第二十八話 無条件に認めて欲しいんだ
「父さん! 何でここに…」
後ろから聞こえてきたのは、田嶋くんのお父さんだった。
「母さんから聞いた。コンビニなんかでバイトしている暇があったら、勉強しろ! まだお前は、俺の扶養されている身だ。好き勝手したいなら、立派になってからにしろ」
やっぱり…。 教育熱心だった両親なのは、噂通りだったんだ。でも、何でサクに放任主義だって言ったんだろう。
「僕だって、後1年すれば成人して大人だよ。自分のしたい事は自分で決める」
田嶋くんは冷静な態度で話している様だが、握った拳の中から、爪で傷がつくほど何かを堪えている。
「18歳で成人か? 笑わせるな。それは国が決めた事で、中身は変わらないんだよ。お前はまだ子供だ。 今まで何一つ1番になった事の無い、最後までやり切る姿勢を見せなかったお前が、自分のしたい事は自分で決めるだと? 笑わせるな。 何か一つでも、胸張って言える事を成し遂げるまでそんな口は二度ときかさん! さ、帰るぞ。 帰って勉強だ、家庭教師も明日にはつけれる様、準備する」
田嶋くんのお父さんは無理やり腕を引っ張り、連れ帰ろうとしている。だが、田嶋くんも身体はお父さんと変わらない男だ。掴まれた腕を振り払ってこう言った。
「何でも、一番一番って。 努力しても実らない事だってあるんだよ」
「それは努力が足りないだけだ」
お父さんの冷たい言葉に、悔しそうな顔をする田嶋くん。
「あの…」
ボクは我慢できず、口を開いてしまった。
「誰だ君は。あぁ、あんたが優をたぶらかし、コンビニのバイトに誘ったのか。優、類は友を呼ぶ。勉強もせず、何も成し遂げないまま、社会に出て何ができる? こんな人とは、もう関わるな」
「蒼井さんの事、何も知らないのに、適当な事言うな!!」
田嶋くんが大声を放ち、田嶋くんのお父さんの顔は驚いている。
「蒼井さんは、ご両親が居なくなり寂しいはずなのに、それでも自分でなんとかしようと、寝る間も惜しんで、僕たちぬくぬく生活している人よりも努力しているんだ。蒼井さんの事を悪く言うなら、もうこのまま家には帰らない」
「何おかしな事を…」
田嶋くん親子が会話している間、赤鬼は少し気を遣っていたが、話が長くなるに連れ、足をトントン揺らし待てなくなっていた。
「親子の会話する暇、今無いの分かりませんかね。僕の攻撃を邪魔した罰です。貴方から先に行きましょうか」
すると、金棒を上下に揺らしだんだん赤く熱を持っていく。それを、田嶋くんを超えて田嶋くんのお父さんに向かって振り下ろす!
「ちぢれ麺…」
ボクは急いで能力を発動しようとしたが、間に合わず田嶋くんのお父さんを庇って、肩と胸の辺りから血を流している田嶋くんを目にする。
「田嶋くん!!」
ボクは田嶋くんの所へ駆け寄ると、田嶋くんのお父さんは腰を抜かし、立てずにいる。
「だ、大丈夫…。 父さん、僕は今この為に生きているんだ。ちゃんと説明しなかったのは僕が悪い。でも、結果ばかりを目にして、お父さんの理想に反すると、褒めてくれなかった。この歳になって、褒めてくれないからいじけるって、カッコ悪いと思うけど、僕は無条件に認められたかったんだ。結果が思うようにならなくても、それまでの僕の努力を評価してもらいたかった。努力しないと何も結果は生まれないのも事実だけど、努力の種類って一人一人違うんだよ。自分の中で、これが精一杯だって思ったら、それで良いんだよ。甘いこと言っているようだけど、僕は医者にも総理大臣にもなりたいと思わない。BIGな夢を叶えることだけが人生じゃない。人それぞれ、その人が求めるゴールに辿り着ければ、皆んな一等賞なんだ。だから、もう僕に自分の理想を押し付けるのはやめて。今、僕が目指しているのは、目の前の敵に勝って、世界を救うこと。馬鹿げていると思っていても、親なら子供が胸張って目指している事を尊重して、見守ってて欲しいんだ」
田嶋くんのお父さんは、気まずそうに下を向く。
「お話はもういいですか? 貴方、僕には敵わないこと分かっているのでしょう。なのに、何故まだまだやる気に満ち溢れている顔をしているんですか?」
赤鬼が持つ金棒は、ドリルのように高速回転していく。だが、さっきまでの絶望していた田嶋くんはどこへ行ったのか。強い眼差しで赤鬼の方へ目を向け、
「コンフィデンス・ファイヤー!!」
と唱えた。前回は金棒の一振りで炎を消された同じ技だ。赤鬼は先程と同様、金棒を振り下ろす。だが、炎は消えるどころかどんどん燃え広がっていく。
「な、何故だ! き、消えない…」
きっとお父さんに対して、自分の意思を示す気持ちが自信に代わり能力が増強されたんだ。
「何だか、力が漲るような気がしてね。まぁ一応、魚屋さんで、油も貰っておいたからね」
あ、あの時…。お父さんがやられそうになり、田嶋くんが庇った時だ。あの時に金棒に油を仕込んだのか。さすが田嶋くん、用意周到だね。
スティックの能力の増強と油によって、なかなか消えない炎。赤鬼の動きを封じれるのは良いが、このままだと焼け死んでしまうんじゃないか、だんだん心配になるボク。
だが、様子がおかしい。なかなか消えない炎がだんだん赤鬼の身体に沿って広がっていく。みるみる大きくなる、赤鬼の形をした炎。
「だから言ったでしょう、貴方の能力では僕には敵いません、と」
何と、赤鬼の形をした炎は赤鬼本体が炎と融合し、人の3倍ぐらいの大きさになったのだ。赤鬼の能力はなんなんだ? 炎の耐性があるとすれば、水だ。
「ウォーターウォール、ダブル!」
ボクの持っているオーウンの能力、ウォーターウォール、文字通り水の壁だ。それを2枚用意し、赤鬼をサンドする。
ジュー…シューシュー…
「何で! 水が蒸発して全然効いてない」
「蒼井さん! 多分だけど、炎と融合し、自ら炎を絶えず生成しているかもしれない。僕の炎だけでは、蒼井さんの能力には敵わないはずだから」
(じゃあ… どうすれば…)
田嶋くんの方を見ると、ジェスチャーで消えるメガネを解除してと言っている。何故かは分からないが、言われる様にやってみよう。
(消えるメガネ解除!)
