第二十九話 曇りのち晴れ
「こうすりゃあ、目覚ますだろう、よ!」
後ろから走ってきて、赤鬼の頬に強烈なパンチが入る。こんな事をするのは1人しかいない。
「サク! もっと白目向いたじゃん!」
「あれぇ? おかしいな、寝てる時に何かの衝撃があったら、普通起きんだろ」
「もうそれ、トドメって言うんだよ」
「あは、ははは…」
バタンッ!
「田嶋くん!!」
「優!!」
田嶋くんの気の抜けた笑い声が聞こえた瞬間、倒れてしまった。赤鬼に付けられた傷から血がどんどん滲み出てきている。さっきまでの緊張感から赤鬼が気絶し、サクが来て気が抜けてしまったのだろう。さっきまで呆然と眺めていた田嶋くんのお父さんだが、息子の危機に走って駆けつけてきた。
「田嶋! これコイツがやったのか。許せねぇ」
「サクそんな事言っている場合じゃ無いよ! とりあえずこれで傷口縛って!」
ボクは制服の中に着ていたTシャツをちぎり、サクに渡す。
「わぁお! ハレンチだな、はるみ。流石にそのままにしてると、俺が捕まりそうだわ」
結局サクが着ていたシャツをボクにかけられた。傷口を縛った後、ボクはまだ試したことが無い能力を発動する。
「アローエ・キズニハヤッパリコレ!」
今は細菌感染、被れの恐れがあるから、推奨されていないけど、昔お父さんとお母さんに塗ってもらった事を思い出して編み出した、治癒能力。ボクの手からアロエのヌルヌルとキラキラとした光が傷口に流れていく。
「え、それ大丈夫なのか。唾ぬっとけば治るみたいに、昔はこれで行けたけどって言うヤツ、今となればありえないって事あるだろ」
「大丈夫! ボクが治ると思えば治るから」
「チート野郎の説得力…」
(貴方も人のこといえませんが…)
ボクの思いは届き、みるみる傷口が塞がっていく。
ピクッ…
目を覚まし、ゆっくりと起き上がる。
「お前かい!!」
ボク、サク、田嶋くんのお父さん、3人の声が揃う。
起き上がったのは、赤鬼だった。田嶋くんは、まだ起きない。これで治ったと思ったんだけどな… 傷口が深すぎたのか…。
「そうだなー、赤鬼さん目覚ました事だし、田嶋も一発いっとくか?」
「よくお父さんの前で、そんなこと言えるね」
ボクはサクの言動にドン引き。
「フ、フフッ…」
(ん? 今、田嶋くん笑った?)
ボクはスッと手を脇に伸ばして、こちょこちょ…
「ふ、ははははっ! ごめんごめん、もう起きるよ。いや、赤鬼さんが目覚した時、僕も目が覚めたんだよね。でも、みんな赤鬼さんの方見てるから、気まずくてまた目を閉じたんだ。そうしたら、サクさんと蒼井さんのやりとりに我慢できなくて…」
バフッ!!
田嶋くんのお父さんは、目を覚ました田嶋くんを抱きしめた。
「良かった…。最近、家にも帰ってこないで心配してたんだ。もう目を覚まさなかったらと、今までの事を悔やんでいたよ。今日のを見て、心配が多いが、自分でやりたい事を見つけたんだな。今まで、父さんが悪かった。許してくれとは言わないが、優のやりたい事を応援する。ただし、絶対に死ぬな。生きて、家に帰ってきなさい」
「許す許さないとか無いよ。僕の気持ちを分かってくれただけで、胸の中が晴れたよ。子供じみた事を言って、照れ臭かったけど」
サクはそれを見て号泣。サクが来るまでのやり取りを見ていないのに、なぜこんなに泣けるのかは不思議だが、一件落着かな。
「未成年の息子さんをお預かりさせて頂いている、五十嵐 サクです。ご心配をかけて申し訳ございません。本来なら、私からお話を通させて頂かないと行けなかったのですが、息子さんの事情もあり、挨拶が遅れた事をお許しください。今日の通り、安全な道に進む訳ではありません。ただ、私もそうですが、このはるみと言う女が居れば、治癒も可能です。死ぬ気で息子さんをお守りしますので、後少し、見守ってやって下さい」
田嶋くんのお父さんは、優しく笑って
「あぁ、宜しく頼むよ。うちの息子の面倒見てくれてありがとう。情けない父親だが、貴方の事はよく思っていなかったからね、今日話を聞けて良かった」
それからは、サクと田嶋くんのお父さんは意気投合し、飲みに行く約束までしていた。
ふと後ろを振り返ると、こっそりアザーに帰ろうとしている赤鬼の姿が。
「ちょっと待てーい!」
ボク達は、赤鬼の首根っこを掴み引きずり下ろす。
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