第二十一話 この気持ちは
「取引ですか?」
ジャガーは何を言われるか見当もつかないみたいだ。
「あぁ。俺達は3ヶ月後アザーへ、自分達の意思で行く。その時、戦いを避けることは出来ない。お前みたいな強い奴が複数現れたら、俺達がどれだけ強くなっても厳しい戦いになる。その時、協力してくれねぇか? そうすれば、俺が俺達が必ず王様を黙らせてやる。お前だけじゃないと思うが、王様に不満を抱く者も少なくないだろう? 今まで我慢していた事も、何のしがらみも無くやっていける。その代わり、俺達が裏切れば、取引は白紙。俺達を王様に突きつけるなり、好きな様にすれば良い。どうだ、この取引呑むか?」
ジャガーはゴクリと息を呑み、
「王様に勝てば、好きな物いっぱい食べられますか?」
「あん? もしかして、王の配下でも好きなもん好きなだけ食べれてないのか?」
「はい… 特に、動物と人間のハーフには厳しく、配下であっても最低限の食事しかありません。配下に入ってない者たちにも分け与えないといけないので、お腹いっぱいに食べられるのは王様と直近の配下のみです」
「なんだとー? 生きる中で、食事は最低限の物資だろうが! あいつ、とことん糞だな。よし、もう授業が始まっているが、この授業が終われば昼飯だ。それまでここで待っていられるか?」
「は、はい!」
その後、ボクたちは授業に戻り、昼休憩の時間になった。
「最悪、また田端先生の授業だったじゃん」
「まぁいいじゃねえか。廊下でサボれて、課題渡されて、授業受けなくてもテストの点数上がるんだからよう」
「いや、ボク今日バイトだし。課題やってたらまた寝る時間が…」
「よし、課題終わったらメイドにマッサージ頼んどくわ!それなら頑張れるだろ?」
「なに、めっちゃいいじゃんそれ。頑張る〜」
食堂に着くと、田嶋くんが先に着いて色々買ってくれていた。大量のお昼ご飯を中庭まで持って行くと、ジャガーは日向ぼっこして遊んでいた。何だか、人間味も強いけどこう言うのみたら、可愛いね。ジャガーは見られて恥ずかしかったのか、サッと背を向け正座をして頭をくしゃくしゃしている。
「さぁ食え! 好きなだけ食え!」
チーターと人間のハーフだと聞いていたが、人間の血も入っているからか、野菜なども美味しそうに食べている。だんだん涙が溢れ、続けて鼻水も垂れ、顔がぐちゃぐちゃになりながらも、頬張るジャガー。
「はむっ、はむっ。 ズズズー。 はむっ。」
「うまいか?」
サク含め3人は、嬉しそうに食べるジャガーを見て、自然と笑顔になる。
「う、うま、おいしいです… こんなお腹いっぱいに食べたの久しぶりで… しかも、この味アザーでも良く食べる味なので、色々思い出して、オォーゥ」
感情が一気に溢れ出し遠吠えをするジャガー。
「はるみ、この渡したやつ、いっぱい出せるか?」
「うん、やってみる。 パンとおにぎり、唐揚げ丼、ポテト、リンゴジュース、牛乳、取り敢えずいっぱい、さぁでてこい!」
すると大量の食料がボクの手から現れ、風呂敷に入れて、それにステルスをかけた。ステルスは、ジャガーが仲間達に渡す時に解除すると唱えたから、誰にも見つからずに、仲間のところへ持って行くことができる。タコヤキに出会ったおかげで、ステルスを習得できたから、あの極寒を耐えて良かった。
「ありがとうううございます…」
ずっと泣き止まないジャガー。そりゃそうだよな。今の王様になってから、38年は経つ。見た感じ、ジャガーはサクとあまり変わらない歳だと思うから、幼い頃からずっと我慢してきたんだ。それでも、健気に王様の言いなりになって… 本当、よく頑張ったよ。ボクも強くなって、約束通りアザーの人々を守れる様に頑張るね。もちろん、この星もだけど。
大量の食料を持って、ジャガーは帰って行った。アザーに帰ると、『3ヶ月後、必ず行くから覚悟しとけ。お前らの好きにはさせない』と、宣戦布告の伝言を頼んで。それを伝えると、ジャガーの事なんかより、ボクらに怒りの矛先が向かうから、解雇なり何なりされて、王様の配下から抜け出せるだろう。