田嶋くんの目を見ると、
"ここからは僕からの一方的な会話になってしまうけど、蒼井さんなら上手くやってくれると信じてるよ。
蒼井さん、圧縮袋を能力で編み出して欲しい"
と、心の声でボクに話しかけている。圧縮袋が何で今必要なのか。
「ボケっと突っ立っているとは、もう降参で良いんですかね」
赤鬼が口から火の玉を撒き散らし始めた。
何で何でと考えている暇は無い。今は田嶋くんを信じてやってみよう。
「次の冬まではお別れよ、衣替えぇぇ!」
"シンプルに圧縮袋って言えないのかな"
やばい、田嶋くんがちょっと怒っちゃってる。でもごめんね、ボクが納得できる言い方じゃ無いと発動出来ないの。手を合わせて田嶋くんにごめんなさいと伝える。
ボクが出した布団サイズの圧縮袋。田嶋くんはそれに向かって、
「コンフィデンス・マルチ」
と唱えたが、マルチ? 田嶋くん、マルチの属性の技を見るのは初めてだ。
コンフィデンス・マルチから編み出されたのは、スティックに指された物を大きくするという物だった。圧縮袋は大きくなり、赤鬼のサイズにぴったりだが、火の玉を吹いている赤鬼にどう使うのか。布団の圧縮袋だから穴開くよ?
"蒼井さん、この圧縮袋に火に耐性のある鉱石を交えた、セキシャンを出すことはできるかな"
鉱石!? 鉱石って、現代にもあるけど実際に見たことあるのは、アニメでしか見たことない… んー、合ってるか分からないけどやってみよう! 鉱石って聞くと、サクの好きそうなファンタジー感あって、ちょっとテンション上がってくるボク。
「セキシャン!」
そもそも、ボクのアメシャンのシャンはシャンプーのシャンだ。どちらかと言うと、アメセキの方が理にかなっているのだが、セキシャンの方が響きも良いし、田嶋くんの言う通りにした。
すると、雨の様にキラキラ輝く鉱石の粉末が圧縮袋に付着していく。
「何を争っているのか分かりませんが、もう終わりにしましょう」
赤鬼はドスドスと足音を立てているが、音の割に動きが速く一瞬のうちにボクの目の前に来てしまった。また捕まってしまっては意味が無い。
"蒼井さん! 今だ! ハワイアンビーム!"
(ボクもそう思ってた、よっ!)
「ハワイアンビーム!」
「ゔぅ!! 目が、チカチカと…」
赤鬼が目を塞ぎ、もがいている間に、
「コンフィデンス・マルチ!」
「テレポーテーション!」
本来、テレポーテーションは田嶋くんには出来ないが、コンフィデンス・マルチによって、シンクロという能力が編み出され、ボク達は赤鬼に、鉱石まみれの圧縮袋を被せることに成功。ここから畳み掛ける。
「コンフィデンス・ウォーター!」
田嶋くんはスティックにより、圧縮袋から空気を抜き取る事ができ、次第に赤鬼に纏う炎は消えていった。ボクと田嶋くんがホッと安心していると、
「ちょ、田嶋くん、赤鬼の目が白目になってるよ!」
炎の脅威から逃れる為に必死になっていたボク達は、圧縮され息ができなくなる事までは考えておらず、早急に外に出してあげた。
「気絶してる…。ちゃんと起きてくれるかな」
「どうだろう、空気が無ければ燃えることはできないからと思ってこの方法を選んだけど、赤鬼も人と同じなんだと思うと、悪い事してしまったな…」
ボクと田嶋くんがあわあわしていると、後ろから誰かが走って来ている音がした。
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