第二十六話 一難去ってまた一難
(ど、どどど、どうしよう。黒目デカ女も、また攻撃体勢に入ってるのに、生徒達に見られてると、ボク何もできな…)
「頑張れー!」
1人の女子生徒の力一杯出す声が聞こえた。すると、あちらこちらから頑張れという声が教室を埋めて行く。1人男子生徒が表情を変えずじっとこちらを向いているが…
「なんで…。なんで応援なんか…。ボク、皆んなとは違うんだよ。人間と言って良いのかも分からないし。田嶋くんが変わってるだけで… 変わってるって言ったら怒られるかもだけど(早口)」
「正直、驚いているよ。でも、私達の意識が戻るまで頑張ってくれていた事は見れば分かるから。見ているだけで応援しか出来ないけど、頑張って、晴美ちゃん!」
あぁ。いつぶりだろうか、同世代の女の子に苗字以外で呼ばれたの… 負けるな!と、ボクの胸に収まらないぐらいの声援で応援してくれている。
「感動のエンディングモードには入らせないですのん。私は見ての通り、ピンピンしているんですのーん」
……。
ボクは田嶋くんに許してもらう事ができて、それだけで十分だった。誤解が解けるのは1人だけでも、言葉にできないぐらい嬉しかったから。サクと出会えてなかったら、とっくに捕まってアザーに連れて行かれていた。そうなると、今日みたいな声援は聞く事が無かっただろう。タラレバなんて、後からなんとでも言える。あの時こうしていればと後悔しても、その時間は戻って来ないし、もしその時その通りにしたとしても理想の結果が得られるとは、その状況にならないと分からないものだ。辛い経験もして、サクに、アランに、田嶋くんに出会い、今がある。辛い経験は必要だったかと言われれば、本当はいらない、無い方が良かった。だけど今は、孤独に頑張って来た自分を褒めてあげようと思う。この声援をボクの能力で…
「Dスイの舞! 私は接近戦でもお強い、ですのーん…」
黒目デカ女の能力、『Dスイの舞』が解き放たれた時、ボクの目の前がぐわんぐわん揺れて見え、黒目デカ女が踊りながら近づいてくる。女が言うに、フェロモンによる効果は無かったが、相手の能力の出力によっては、ボクも無敵ではないと言うことだな。うぅ…視界が揺れて気持ち悪…
ボクが目が虚になって来た頃、アイスピックを持った黒目デカ女が、ボクのすぐ目の前に来てしまった。今さっきまで、まだ距離があった様に見えていたが、視界が揺れているせいで、距離感を掴めていなかったのだ。
その瞬間! 凄まじい殺気が後ろから伝わり、ボクの肩の上を拳が通り過ぎる。
パンッ!!
後ろから伸びて来た手はサクの手だった。だが、ボクはストップ・タイムを発動し、サクの拳、黒目デカ女の手首を掴み、動きを封じ、ストップ・タイムを解除! サクの凄まじい威力にボクは身体が持っていかれそうになるが、特訓の成果と一時的に動きを止めれたことも相待って、なんとか動きを封じ込めれた。女は威勢を張ってた割には、筋力ではボクの方が強く、抵抗されたが上手く力を流すことが出来た。
「はるみ、どういうことだ、これ」
サクはこの女への攻撃を止められ、庇ったんじゃないかと思ったのか、いつもと違う怖さ声から伝わる。ボクは喉まで来ている言葉をなかなか出せずにいたが、勇気を振り絞って伝える。
「ボクだって、戦闘員だ。自分で最後まで蹴りをつけずに、アザーからお父さんとお母さんを連れて帰ることなんか出来ない。ボクがやるから、見守っていて」
なんと言われるか怖くなり、サクの顔を見る事はできなかったが、サクは声も出さず、力んでいた拳をスッと後ろに戻す。言葉も無く表情も分からないが、後ろから"頼んだぞ"と言われた様な気がした。
黒目デカ女の目を見て、テレパスを発動!
"動きを封じられたら、またこの周りの奴らをめちゃくちゃにしてそちらに気を移させるしかないですのん"
みんなの様子を見るときに、消えるメガネを解除していて助かった。おかげでスムーズに心が読め、攻撃に移れる。
「フェロモン大放出…」
「アメヒーコー!」
女が能力を発動したその瞬間、ボクは雨を降らせた。そう、コーヒー豆の雨を。コーヒー豆は消臭効果抜群。アメシャンの応用だ。
「雨ですのーん? 雨如きで私のフェロモンがかき消されると… なんですのーん!? 貴方達、さっきはでろんでろんになってたですのーんに?」
コーヒー豆により、女は生チョコの表面とそっくりになった。語尾のですのーんが大放出で聞き取るのが大変だ。
「こんなもの、効かない無いですのーん」
と、セクシーポーズをする生徒達の声。
(そして、皆んなノリがいいな)
フェロモンという名の、アルコールを相手に注入する女の能力は、生徒達には届かず、さっきまで元気が無かった生徒達がピンピンしている。それはボクのおかげなんだけど、皆んながノリノリだからそっとしておこう。
ボクは女からの次の攻撃を待たずして、追い込みをかける。
「ファイアー・フィーバー!」
炎を纏ったムチで女の身体に巻きつけ動きを封じる。コーヒー豆まみれになった身体はじわじわと煎られていく。
「熱っ! でも、拘束して何になると言うんですのーん? 身体を動かせなくともまだ策があるというのに…」
「ウォータージェット・温!」
ウォータージェットの応用で、通常水だが、熱された水、そう熱湯をかけると言うことだ。ボクはティーカップとフィルターを手から編み出し、女から滴るドリップを掬い取り、付け合わせにクッキーを添えて女に渡す。
「いや、いらないですのーーーん! 熱い熱い! うゔー、あったまに来たですのん。これでも喰らうですの…」
「ちぢれ麺サンダー!!」
黒目デカ女は感電し、気絶した。最初からこうすればよかったのか。
パチパチパチ……
「蒼井さん!凄いよ!」
「ありがとう! 蒼井さん!」
皆んなが拍手してボクを讃えると、集って駆け寄ってきた。こんな大人数から話しかけられる事など無かったから、何を話されているのか聞こえる様で聞こえない。チラッとサクの方を見ると、親指を立てて、言葉に出さずよくやったと褒めてくれた。遠回りなやり方だったが、初めてボク1人で敵と戦う事が出来た。今日はいい経験になったな。皆んなが喜んでいる顔を見て、大変な特訓も悪くないね。
だが、これは1限目の15分休憩の出来事。まだ後、5限残っている現実を知り、6限まで皆んな魂が抜ける様に授業を受けた。
放課後。
「今日のバイトだるすぎる… もう疲れた。帰りたい」
ボクが脱力しながら歩いていたら、田嶋くんが不思議そうにしていたので、話してあげた。すると、呼んで欲しかったと悔しそうにしていたが、バイトめんどくさいが頭の10割を埋め尽くし、サクと田嶋くんの言葉はコンビニに着くまであんまり聞こうとしなかった。
コンビニに着きサクと別れ、出勤すると…
「なんでまた…」
レジの向こう側に、頭からツノが生えた赤い鬼の様な者が目の前に立っている。ボクは目が白目になりながら呆然と立つ。
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