第十八話 特訓開始
「よーい、初め!」
お爺さんの家に着いて早々連れてこられた場所は、100メートル程ある坂道のふもと。お爺さんのストップがかかるまでずっと走らされている。走る前に言われたのは一つ、能力を出す瞬間の身体の熱を体幹の真ん中に集めながら走ると言うこと。
なんだよそれ、ボクは熱も感じないし、体幹なんて皆無。特訓をつけてくれるのは有り難い話だが、直感的な事はボクには無い。その点、サクは理解したのか何度もボクを抜かして走って行く。こう言うの得意そうだもんな…。
田嶋くんも同じくやる気に満ち溢れている。本人自身、能力は無いが、どうやらお爺さんが用意したステッキには秘密があったらしい。今はまやかし程度の威力しか出ないが、ステッキを持つ手から、身体能力、何かを守りたいと言う想い、自信が、氣となり能力者と変わらない威力に変わるみたいだ。
「はる!ただ走っとるだけでは、体力が付くだけで能力には反映しやんぞ!」
この通り、ボクだけ置いて行かれている状態だ。元々ボクは体育会系でも無い、3ヶ月で進化できるのか不安でいっぱいだ。
お爺さんのストップが入り、次は個々の能力の使い方に指摘が入る。
「サク、お前さんは攻撃がワンパターンなのに、何故、技の名前がコロコロ変わるんじゃ? お前の強力なパンチは必殺技にもってこいじゃろう。一つの技の名前を考える暇があるなら、新しい技を習得する方が先じゃ」
「チースっ」
痛いところを突かれて、指で髪の毛をくるくる捻り、チャラ男で誤魔化してるサク。続けて田嶋くんにもアドバイスが。
「田嶋、お前さんはとにかく自信じゃ。自信をつけろ。能力がない事でハンディキャップを持っていると思っているか? そうだとすれば、それは違うぞ。能力者は個々の限界パワーゲージを、持っている。それをいかに引き出せるかによって、能力値は変わってくるのじゃ。だが、田嶋はゲージがそもそも無い。ということは、能力者よりも伸びしろが大いにあると言う事じゃ。それには、自信となる実績が必要になる。ワシが、ゴーレムを用意するから、とにかく戦い続けろ」
「なるほど。能力を持ってないからこそ出来ること… さらにやる気が出てきました! ご指導よろしくお願いします!」
真面目な田嶋くんは、やる気に満ち溢れている。なんだか田嶋くんが一番実践的で、理想通りの特訓だなぁ。それに引き換えボクは…
「はる、お前さんのパワーゲージは未知数なんじゃ。さっき田嶋には限界パワーゲージがあると言ったが、はる は例外。それを最大限引き出す必要がある。それともう一つ、アザーには大きく分けて、5つの属性があるんじゃ。フランム(火の属性)、オーウン(水の属性)、ソンイル(土の属性)、フラシュ(光の属性)、マルチ。サクとはるは、マルチに該当するじゃろうな。サクはパワー系の能力しか出せんが、はるは違うじゃろ? 全ての属性に順応でき、弱点もないと言うわけじゃ。ここまで聞いたら自分でも分かるじゃろうが、アザーへ向かった時にどんな時も戦力になるのは、はるだと言うことをな」
ボクは身震いするような感覚と共に、責任の重さを痛感し恐怖を感じた。でも、ボク狙われてるんだよね!? その立ち位置のボクが、最後の砦って、後3ヶ月でどうにかなるの? あー不安だ…
それからボクたちは、足りない部分を補う為、個々に特訓を始める。ボクは今の所、フランムに該当する攻撃技は、『ファイヤーエクスポーション』、オーウンは、『ウォータージェット』、フラシュは、『ちぢれ麺サンダー』、後はマルチに該当する『テレポーテーション』『テレパス』『タイムチェンジ』などが使える。お爺さんから話を聞いていると、オーウンから派生して、氷を操る者、泡を扱う者、ソンイルから派生して、植物を扱う者など、単に火や水を扱う者だけじゃないらしい。だが、弱点は同じで、フランム<オーウン、オーウン<フラシュ、フラシュ<ソンイル、ソンイル<フランムとなるみたいだ。そうなると、ボクはソンイルの能力が最低でも必要になる。そこで…
「レイヤ! 地面めちゃくちゃにするヤツ、ちょっと見せて」
「いやっ、こんなところでしたら特訓する場所がなくなっちゃうよ?」
