第二十話 ジョアラ
「結局、観光は出来ないのか…」
落ち込むサクに田嶋くんは背中をポンポンと優しく叩き、慰める。
「ボクたちが世界、アザーまでも救って、たっぷり観光させてもらおう! もちろんタダで」
うっしっしっし…
悪い顔をするボクとサクに、お爺さんと田嶋くんは首を横に振りながら、やれやれと呆れた。やる気に溢れたボクとサクは能力の発掘に向かおうとしたが、ボクだけ取り残され、サクと田嶋くんはまたお爺さんの家の前の広場へ戻って行った。
「せっかく、走るの逃れられると思ったのにぃーーーー!」
「せ、っ、か、く、基本を習得出来そうなところまで来てるんじゃ。ここで辞めたら勿体無いぞ! しかも、シンプルにはるは体力が無さすぎる。はい、坂道ダッシュ20本よーい、始め!」
手を叩き、スタートの合図が鳴ると、ボクは仕方なく走り出す。能力の数も、属性に対して一つずつでは少ない。さらに増やして行かないと… あー、やる事がいっぱいだ。さっきまでやる気が出てきてたのに、もう辞めたくなってきた。と、コロコロ気持ちが変わるボクだった。
夜も遅くなり、解散して次の日。今日はボクのバイトの日だ。そして田嶋くんが初出勤の日。
「おはよー…」
「おはよう、蒼井さん、サクさん…」
ボクと田嶋くんは昨日の疲れをしっかり残して、学校へ向かう。身体を動かす度、ギギギと音が出ている。サクは…
「おっは〜!」
(タフだね、ほんと)
疲れ知らずのサクは、いつも通り元気だ。にしてもおっは〜って… いちいち言葉が若くて、それを顔が良いから許されると言うのが、少し腹が立つ。
学校に着くと、昨日だけかと思っていたら今日もクラスの皆んなはボクに挨拶をしてきた。外見が変わるだけで、こんな態度も変わるなんて。中身の根暗は変わってないのにな。せっかく交友関係が広がる良いキッカケなのに、嫌味しか出て来ない自分が本当に嫌いだ。
いつも通り授業を受けていると、廊下側の開いている窓から、誰かが通り過ぎるのを見た気がした。授業中に誰かが通る事なんて、おかしくはない。深くは考えない様にしていたが、何回も通り過ぎる姿に、気にせずにはいられなかった。どうやら往復している様だ。誰だ?
スタスタスタ… スタスタスタスタ…
こちらに気づいて欲しそうな感じがするが、動きが早すぎて顔をしっかり把握できない。仕方ない、廊下の外だったら能力を使ってもバレないだろう。
「ストップ・タイム」
ボクは小さな声で呟き、指先を廊下へ。すると、ずっとウロウロしていた者が止まった。よく見ると、
「チ、チ、チーター!?」
と、ボクは大声をあげて立ち上がる。
「蒼井さん、チーターとは何処に書いてますか? 寝ぼけているのでしたら、目を覚ましてくださいね」
先生に注意され、クスクス笑う生徒達。後ろからツンツンとサクから呼ばれる。
「なんだ? チーターがいるのか?」
ボクは何も言わずに、指を差し廊下の窓を見る様に伝えた。
「チ、チ、チ、チーター!?」
サクも同じ様な反応だ。
「五十嵐さんまで… チーターを見たいのでしたら後でお見せしますよっ…」
なんでこの先生照れているんだ? 顔がいいからってサクには怒らないし。エコひいき、反たーい! その後、先生がふと廊下の窓をみるとチーターの顔を見つける。サクは後ろからボクの耳元で、
「あれなんだ?」
と、聞いてきた。
「ボクも分からないよ。 でも、絶対アザーに関係あるでしょ」
「何で? 着ぐるみきたヤツかもしんねぇよ」
「いやいや、着ぐるみきたヤツウロウロしてたらそれはそれで、通報しよ。 さっきからボクのクラスだけをウロウロして、気づいて欲しそうなんだよね」
「あー、それは怪しいな。あっち行ってみるか? いやぁ… 今行ったら皆んなにバレる」
「そうだなぁ… あ、今アイツの時間を止めてんだろ? 俺がとりあえず邪魔じゃないところに移動させるわ。今グランドに誰もいないし」
グランドに誰も居ないけど、邪魔じゃないところってまさか…
「チ、チ、チ、チ、チー…」
