第二十五話 襲来
特訓を開始して、早一ヶ月。定期的にメイドさんがボク達のマッサージをしてくれる様になって、以前よりは回復が早くなった。主人様の、面倒のみならず、こんなボクまでも面倒を見てくれるなんて、こんなありがたい話は無いと、感謝を噛み締めながら学校に登校する。
教室に入ると、いつもとは違うざわつきが広がっていた。
「昨日、何ミリのカラコンつけてるの?ってぐらいの女の人を見かけたの」
「私もみた!」
「俺も! 目が合うと目の前まで来て、舌打ちしてどこかにいっちゃったけどな〜。タイトな服着てて、胸もデカいしセクシーだったわ」
「アンタも? 私も同じなんだけど! てか、結局、男子って胸見てるんだね〜」
「いやそこだけ見てるわけじゃねぇし」
「いやいやそうでしょ」
「えぇ〜、お前胸派? 俺お尻だわ」
(おい、サク! この流れで入ると引かれるよ…)
「私〜、最近お尻のトレーニングしてて〜」
「いや私も〜、最近ジム行き始めて〜」
おいおい。女子生徒達が、お尻を強調し始めたよ。さっきまで胸の話して、男子生徒を責めてたところじゃん。結局女は顔を見てるって事か。男子生徒も不服そうな顔だ。ボクはサクを引っ張り出して、ボク達の席に連れて行く。
「おい、何してんだよ。あれ、俺の勘だと、アザーの人間だよな」
「ボクの勘でもアザーだよ。今変に首突っ込んだら、怪しまれるよ? 情報収集なら、ボクに任せて」
ヒソヒソ話した後、ボクは開いてるか開いてないか分からないぐらいのウインクをして、消えるメガネを解除! テレパスを利用し、生徒達の思考を読む。
"黒く長い髪の毛の女"
"黒目が、異常に大きい"
"水着の様なタイトな服"
"語尾が『〜ですのーん』
"女でも男でも顔をジロジロ見て『違うですのーん』と立ち去る"
「おい、何かわかったのか?」
後ろからヒソヒソと興味深々に聞いてくるサク。
「うん、知らないフリをしよう」
「おい、何でだよ。余計に気になるじゃねえか」
サクはがっかりするが、その光景を見ているとボクの視界に映ってはいけないものが映っている気がする…。 サクは机に寝そべり、ボクの映る方から反対を向いているおかげで、気付いて無さそうだ。ボクも気づかないフリを…
「あー、見えちゃいけないものが…」
「幽霊じゃないですのーん」
視界に入るギリギリのところだったのが、ボクの視界には大きな黒目が大きい女の顔しかない。
「え…、あの人って」
生徒達も気付き始める。やばい、前は先生に気付かれてもサクによって上手く交わせたが、これはもう皆んな…
「なに、これ…。 皆んなどうしたの?」
驚いた目をしていた生徒達が、次々と顔が赤くなり力が抜けて行く。
「ふふ、チョロいですのーん」
あぁ、やっぱり。この語尾でずっとくるんだよね。しんどいぞ〜これから。避けようとしていたが、避けられない展開にボクは受け入れることにした。
「何したの皆んなに」
「私のフェロモンに酔わせただけですのーん」
フェロモン? さっきからずっとお酒臭いけど。きっと何かの能力で皆んなの中にアルコールを入れたんだろう。もしかしてこの匂いで…
「ゔゔっ……」
「何で貴方は私のフェロモンに酔わないですのーん?」
「フェロモン… っていっ…ても、酒く…」
「おだまりっ! これは私のフェロモン。お子ちゃまには分からないですのーん」
さっきまでジロジロ見て来ていた女がボクの首を絞めた。苦しい。でもこの女の弱点がまだ分からない。何の能力を出せばいいのか…。そういえばサクはどうしたの!?
限界まで視野を広げ後ろに目を向けると、サクはぐでんぐでんになっていた。サクはお酒には強いはず。フェロモンというのは、まるっきりの嘘ではないのかも…しれ…ない…。だめだ、このままだと、締め殺される。
「ファ…イヤー・エクスポーション…」
震えながら指先を女に向け放つと、見事に燃え上がり、ボクの首を離した。
「んはあ〝っ…!はぁ、はぁ…」
頭に一気に酸素が行き渡るのを感じる。女はそのまま燃え上がり降参でもして欲しいところだが…
「チェイサーですのーん!」
上から水が降ってくる事も無いのに燃えている炎が蒸発して消えて行く。
「チェイサーって、酒臭いの自分で分かってるんじゃん。それを受け入れてチェイサーでしょ?」
「失礼な、小娘ですのーん」
気にしている事を何度も突かれ、だんだん苛立って来ている。サクは戦闘不能、田嶋くんを呼ぶにはこのクラス以外の生徒にも危害が及ぶ可能性を考えると、ここはボクがどうにかしないと。いつも助けてもらってばっかりだから、とーっても不安だけど、ボクだって日々特訓をしているんだ。大丈夫!
