第十四話 スパイ
「アーシャ!! 何故ここへ?」
アランが、女の人を連れてこちらに向かってきている。きっとその人が、アーシャと呼ばれている人なんだろう。
「レイヤ!」
アーシャはレイヤに駆け寄り、飛びつく様に抱きしめた。
「ごめんね。レイヤ。私が捕まっちゃったからこんな事までさせて」
涙が目から溢れそうなアーシャとレイヤ。
「僕こそ、僕から迎えに行けなくてごめん。 どうしてここへ来られたの?」
「それは、あのアランという人が出してくれたの」
「アラン? アランって、王の配下で能力の複数持ち。本来、自分の脳力は生まれた時にすでに決まっていて、それ以上は増えないはずなのに、未だに能力の芽生えを持つ、何を企んでいるのか分からない、あのアランなのか!?」
えー。ちょっと待って、色々情報がありすぎて。レイヤもしっかり説明してくれたけど、アランが王の配下!? どうなってんの、ボク達は利用されているって事?
「安心してください。信じてもらえるか分かりませんが、私は貴方達の味方ですよ。アーシャさんを助けたのも、はるみさん達の元へ向かったのがレイヤさんと分かったからです。潜入の為、王の配下に付いていると言う訳です。いわゆる、スパイという者ですね」
「スパイ!?」
サクがまたキラキラした目で、興味津々だが、田嶋くんは違った。
「僕は、まだ会ったのは1度だけなので、それを聞くと完全に信用するのは怖い気もします」
田嶋くんの考えはごもっともだ。確かに、ボクたちの味方なのならば、アザーから来る敵をこの星に来させない様にするだろう。本当は何を考えているんだ、この人は。そうなると、ボクの両親との知り合いという事も、怪しくなってくる。
「信じたくなければ、無理に信じなくてもかまいません。私は、はるみさんのご両親を守るために動いているだけなので」
「でも、こんな事すれば王に伝わって追ってが来るんじゃ…」
レイヤは不安そうだ。それもそうだ、それが怖くてアーシャを連れ出せなかったんだから。
「そこは安心してもらってかまいません。私がはるみさんとサクさんを連れてくると言うと、すぐに釈放の許しが出ましたので」
「いや、そこでボク達を出しに使うんかーい! 普通に怪しいんだけど」
ボクはサクの後ろに隠れる。
「いずれ、はるみさん達はアザーへ行かねばなりません。ただ、経験値も無くアザーへ向かう事は危険です。そこで、捕獲をするために来る者をはるみさん達の練習相手として使えると考えました。ですが、サクさんの強力なパンチが当たらないと対処できない事、はるみさんの能力を引き出せていない事を踏まえると、アザーに立ち向かう為にはまだ不十分です。なので、強力な特訓相手をお連れしました。どうぞこちらへ」
アランが指す方をみると、そこにはサクのお爺さんが居た。
「爺ちゃん、俺のパンチ受け止めれるのか!?」
ボクは激しく頷き、同意する。
「ワシも断ったんじゃが、アランがどうしてもって言うからのう… サク、試しにワシに打ってきてくれ、100%の力でな」
「分かった、じゃあ遠慮なく」
サクの腕はメキメキ音を立てながら肥大していく。心配していたが、すんなり了承するのもサクらしい。ボクと田嶋くんはヒヤヒヤしながら、見守る。
「行くぞ、爺ちゃん」
「おぉ、来い来い」
サクが構えた瞬間、空気が一気に変わる。身体の奥まで伝わる2人の覇気に、身震いをするボク。
「エターナルハイ、パー!」
トンッ。
「なるほど。流石の威力じゃ」
(え、、。 流石って、あの凄まじい威力のあるサクのパンチを素手で、しかもグータッチのように受け止めた!?)
「マジ!? 爺ちゃんびくともしねぇ」
サクも驚いて1歩下がる。
「流石です、ロン陛下。お力は健在で、嬉しく思います」
「もうその呼び方はやめてほしいのう。爺さんで十分じゃ。これでも現役の頃からは落ちぶれておるぞ。まぁ、今のワシでも能力値は孫達に負けておらんがな」
「これで分かりましたか? 今貴方達が元王には太刀打ち出来ないという事です。期限は3ヶ月。それまでに私が貴方達を連れて行かないとまたさらなる強敵がこちらにやってきます。それまでにご自身の実力を発揮できる様、特訓を行ってください」
こうして、ボク達はサクのお爺さんに特訓を受けることになった。レイヤとアーシャはココの生活に慣れるまで、お爺さんの家に居候をする事になり、その間ボク達の特訓に付き合ってくれるという話だ。
「あの… さっき蒼井さん、キスしてませんでしたか? サクさんに…」
ボクの顔が沸騰していく。それを見た田嶋くんは少し嫉妬をしているように見えた。
「キス!? どこにだ?」
サクは何だか嬉しそうにしているが、どこに? 口以外あるのか? えっと… ひょっとして…
「アラン、もしかしてだけど… さっきのは、どこにキスをしても良かったってこと…」
「ん?キスとは言いましたが、口になどとは言ってませんよ。ファーストキスだと騒いでおりましたで、よほどお口になされたかったのですね」
普段表情を見ても何を考えているか読めないが、今はハッキリと分かる。凄く、ものすっごく、悪い顔をしているから。
「騙したなーー!!」
ボクは顔が太陽のように熱く赤くなる。怒っているボクをみて凄く楽しそうだ。
「いえいえ、騙してなんかいませんよ。 結果、サクさんがこうして元気になり、私とアーシャさんが駆けつけるまでに間に合ったのですから、文句無しではありませんか」
「文句大アリだよーーーーーー!!」
サクの方を見ると、いつでもどうぞと言う顔をして待ち、田嶋くんは何故か少し拗ねて、お爺さんは顔を手で覆いながら、指の隙間から目を覗かせている。果たしてこんな男達の中でボクは強くなれるのか…
読んで頂きありがとうございます。
次回から特訓編です。特訓中に新たな刺客が来ないと良いですが…
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