先生は青ざめて、立ち上がったサクの動きを目で追う。サクは、みんなが前に集中している隙に、チーターの顔をした者を担ぎ、サクの席の隣の窓からチーターを落とす。いやっ、流石にアザーの人?動物でも、そこから落としたら…
ボクは慌てて窓の下を覗く。下を見ると何故か無傷だ。
「私も最後まで言わせてよ!」
先生が涙を少し出しながら怒った。サクは何処から持ってきたか分からない一輪のバラを先生に渡すと、すぐに機嫌が治った。先生にバレてやばい事になるかなと思ったけど、これで大丈夫そうだな… ボクは小さな声でサクに話しかける。
「どうやってやったの?」
「あぁ、昨日特訓の時に思いついたやつだ。パワーキーパーと言って、俺の拳から出た氣を自由に動かして物体に接触出来る能力だ。戦闘時には、二段階攻撃が出来るって事。かっこいいだろ?」
珍しく技名がまともだ。お爺さんに痛いところを突かれて真剣に考えたんだろうな。サクが真剣に考えている所を想像すると、何かジワる。
チーターが横たわっている姿を見ると、一応身体は人間の様に腕2本、脚2本がある。下はジャージ上はポロシャツと、教員みたいな格好だ。ということは、教員に変装して学校に侵入したと言うことか? もしそうなら無理があるだろう… よく誰にも会わずに入って来れたな。
授業中、チーター人間にかけたストップ・タイムのせいで、ボクは全然勉強に集中できない。それを分かっているようで分かっていないサクは、小さくちぎった消しゴムをひたすらボクの後頭部に投げてきて、後頭部消しゴムだらけ星人にされた。勉強に集中できないだけで、会話もできるし何をされているのかも分かるから、動けないわけではないんだけどな…。何かボクが気付いてないと思ってるだろうから、気付いてないフリをするボクって大人…。
授業が終わると、グランドに落としたチーター人間を誰にも気付かれないうちに移動させて、解除しないと行けない為、チャイムと同時に立ち上がり、全力ダッシュ。後頭部にひっついた消しゴムがパラパラと落ちていく。
下に降りると寝転がって止まっているチーターを中庭まで引きずり、解除。
パチパチッ。キョロッ、キョロッ。
「何でこんな所に?」
チーター人間は、右と左を一度ずつ確認してボクとサクが目の前にいる事にびっくりして、威嚇ポーズ。今にも噛み付いてきそうな威嚇だ。しかもしっかりと日本語使えるんだな。能力となると速さを生かした能力かな?
「待て待て、お前は誰だ?」
サクはボクの前に立ち、チーター人間に話しかけた。さぁどう出るか?
「あ、ジャガーと言います! 貴方達は?」
「ジャガーかよ!」
ボクとサクが同時につっこむ。
「僕はチーターと人間のハーフなんで、名前がチーターだとよく間違われるんです。名前はジャガーなのに」
「動物園の飼育員さんと肉食動物好き以外に違い分かる人いる!?」
「しかも結局、チーターなのかよ!」
話し出すと案外礼儀正しい。目の前の人たちがボクとサクと分かったらどうなるだろう。
「そして、貴方達は?」
「爽やかな中にちょっぴりビター。アラ・フォー!」
いきなりサクが変身前のセリフの様に喋り出した。ほら、次はお前の番だと言葉に出さず、ボクが言うのを待っている。こんなの考えた事ないよ〜。
「可愛いおめめと、フレッシュなボディ。ジョシコー・セイ!」
振り付けはぎこちなかったが、まぁこんな感じだろ!サクの方を見ると、笑いめっちゃ堪えてるけど。
「2人合わせて〜…」
「ジョアラ!」
ボクとサクは決まった!とやり切った顔だ。だが、
「あ、はー、そうですか…」
ジャガーにはめっちゃ引かれてるー…。
「あの、ハルミって人と、サクと言う人を探してるんですけど、お二人…ジョアラさんは知ってますか?」
一応身バレは防げたか。
「その2人に何の用があるんだ?」
サクが知らないふりして聞くと、
「あー、アランと言う人が本当に連れてくるのか分からないと言って、王様から僕が連れて来れるなら、連れ帰ってこいと言われまして…」
ちゃんと説明してくれた。アザーからくる人って、案外素直。レイヤもすんなり話してくれたし、横柄な王様に不満があるせいか?
