第十三話 お姫様の目覚め
サクは瓦礫の上を飛び越えたはずだったが、下方から伸びてきた瓦礫で空へ向かって吹き飛ばされていた。その後、瓦礫が崩れサクは下へ叩きつけられる。この光景をボクは見るに耐えなかった。
「蒼井さん! 策を立てずに突っ込んでは二の舞になります! 対策を早急に考えましょう!」
田嶋くんは、荒れゆく地に飛び込むボクを止めるが、そうは言ってられない。あのまま好き放題にされるのを放っておきながら考えていては、取り返しのつかない事になる。
「ごめん。今はボクがやらないと! 一応、策はある。 何でも無いあの日の時間を無くしたく無いのはボクも一緒だよ! だから信じて田嶋くん」
田嶋くんは拳を強く握り、
「分かった。頼んだよ、蒼井さん! 僕も最大限サポートするよ」
悔しさと仲間を思う気持ちが、ボクの背中へ伝わってくる。いきなり異次元な生活が始まって、それについて行くと決めた田嶋くんは、甲藤している最中だ。田嶋くんの意見を尊重して、田嶋くんの存在が大事な事を証明してあげたいが、きっと今はそうするべきじゃ無い。これからもっと強い敵が現れるかもしれない。そんな時に、迷う時間があると全滅だ。ごめんね、田嶋くん。ボクは、思考を読まなくてもちゃんと伝わってる。ボクたちの為に何が出来るのか、少しでも役に立ちたいという気持ちを。だから見てて、戦闘員はサクだけじゃない、ボクもいるって事を。
ボクは、ちぢれ麺サンダーや、タイムチェンジなどを使い、何とか荒れ狂う地に対抗する。サクは、下に打ち付けられたまま動かない。相手の能力を封じ込めれば勝機はあるんだけど…
(そうだ、アランの能力、ノンパワーインター…)
ボクは見様見真似だが、やってみることにした。ボクらしい名前をつけないといけないんだよなぁ。今回のは少し考えるのが難しい… えぇぇい!これはどうだ!
「ノーパンが良いんだー!」
……。
フッ。だろうな。滑ってるし、若干下ネタだし。後ろで冷たい顔をする田嶋くん。優しい田嶋くんでもそうなるか。では気を取り直して…
ゴゴゴ…ゴゴゴガシャーン…
ボクがモタモタしているうちに地面だけではなく、周りの建物までも崩れだしている。これだと中の人達も危ない!
(はっ… そうだ。ボクはマネごとだけが出来るわけじゃ無い。見たものや想像した物を編み出せる)
レオ、レイヤに向かって指を向け、冷静な声で力強く、
「ストップ・タイム」
と、唱えた。その途端、レオ、レイヤの動きと同時に荒れ狂う地も止まった。能力の効果は本人が解除するまで、あるいはアランのノンパワーインターを発動するまで無くならない。そして、かけられた本人の意思が途切れるとそれ以降能力が増強することはない。よって、荒れた地も一時的に止まったという訳だ。動きを止めても、状況が良くなることはない。だが、サクの安否を確認と共に、安全な場所へ移さないとボクも思うように能力が出せない。止まった瓦礫を避けながらサクの元へ行った。
「サク、サク! 起きて!」
息はしている。でも意識がなさそうだ… 丈夫だと思っていたが、丈夫なのは増強された腕だけだったみたいだ。他の部位は一般人と変わりがないという事なんだな。サクに任せっきりになっていたボクが不甲斐なく、涙が滲み、サクがどんどんぼやけて行く。
だが、メソメソしていても仕方がない。今度はボクが引っ張って行く番だ。元はと言えば、ボクが捕獲対象になった事によって、サクと田嶋くんが巻き込まれたんだ。責任を取らなければならない。グッと力を入れ、立ちあがろうとした、その時。
"キスをしてください。そうすれば意識は戻ります"
頭に直接声が聞こえた。なんだか、聞いた事ある様な声だけど… キスか。やってみるか。サクの頭と頬に手を当て、ゆっくりと近づく…
「って、出来るかぁーー! ボクまだファーストキスもまだなのに。というか、した事ないのに、ハードル高すぎるぅ!」
"ファーストキスの相手はお父様だと聞いておりますが… そんな事言っている場合ではありませんよ"
(あぁ、この声とこの情報力。はぁ…)
「分かりましたよ。ちなみに、お父さんとのファーストキスはカウントしないですよーだ」
子供のような反抗的な態度になってしまったが、もうやるしかない。グッと目を瞑り、サクの口元へ近づく。
「ん、ぷはぁー。 無理無理無理。息できん! キスする前に酸欠になるよ、これ」
"モタモタしていると、ストップ・タイムが破られますよ。お相手の能力値ではアザーのトップクラスのお人ですから"
「そんなこと言うんだったら、アランがして下さいよ!」
……
「はぁー、都合いい時は返答しないのね」
そう、さっきから聞こえていた声は、アランの声だったのだ。意識中に介入し会話ができる能力を持っているなんて、まだ何を秘めているか謎が多い男だ。ボクは頬を叩き、気合を入れ、キスに挑む。
チュッ。
(こんなので、意識戻るの? ってか、戻らなかったらボクのファーストキス返して)
いざ、行動に移してもぐちぐち文句を言うボクだが、タイムチェンジすればいい話。でも、一度したと言う現実が変わらない事に頭を抱えながら左右へもがく様に転がる。
