第三話 転校生
「わりぃ、そんなハワイアンビームなんかで俺の腕は飛ばねえんだわ」
「ムカっ! サクだってパーンしか言ってないじゃん。まだ名前考えれるだけ僕の方がましだと思うけど!」
「若い女の子に呼び捨てかぁ〜、萌えるな」
(イケボだけど、普通にキモイこと言ってるよこの人)
「俺アニメとか好きだからさ実際にアニメの世界に入れたと思ってよ、嬉しかったんだよ。でも、こんな時に限ってキメ台詞考えてなくて後悔したね。あ、思いついたぞ?メタルパーンチばどうだ? イカしてるか?」
アランが咳払いをして、お前らどっこいどっこいだぞと、言わんばかりの顔をしている。
「ダサいね。まだボクの方が可愛さがあって良いと思うけど」
「はぁん? バトル系に可愛さなんて女のケツがデカけりゃぁそれ以上の可愛さは求めねぇよ」
「きんもっ!! そんなこと考えながらアニメ見てんの? 全アニオタに謝れ!」
ボクとサクの間にアランが割って入ってきた。
「まーまーまー、お二人は仲良くやっていけそうで安心しました」
「どこが!!」
ボクとサクが不覚にも声が揃う。
「ねっ」
アランは胡散臭い笑みを浮かべ、後はよろしくと消えて行った。
顔を見合わせるボクとサク。
(え、ここからどうしよう)
「はるみ、何歳だ?」
(なんかこの人、テンション上がってない時、優しく包み込まれる様な声… 何か腹立つ)
「16、高2」
ボクは、バイト以外で人と話す機会が無いせいか、手をどこに持って行っていいか分からず、とりあえずポケットに突っ込む。
「高校生かぁ〜、どこ行ってんだ?」
「青天春風高校」
「あー、あのアオハル高? 分かった。まぁ明日から護衛すっから、よろしくな。もう朝も近い、早く寝ろよ」
ボクの頭をポンポンと叩き、住宅路を抜けて繁華街の方向へ帰っていった。
「え、今何時?(AM2:58) 詰んだ… 」
次の日。
AM5:00
「蒼井さん、今日凄く疲れてるね。昨日徹夜だった?」
早朝スタッフの、桜井さん。気さくで朝から元気な、このコンビニのオカン的存在だ。
「そう…ですね… 昨日はあまり眠れなくて」
(身体中痛い…)
「えぇー、心配になるねぇ。そんな時こそしっかり栄養付けないと。今日夜も出勤でしょ? 何か惣菜作って店持ってきておくから、帰って食べてね」
「うゔ… 助かります…」
(結局あれから課題は終わらせたけど、寝る時間皆無だったわ。 学校着いたら寝よ)
AM9:00
担任の声。
「間さん!」
「はーい」
「蒼井さん!」
「はあ゛い…」
「乾くん!……」
(出席取れたし、1限自習だったしラッキー、寝よ)
ボクは机に寝そべる。
「特に連絡は無いんだけど、急遽今日から転校生がこのクラスにきます。五十嵐さん入ってくださいね〜」
ガラガラ〜 ガラガラ〜…ドンッ
「今日から新しくクラスメイトになった五十嵐さんです、簡単に自己紹介してもらってもいいですか?」
生徒達が騒つく。
「え、あの人かっこよくない? 目が綺麗…」
「綺麗だしかっこいい。彼女とかいるのかなぁ」
「居てそう〜、でもなんか少しチャラそうだし、被っても許してくれそう」
「あー、ありかも〜」
男子達は嫉妬するような顔をして、女子達は目を輝かせている。
「はーい、静かにねー。では、五十嵐さんどうぞ」
「ん?なんで敬語?」
「かっこよすぎてじゃない?」
「あー、俺、五十嵐サクって言います…」
(ん?)
ボクは寝そべりながら変な汗が出てくる。
「今38っす。高校2回目。先生、転校生じゃなくて、中途入学です。卒業してもまた高校に入学しては行けないって法律はないからね。まぁ、中途入学で飛び級してるのは、目瞑っといて下さい。久しぶりの高校生活楽しみたいんで、宜しく!」
みんなの目が点になって、固まっていく。
ボクは恐る恐る前を見る。
ガコンッ!
立った拍子に椅子が後ろに倒れる。
「えー!!!!なんでいんの!?!?」
普段大きな声を出さないボクに、また驚きの顔をする生徒達。
「にひっ」
くしゃっと笑う顔をみて、昨日のアイツだと確信した。
「五十嵐さん、蒼井さんの席の後ろに席があるから座ってくれますか?」
担任がそう言うと、サクは高校生達に負けないぐらいフレッシュに返事をして、ボクの後ろに座った。
(待てよ。昨日までボクは一番後ろの席だった。なんでここにいるんだ、コイツは)
「はるみ〜、昨日寝れたかー? 昨日は刺激的だっなぁ〜。 ま、改めてこれから宜しくな」
(おいおいおい、何言ってんの? 誤解を招くような事を堂々と)
周りの生徒たちがコソコソ騒つく。
「刺激的?」
「なになに、大人しそうに見えて、年上好きだったんだ、蒼井さんって」
「知り合いってことだよね?」
「何で知り合ったんだろう?」
「あやし〜い」
(あーもーこれ、寝たふりが一番)
また机に寝そべるボク。すると次第にだんだん意識が遠くなってきて…
「おーい、はるみ。寝るのか〜?おーい」
そのまま寝てしまったボクをじっと見つめるサク。
それからボクは、1限、2限…と続けて4限まで寝てしまっていた。目が覚めると、目の前に暖かいココアが置いてあった。
(何これ。誰か置いて忘れてるのかな。って、今昼休憩!? やった、完全にやったわ。せっかく課題終わらせたのに寝通して提出できてない)
絶望するボクにトントンと肩を叩かれた。振り向くと…
「ねぇ、蒼井さん。五十嵐く…、さんと、付き合ってるの?」
さっき騒ついていた中の女子生徒だ。
「付き合ってないよ。昨日会ったばっかりだし」
「え…」
(やばい、また勘違いされる!!)