と言いながらも、脚はガクガク震え、立っているのがやっとなぐらいだ。
「あら、脚が震えているのですのーん。大人しく私に着いて来るなら何もしないですのーん」
「これは震えてるんじゃないよ。脚を細かく揺らして脂肪燃焼トレーニングをしてるんだけど」
「ト、トレーニングですのーん!? 私が目の前に居るのに、悠長にトレーニング。ムカつくですのーん!!」
(いやいや、嘘だよ。分かるだろ)
ボクの冗談に怒った女は、マドラーの様な棒を取り出し、混ぜる様にくるくる回し始めた。すると、ボクは見えないグラスの中で空気の流れに乗ってぐるぐる流される。
「どんどん混ざるんですのーん」
だんだん身体が痺れて来る。この女は、飲酒にまつわる能力を出せるという訳か。この痺れは、きっと毒だろうな。あのマドラーにはあからさまに、紫色の液体が着いている。タイトなボディースーツなのに、どこに隠し持ってたのかは気になるが、今はそこじゃない。この空気の流れは、ボクへの攻撃というよりは閉じ込めるのが目的だろう。振り回される事によって、三半規管もやられ、更に毒を与え動きを封じ、グラスに閉じ込めボクを持ち帰る。痺れがだんだん強くなり、この空気の流れに逆らって脱出する事は不可能。ボクは相手の酒にまつわる能力を受けても効果が無い。だから毒を使ってここに封じ込めたんだろうね。痺れが原因で、いつもの様に気軽に能力を発動出来なくなった。使えば使うほど、血液の流れが早くなり毒の回りも早くなる。出せてもあと数回。脱出できても、その後すぐに畳み掛けないと厳しいな。とりあえずここから出ないと…
「ハワイアンビーム」
痺れた身体にムチを打つ様、指先を女の目に向けた。
「あぁゔ!! 目、目がっ」
女の目に命中し、目を押さえぐっと丸くなったその時、見えないコップから隙間が現れ、すかさずその隙間へ向かい、脱出成功。何故ここでハワイアンビームを出したのか。いくつかの超能力者や能力者と出会って来たが、相手の攻撃が当たると誰しも隙ができる。その攻撃への対処を考える時に、今放っている自分の能力への意思が少しでも弱まるから。さらに、その攻撃への対処をすぐに判断出来ないとなれば、尚更、自分の能力へ意思が弱まる。ハワイアンビームをサクに馬鹿にされたままフェードアウトしてたまるか。お父さんから教えてもらった中の大事な能力だ。
ハワイアンビームは相手を戦闘不能にするほどの威力は無い。だからこそ、ここで一気に畳み掛ける。
「ファイヤーエクスポーション!!」
女は手の隙間から、ボクを見て嘲笑う。
「それはさっき、私には効果が無いって事を分からなかったですのーん」
「それはどうだろうね」
女の身体を炎で包み、チェイサーによって蒸発しながら打ち消そうとした瞬間、
「読み、情報を得て、必要がなくなれば、野菜の保管、鍋の汚れや割れ物を包み多様できる、いでよ!sinbunsiy。ついでに、油カタブラ〜」
ボクはただの新聞紙と油を編み出し、油に浸された新聞紙ボールを作る。野球などした事ないが、ピッチャーになりきり、的に向かってー……投げた! 投げる手と脚が前にある状態から投げたから、フォームはめちゃくちゃだが、手首のスナップでしっかりと届いた。それをひたすらに繰り返す。途中でピッチャーになりきらなくても、投げつけるだけで良いことは気づいたが、未経験のボクがピッチャーの真似事など、普段は恥ずかしくて出来ない。サクは戦闘不能、田嶋くんも居ないこの時が絶好のピッチングの場。投げつけた新聞紙は着火剤になり、蒸発させて消される前に炎が身体に燃え広がる。
「熱、あつあつあつあつ、もぅー私が丸焦げになって散り散りになってしまうですのーん!! 降参!降参ですのーん、おやめくださいですのーん」
相手が白旗を振った事により、『ウォータージェット改』を発動し消火してあげた。おかげで、長い髪の毛はアフロの様になったが、お肌はツルッツルになった。にしてもこの人、ほんとに目玉でかいな。というより、黒目がデカすぎて白目見えない。
「た、助かったですのーん…。このまま死んでしまうかと… あれ? なんだか、炎を浴びる前より身体が軽くなった気がするですのーん」
そう、ボクの能力、ファイヤーエクスポーションはただ炎を浴びさせるだけじゃ無い。だって、ポーションがついてるもん。炎の熱さによって、身体が回復するんだ。その分、身体の表面はボロボロになるけど。だからそれを気付かれると…
「フッ。大した事ありませんですのーん。まだまだ私に勝機が残っている、つまり! 私は、貴方を連れ帰り、ハンク様の愛人にならせて頂くですのーん」
(あー、やっぱり気付かれた)
ヴァイロンの時は、気付かれる前にアザーへ戻って行ったし、サクの一撃で持って行ってくれたおかげで反撃される事も無かった。今回は、ボクの能力も引き出しやすくなっているから、効果の反映が早くなってるみたいだ。どうしよう、ここから…。これで降参してくれるのを祈っていたんだけどな。そう上手くは行かないよね。ここでストーン・アローをすればきっと抑え込めるけど、生徒達があぶ… ちょ、ちょっと待って。さっき降参された時に、この女の能力一時消失したよね。ってことは…
恐る恐る辺りを見渡すと、生徒達はボクに大注目していた。女から反撃が来ようとしている時に、生徒達にボクの能力を知られる大大大ピンチに落ち行ってしまった。
読んで頂きありがとうございます。
晴美、大ピンチ! 果たしてどう切り抜けるのか…
次回投稿も読みに来て下さると嬉しいです。
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