「良いぜ良いぜ〜、めちゃくちゃにしよう。お前もそのままこの地に沈め」
お爺さんのお手伝いをしていたレイヤにボクは声をかけた。レオも出てきたが、レオはアーシャには弱いようで、アーシャが手懐けてくれ、レイヤに戻った。荒れた地はボクが直すと伝えると、レイヤから離れ、改めて技を披露してもらう。今知っている事は、効果範囲が15メートル、地面を自由に扱えるが基本は盾と相手の足場を無くすと言う事。
「じゃあ、いくよ」
その途端、地響きが身体に伝わり、盾を作ったり、とりあえず荒らすような感じだ。なるほど、昨日、ボクが見た物はあれが最大限の攻撃と言うわけか。
「レイヤ、自分や仲間を守るのには凄く良いけど、決定的な攻撃はどうしてるの?」
「うーん、僕は地面を操れるんだけど、自分の思った形にするのには限界があるんだ。だから、飛び出た瓦礫と瓦礫の間に挟むとかかな?」
ひぃぃー! 平然とした顔で凄い事言ってるよ。でも、サクはそこまでされていなかった、何故?
「昨日はそんな事してなかったけど、何か制限でもあるの?」
こめかみあたりをポリポリ掻きながら、
「あぁ、捕獲対象だったからって言うのもあるけど、レオが好き勝手している間、僕は出来る限り動きを制限していたんだ。殺してしまっては怒られるし、僕も後味悪いしね」
とレイヤは言った。
「あっぶ… 危ない危ない。初めてボク達が捕獲対象になってよかったと思ったよ」
「おしゃべりはいいが、はる、何か分かったのか?」
お爺さんが後ろから入ってきた。さっきまでサクと交戦していたからか、声だけ年相応でそれ以外は若返っている。
「あー… 分かったと言っていいのかなんだけど、口で説明するより、一度やって見ます」
レイヤとアーシャ、お爺さんは、ボクが何をしでかすか分からないと思ったのか、15メートルよりもはるかに遠くで見届けてくれる事になった。
(んー、これ。貴方達、見えるの? 効果範囲50センチとかだったら、レイヤ達がボクのところに駆け寄ってきた時なんて言えばいいんだろうか)
後のことは不安だが、一度やってみる事に。
「ふんんっ!」
……
あれ、おかしいな。手を地面に着き、波動を送るようにしたが、何も起きない。レイヤを見ている限り、技の名前を言わなくても発動出来るんだと思ったんだけどなぁ。
「おーい、腹でもくだしたのかぁ?」
「大丈夫ですか〜? 私、お薬持ってきましょうか?」
「ほっほっほ。なるほどな」
お爺さんはボクのやりたかったことを察したみたいだ。
「はるー、お前さんではそのやり方では無理じゃ。レイヤは元々ソンイルが身体に根付いておるが、多様な能力を使うはるでは、技名を言わない限り発動しないぞ」
なるほど。確かにボクは多彩に能力を発動できたとしても、本家に勝るほどの打ち込みはしてられない。じゃあ…
「ストーンアロー!」
また発動しないのかと、半分諦めていたボクだが、技名をつけるだけでレイヤ達が急いで逃げるほど広範囲に地割れを起こし浮き出た地面でハート型を形成した。15メートルはゆうに超えておそらく、100メートルほどは効果を反映させれると言う事が分かった。
「はるみさーん凄いじゃないですか!」
「凄いです! しかも、ハート型を作るなんて可愛い。次は私の顔を作ってください!」
「やはり、はるの能力値はあなどれんな。何故これを思いついたのか教えてもらおうかのう」
遠くに離れた3人が駆け寄ってきて、褒めてくれるが、距離も距離だ。みんな息が上がって、何だか申し訳ない。
「おーい!」
ん?上の方から声が聞こえる。
「おーい!下ろしてくれ」
うーん、何だか聞いたことあるような声だが。上を見上げると、ボクの知っている人に見えるが、んー、気のせいという事にしよう。他の3人は全く誰がいるのかも見えないみたいだ。さっ、特訓、特訓っ。
何もなかったかのように、ボクは特訓を続けようとするが…
「おい!無視すんな! はるみなら見えてるだろ!早く降ろせ!」
「見えてないですー」
ボクは見上げることもせず、あえて知らんぷり。だって、上にいるのはサクだから。何であんなところに乗ってんの? ヒーローが後から登場してきた練習とか言わないよね?