「それなら、今やろうぜ」
「ちょ、サク! 何言ってんの!」
サクはきっと昨日やった事を実践でやりたいだけなんだろうな。それを聞いたジャガーはいきなり表情が変わり、着ている服が弾ける様なほど肉体に変化が現れた。
「やはり、貴方達でしたか。 いい加減こっち来てくれないですかね。王様、機嫌悪くて困るんですよ。王様の機嫌が良くなれば隙もできて、こちらとしても嬉しいんですけど」
やっぱり、王様に対して不満があるんだ。これはボクたちと協力してくれれば、戦力が上がるかもしれない。そう思ったボクだが、すぐに戦いは始まってしまった。
「ヴガァァー! ガルガルガル…」
口から火を吹き、ガルガル言って、本当の獣だ。初手はサクがやりたいそうで、ボクは下がってみる事に。火を吹かれた時には、お得意のダイナマイトボディパンチで、火を打ち消す。ジャガーは、火を吹くが、それがメインではなく、結構な武闘派に見える。サクとジャガーの殴り合いが始まった。どちらも、力は同じぐらい。やればやられ、その繰り返しだ。初手はサクに任せたし、そろそろボクもやろうか。
「ストーン・アロー!」
地面が割れ、矢印の形が上に上昇し、ジャガーにアッパーを喰らわせる。体制を変えようとすると、ジャガーの動きに合わせて矢印が動き、滅多打ち。よし、これは使える! そうボクが気を抜いた時、目の前にジャガーが居た。そう、チーターよりは遅いが、ジャガーも人に比べれば桁違いの速さだ。あ、種族はチーターで名前がジャガーか。ややこしい名前だなぁ! じゃあ尚更早いじゃん。だめだ、今能力を出しても間に合わない。食い殺され…
「パワーキーパー!」
サクがジャガーの背後からパワーキーパーを放ち、ジャガーの頬に強烈パンチ。さらにパンチから放たれる氣から編み出される第二の手がジャガーを捉えた! ボクは足の力が抜けて、座り込む。だが、パワーキーパーは編み出した所だ。ジャガーの様な、サクと互角のパワーの持ち主じゃ、まだ捉えるのにやっとだ。もう一度ストーンアローをするか… ダメだ、今、何かすればサクの手から離れてしまう。どうすれば…
「いでよ、コンフィデンス・ウォーター!」
後ろを見ると、田嶋くんが居た。何でここが分かったんだろう。まぁそれは後で聞こうか。それより、お爺さんに自信をつけろって言われてたけど、技の名前につけちゃったの! 真面目だなぁほんと。
すると、ジャガーの足元から水の渦が現れて身体を締め付けた! まだ田嶋くんの力だけでは抑えきれなくても、サクのパワーキーパーでさらに強化。
「く、くるし… ギブ…ギブギブギブ!」
ジャガーが白旗をあげると、田嶋くんのスティックから、コンフィデンス・ウォーターの水綱を出して拘束し、サクのパワーキーパーは継続。
「すみません、僕の負けです」
戦闘が終わるとまた元の態度に戻るの、好感持てるな〜。ま、1対3だから、1対1だったら相当強いな。
「なぁ、ひとつ取引をしよう」
サクがしゃがみ込み、ジャガーの顔は近づくと不気味な笑みを浮かべる。
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