カラ、カラカラ…
瓦礫が動く音がして、目を向けるとマッスルポーズをしているサクがいる。
「いや、お姫様か! こうなる事は聞いていたから分かっていたけど、キスで目を覚ますって。こんなゴリゴリのお姫様起こしても全然ロマンティックじゃないよ」
意識が戻るだけではなく、何故か身体も回復されてそうだ。まぁ元気で何より。
「はるみが治してくれたのか! どんな能力を使ったんだ?」
「ぐっ…」
サクはどの様に目を覚ましたのか分かっていない様子。目を覚させた光景が目の裏に浮かぶが、遠くへ吹き飛ばし、しっかりシラを切る。
「あぁ… あれだよあれ、あれ」
「あれってなんだ? あ、ハワイアンビームで電気走らせて起こしてくれたのか!」
「あー… そうそう! そうなの。ビビビッと心臓マッサージされるかの様になるかなって。あははは〜」
なんとか誤魔化せたみたいだ。良かった。よし、サクは元気を取り戻した、今が反撃のチャンス。
「サク、ボクの能力がいつまで効くかわからないんだ。だから、簡潔に言うね。 ボクがアイツを止めたからとにかくパーンッっと、ぶっ飛ばしちゃって」
「オッケー! しゃー、まかせろ!」
腕をブンブン振りながらレオとレイヤの元へ行くサク。良かったぁ、適当な人で。その後、レオ、レイヤは気持ち良いぐらい吹っ飛ばされ、ボクたちの勝利! レオはメチャクチャだったけど、レイヤには何だか悪い事しちゃったな。
吹っ飛ばされたレオ、レイヤの元へ、田嶋くんを含め、テレポーテーションで向かった。着いた時には、ボクと田嶋くんがノックダウンしてしまったが。
「おーい、起きろ」
サクがレオ、レイヤに肩を叩くと目を覚ました。
「ん、んん… はっ! 先程は申し訳ございませんでした!」
ボロボロの身体だが、全力で土下座をするレイヤ。
「まだ負けてねぇぞ… 代われレイヤ」
「これ以上荒らしても無駄だよ。もう戻って」
一瞬、レオが出てきたが、レイヤに戻された。サクと田嶋くんは何のことだか分かっていない様子だ。
「ははは… この通り、僕、レイヤは二重人格でして… 僕が弱気になるとレオと言う人格になってしまうんです」
サクは目をきらつかせて、
「おぉー! 良いじゃねぇか! お互いの欠点を補えてるし最高だ!」
「いやいや、それよりさっきまで僕達に敵意向けてきた人ですよ?」
と、さっきまでのことはチャラになったかの様に振る舞うが、田嶋くんはまだ許してなさそうだ。
「はい、その通りです。こんな事になって大変言い辛いのですが、アザーへ一緒にきて下さいませんか?」
レイヤはボクたちが帰らないとバツが悪いのだろう。きっと今までの奴らとはまた違った様子だ。どうしようか。ボクは来るのを待つだけだと何も状況が変わらない事に薄々気付いている。当初、アランはボクたちがアザーへ行く事を止めていたが、ボクたちを回収する為にこの星に来て、関係の無い人達を巻き込まれるのは絶対にダメだ。
「わかっ…」
「断る!」
ボクが了承しようとした瞬間、食い気味にサクが拒否をする。何故? サクはアニメの様な非現実世界に行けた方が喜ぶと思ったのだけれど…
「分かります。 貴方達がアザーへ来ると、王の望みは叶い、好き放題に使われ、この星、いや、この宇宙中を支配し一つにする事でしょう。 でも、僕はアーシャの為なら宇宙が一つになろうとも、どうだって良い。 貴方達だって、アザーへ来ると両親に会えるのでしょう? 別に悪い話ではないです。 一つ言えるとすれば、貴方達の能力は全て吸い取られ無能力となる事だけです。 用がなくなれば、またこの星に戻ってこれます。 その頃にこの星が残っているのかは保証できませんが」
下から来るのかと思えば、大事な人の為なら他の者はどうだって良いという話か。まぁ、仕方ない"アーシャ"という人が人質になっているのかもしれないしね。
「悪いな。それは無理だ。 俺は、はるみを守らねぇといけねぇ。 悔しいが、今の俺の実力で敵地に乗り込むのはまだ早い。"アーシャ"という奴はお前の女か? 自分の女を自分の手で守らねぇで、どうすんだ? こんな能力を持ってんなら、女を連れ帰るなんて簡単だろ?」
「連れ帰ることはできても、追ってが来て捕まれば次、何をされるのか分からないからできないんです」
レイヤも凄く悔しそうな顔をしている。大人しそうな雰囲気だったが、この人も男なんだな。
「だったら、この星に来ればいい。その時は俺がまとめて守ってやるよ」
「え?」
レイヤは驚いた。でも、それはボクも賛成だ。人質に取る様な王がいる星なんて、その星にこだわる必要なんか無い。その分、この星 が危険に晒されるのだが。ボクたちの事は抜きにして、レイヤ達からすればその選択が合っているはずだ。それもこれも、ボクたちが直接アザーへ行けば、話が済む話だとも思うが…
「その必要はありませんよ」
後ろから、聞き覚えのある声が。ボク達は声の聞こえた方へ目を向ける。
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