ。俺が何としてでも連れて帰ってやる」


 「わりぃって何。ほんと、おじさん…」


 「おじさん言うな。俺は…… 寝たか」


 サクは寝てしまったボクの頭を、肩に置きそっと目を瞑った。



 目を覚ますと、目の前に田端先生が居た。


 「お前ら、ここに一晩居たのか?」


 ボクとサクは虚な目で田端先生をジーッと見つめる。


 「馬鹿じゃないのか? ワシは6限の間外にいなさいと言っただけじゃぞ。もう今日の学校は休んで帰りなさい。その代わり、次のテスト期待しておるぞ」


 そう言った田端先生は、昨日の範囲と今日の範囲がまとめられたプリントを渡して、職員室の方向へ去って行った。

 

 そう、もう一つの噂は、罰を喰らった生徒は成績が上がるという事だった。


 (そっちかー!)


 心の中で頭を抱えるボク。


 「はるみ。もしかして、朝まで居ろと言われてないのに噂を信じてこうなったのか」


 身体が針金のように硬くギ、ギ、ギと、顔を逸らせる。


 「おい」


 死んだ目でボクを見るサクだった。


 その後2人で学校を後にした。

 そこにまた黒い影が潜んでいる事を知らずに…


 「あ!桜井さんのお惣菜!! 桜井さんごめんなさぁぁぁい」

読んで頂きありがとうございます。

引き続き頑張りますのでよろしくお願い致します。

応援して頂けると幸いです。

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