「いやいやいや!違うの!昨…」
後ろからサクの声が。
「あー、ごめんね。勘違いしちゃったかな? 昨日初めて会って、趣味の事で意気投合しちゃって。アツい話になっただけなんだ。こんなおっさん誰にも相手なんかされないよ」
サクのくしゃっとした笑顔に、胸を打たれるかのように前髪を整えて、
「いえ、こちらこそ変な事聞いてすみません。 五十嵐さん今のご年齢にしては、凄くお若くて… ちなみに、なんですが… 彼女とかいますか?」
サクは、キランッ! と、決めながら
「若く見える? 嬉しいよ。彼女は…想像に任せる」
と、イケボで答えた。
足の力が抜ける女子生徒に体を支えてあげるサク。
(あぁ、もうこのまま死んでもいいって顔してるな)
女子生徒達がはけて行った後に、
「あれから、寝てなかったのか」
と、サクはボクに声をかけた。
ボクは目を合わせずに答える。
「課題。 課題が終わってなかったから、バイトまでに終わらせたら寝る時間が無かっただけ」
「そうか。それ、飲んどけよ。睡眠不足に効くもので、購買で売ってんのそれぐらいだったからよ」
ボクの目の前にある、ココアを指をさした。
(これ、ボクにくれたんだ)
ボクはポッと胸が熱くなる。
「ありがとう」
目を合わせず、低く、小さい声で一応お礼を伝えると…
「なぁ、はるみ。 昔からそんな感じなのか?」
「そんな感じって? あー、ボクが暗いってこと? サクには迷惑かけてないと思うけど」
「あぁ、迷惑じゃないけど。 昨日のはるみの方が可愛かったから」
顔が真っ赤になるボク。
「な、な、な、なに平然とした顔で、いきなり何言ってんの! お、おおおっさんの癖に!!」
「おっさん… 面と向かって言われるのってショックだな。俺、結構童顔だから、おっさんって言われた事ないんだよ」
むーーっとしたボクは、
「トイレ!」
と言ってその場から離れた。
「おーい、お花摘みに行ってくるだろ〜。ド直球にトイレはいけないぞ〜」
そう、サクは手を口に当て呼びかけるように言ってきた。サクから姿が見えなくなった所から、ボクは、
「うるさい! おっさん!」
と、言い返した。
「あぁ゛ー、ショックって、ボクが悪いの? サクがいきなり、あんな事言うから…」
ボフッ!!
ボクは廊下をプンスカ怒りながら歩いていたら、誰かにぶつかった。
「あのー、あなたがアオイハルミさん?」
「そう… ですけど、誰ですか? 新しい先生? にしては、服装と髪型が…」
「当たりか。じゃあ、着いてきて」
ギーーギシギシ……
細身で身長は高いが、戦隊モノのショー終わりかと突っ込みたくなる服に、髪が縦に渦巻いてさっきから天井に刺さりながら歩いてるんだが、コイツ大丈夫か? 天井に打ち勝つ髪の毛って、頭洗う時、手大丈夫?
ちょうどボクも同じ方向へ歩いていくつもりだったから着いてきたけど…
(待てよ、これアザーから送られて来たやつじゃないよね。もしそうだったら、ボク、相当やってしまってる。逃げるか? あーでも、サクから逃げたボクがこんなすぐに戻れる訳もない)
頭の中でごちゃごちゃ考えているボクを横目に、何も言わずスタスタ歩くトルネード頭。連れてこられたのは校庭だった。
(え、詰められる定番の場所じゃん。あー、嫌な予感しかない)
「僕は、争い事が嫌いでね。大人しく来てくれて助かったよ」
髪の毛をくしで解きながら、不穏なオーラを放つトルネード頭。
「よ、要件はなんでしょうか?」
目を逸らしながら恐る恐る聞くボクに、フッと見透かした様な笑みで、
「もう気づいているでしょう? はるみさんをアザーへ連れ帰りに来たんですよ。と、その前に、この星の制服は男心をくすぐりますねぇ。少し遊んでから帰りましょうか」
と言うと、さっきまで天井を貫いてた髪の毛がぐいんっと曲がりながら、ボクの方へ向かって来た。
「いやいやいやいや、怖いって普通に〜!! その素敵なヘアスタイルが崩れてしまうのは勿体無いですよ!!」
ボクが、半泣きになりながらそう言うと、ボクの目の前で鋭い髪はピタッと止まった。鋭い髪は、ボクの顔の前のままだが、硬そうな髪なのに柔軟を効かし、トルネード頭の顔がどんどん近づいてくる。
「素敵… ですか。そう言って頂けたのは貴方で2人目です。ということは、僕の事好きになりましたか?はるみさん」
(はぁーーーーーーー!?)
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