「おーい。下ろしてくれよぉ。ヒーローは後から登場するのがかっこいいだろ? この瓦礫の高さピッタリだと思ってよ。脚に俺の最強パワーを吹き込んでみたら、乗れちまったんだよ」
(はい、マジでしたー。後からも何も、一緒に行動するんだから、一旦はけて戻ってくるってことなのかなー。そんなことしてないで、戦え)
「はるみ、今、俺のことdisったろ。見えなくても分かるぜ、俺の筋肉がそう言っている。右腕のジャンと左腕のプがな」
「いや、そこお爺さんから吸収したの? いらないいらない、筋肉に名前なんて。しかも、『ジャンとプ』って。絶対さっきジャンプしたからじゃん。本当ネーミングセンスださい」
そこからボクとサクは技の名前で下らない喧嘩して、能力を使いやり合った。それを見兼ねたお爺さんが、サクとボクを正座させしっかり怒られた。そんなバカバカしいことをしている場合じゃない、と。どこから持ってきたのか分からないが、竹刀を持ちボクとサクが気が乱れている時に、背中へ喝を入れられる。でもおかしい、何故かボクだけやられてる気が…
「はる、乱れておるぞー、乱れておる。うんうん、乱れておるぞ」
精神統一している時に後ろにいる人って、こんな喋るの?
「かーつ!」
「いたっ! ちょっとボク多くな…」
ボクは耐えられず、後ろを振り向くとしめしめという顔をしていた。
「お爺さん、ボクのことそんなに嫌いですか!?」
「いや、はるのことも、孫みたいに可愛く思っておるぞ。…だってぇ、サクとそんなしょうもない喧嘩が出来るのずるいと思ったんじゃよ〜。でもでもでも、喧嘩してサクに嫌われるのも嫌なんじゃけど〜」
くねくねしながら、嫉妬しているお爺さん。そういう事だったなら、仕方ないか。いや?仕方なくないよね? 体罰だよ体罰! サクも、なんか言って…
「めっちゃ精神統一してるー… まるで仏だよ仏。周りに金色の光が見えるもん」
そんな茶番も終わり、特訓を再開する。
「はる、ストーンアローはどう言う意図で発動したんじゃ?」
「そうそう、見てもらってからの方が話しやすかったから先にやって見たんだけど…。レイヤの能力は、攻撃というよりは防御の方が強いなと思ったんだ。あの荒れ狂う能力は攻撃としても強力なんだけど、相手に攻略されると後は防御に徹するしかないなって。そこで、ボクの思いのまま操れるか試したかったんだよね。じゃあ、思いの外、目的以上に効果が反映されちゃったって感じ。ハート可愛かったでしょ」
ボクは舌を出し、出来る限りぶりっ子をするが、
「なんじゃ? お化けの真似か? 良いのう、ハロウィンの時は、はるがお化け役で決定じゃ!」
(違う違う違う、そうじゃないのに)
ボクの舌はゆっくりと力が無くなり、下を俯き、本当のお化けのようになった。
「あー、嫌じゃったか。上手く出来てるとおもったんじゃけどなぁ」
「と言うか、すぐ話逸れるなぁ!」
ぷんぷんボクが怒っていると、やっと真面目に話をしてくれた。
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