第十五話 不機嫌
「あ! バイト!」
ボクは急いで時間を確認する。時刻はPM4:55。ここからは歩いて行くと20分はかかる。ボクが走っても18分ほどにしか縮まらない。色々ありすぎてバイトのことをすっかり忘れてしまっていた。だが、お金のため、明日のご飯のため、私生活では使わないようにしていたが…
「ボク遅刻するから行かなきゃ、特訓のことまた学校で教えて、それじゃっ。 テレポーテーション!」
「おぉ!行ってこい!」
サクを筆頭にみんなに見送られながらボクは瞬間移動。
PM4:55
「ダァ…ダァ…」
テレポーテーションにはまだ慣れないボク。5分前に着いたものの、息が荒れて入り口の前から動けない。
「蒼井さん、ギリギリセーフだねぇ。どうしたの? なんか疲れてる?」
後ろから店長がやってきた。相変わらずカツラはズレている。ボクら雇われより時間に追われないで済むのに、何故いつもズレているんだ? もしかして、ツッこんでもらうのを待っているのか? よし、試してみよう。
「ダッシュしてきました、あはは〜。 店長も急いで来たんですか? その髪の毛ズレて…」
ボクが言った瞬間空気がキュッと閉まり、店長はガラス張りのドアから映る自分を見ると、腕で汗を拭うかのようにさりげなく戻した。
「タイムカード早く切らないと遅刻しますよ、蒼井さん」
さっきまでのトーンとはまるで違う。事務所では脱いでいるのに、被っている間は意外と敏感なものなんだな。ごめんなさい、2度と触れません。
勤務が始まってからは、引きずる事なくいつも通り接してくれた。これが大人の対応というものか…。にしても、最近能力を使う事が増えて身体の疲れが取れないな。バイト少し減らそうかな。レジに立ち肩を触りながら立っていると、また後ろから店長から声をかけてくる。
「蒼井さん、肩しんどいの? マッサージでもしようか?」
「いーやいやいや、大丈夫ですよ。肩はしんどいですけど、店長にやってもらうなんて、その図を想像するだけでも申し訳ないです」
いつも勤務中よく話しかけてくるが、ボクに触れてくるような事は無かった。何も無いと思うが、何かいつもとは違う寒気を感じ、ボクは逃げるようにレジを出た。やる事は全てやり終えたボクはひたすら前出しをする。
だが、今日の店長はとくに執着してくる。上がりの時間まで早く終わらないかと願っていた時、ボクの腕を掴み、強引に事務所へ連れて行こうとするのだ。どれだけマッサージがしたいんだよ、と思うのと同時に殺気を感じた。さっきから寒気だと思っていたのは殺気だったのかもしれない。ボクはマッサージされ殺されるのか? そんな不条理な事があっていいのか?
店長が事務所の扉に手を伸ばしたその時…
「店長さん! 先日はどうも。うちのはるみが何かヘマでもしましたか?」
サクの馬鹿力で掴まれていた腕は引き離され、サクの後ろにボクは引き込まれる。
(なんとまぁ、かっこいいご登場。ヒロインだと、こんな時ときめくのかもしれないが、ボクはもうトキメかないぞ。なんだかんだ言って、サクは顔もルックスも良い。歳は離れているが、恋愛に年の差なんて関係ないと言うぐらいだ。一つ一つに胸キュンしてしまっていたら、ボクの心臓が持たないからな)
サクの後ろでうんうんとうなづき、1人で話を進め納得するボク。
「あぁ、こないだの。 貴方は雇えないと伝えたはずですけど、何のご用で?」
いつも怒らない店長が、今日のカツラの話といい、サクに対しても、珍しい態度だ。
「いえいえ、はるみは今日体調を崩していて、心配で見にきたんですよ。どうやら、体調が悪く休憩させて頂けるところだったのかな? すみませんが、心配なのでこのまま早上がりをさせて頂けませんか? 就業時間も残りわずかですし、正社員と言うわけでもないので、ただ、はるみのお給料が少し減るだけですし、ねっ?」
何故か、戦闘時にでる圧を感じる。何でこの訳のわからない店長にそんなにムキになっているのかも分からないが、助けてくれようとしてるんだろう。ボクも一応しんどい振りをしよう。店長は防犯カメラの方にチラッと目をやり、仕方なくボクを早上がりさせてくれた。
ボクが制服を脱いでいる間は、サクが見張って行くれていた。ただ服の上に羽織っているものを脱ぐだけなのに、過保護すぎる気が…
ピンポンピンポンピンポン…
ピンポンピンポンピンポン…
「さっきは、ありがとね」
本当はボクより歩幅が広いのに、ボクに合わせて歩いているサクの横顔見ながら、小さくお礼を伝えた。
「あぁ」
なんだ?いつもように、チャラい言葉を言わない。というより、不機嫌だ。
読んで頂きありがとうございます。
今回は少し短いですが、すぐに続きを投稿しますのでそちらも読んで頂ければと思います。
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