「ねぇ、田嶋くん。何でボク達の居場所が分かったの?」
田嶋くんは笑う口を少し抑えながら、
「消しゴムだよ」
「消しゴム!?」
「うん、蒼井さんとサクさんの教室に行っても居ないから、辺りを見渡すと、消しゴムのちぎったカスが落ちていて、それを辿ってきたんだ。あれ、わざとじゃ無いの?」
サクは腹を抱えて笑う。それを見てボクは恥ずかしい思いをして怒りたいが、そのおかげで田嶋くんに気付いてもらえたから、怒りにくい…。 ムスッとしながら、口を尖らせて、
「わざとじゃ無いけど、気付いてくれて結果オーライ」
と、言うと、堪えていた田嶋くんも笑いが止まらなくなった。
「あ、まだ付いてるよ」
田嶋くんがボクの後頭部に残っている消しゴムのちぎったカスを取ろうと手を伸ばした時に、
「どこ?」
と、言ってボクが振り返ると…
近くで座っていた為、後頭部を覗き込んでいた田嶋くんと、振り返ったボクが相まって、顔が凄く近くなった。ボクたちは慌てる様に背を向け、顔が真っ赤になり、サクは何が起きたのか分かっておらず、赤くなっているのが心配で、ボクと田嶋くんに水をぶっかけた。
放課後。
あの後、ファイヤーエクスポーションで一気に乾かし、コンビニまで3人で行き、到着するとサクは家に帰って行った。
ボクは初出勤じゃ無いのに、田嶋くんよりボクの方が緊張している。コンビニに着くと、店長は少し気まずそうにしているが、ある程度の仕事内容は田嶋くんに教えてくれて、後はボクが一緒につくことになった。田嶋くんが研修の為、スタッフの西口さんも一緒の日だ。
「蒼井さんの友達、テキパキしてるね〜。俺のシフト減らされないように頑張ろ」
「凄いですよね。でも、ボクと田嶋くんは週3に減らしてるので、ご迷惑かけるかと…」
未だに、サク達のようには話せず、少し俯きながら話してしまうボク。
「まじ!? それは結構減らすねー。でも大丈夫! 彼女のプレゼント買わないといけないから、シフト増えた方がありがたいよ、俺は」
彼女、か…。 いや、道端歩いていても見るし、レイヤとアーシャもそんな感じだし、普通のことなんだけど、ボクには縁遠く感じるなぁ。
「てか! 蒼井さんと、田嶋さんは付き合ってるの? 前に、もう1人居た人は、歳が離れてそうだったから…」
ボクと田嶋くんは目を合わせ真っ赤になる。さっきサクに冷やしてもらった所なのに…。良かった、消えるメガネはロックしてあるから、思考は読めない。これで読んでしまったら、どんな事を思われているか…。考えただけで怖い。
「つ、付き合ってないですよ」
「そ、そうそう、お友達です」
田嶋くんも友達だと便乗してくれた。このまま田嶋くんと2人で仕事に戻る気まずい気がするから、西口さんへ少しの間、田嶋くんを頼み、レジに集中した。お金を扱うと緊張して他の事が…
(彼氏… 彼氏…)
考え無くて…
(付き合ってる… 付き合ってる…)
あ〝ーだめだ。全然集中できない。これ3ヶ月耐えれるか?そんな事を考えながら、お客さんに伝えられたタバコが売り場に無かったから、事務所へ行き、在庫があるか確認しに行った。
「hitoikiメンソール5ミリ… あったあった、これだ」
事務所から出た時、ドアについているマジックミラーで本当は中から外が見えるはずなのに、ボクはうっかりして何も考えずに飛び出してしまった。すると、外からドアが開き、ボクは自分で開けるつもりで手を伸ばしたから、手に当たらずドアが離れていき、前に転ける…
「大丈夫?」
上を見上げると、田嶋くんがボクを抱えてくれている。田嶋くんの周りには、薔薇の花が散っている様に見え、ボクは疲れているんだと確信した。そう、ボクは疲れている。じゃないと、この気持ちは何だと言うんだ。
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