第十二話 解除
「すまねぇ、待たせたな」
サクはさっきと違い、ボクと田嶋くんの前に立ち、戦闘モード剥き出しだ。
「あぁ… そんな、怖いです… 僕そんな強そうな人とやり合いたくないし」
男はすごく弱気なのに、何故か緊張感が走る。
「田嶋! 俺がやばくなったら、はるみ連れてできる限り逃げろ。頼んだぞ」
(何言ってるのサク… )
後ろを振り向かず、いつもと違ったサクの様子に、心音が外に溢れそうなぐらい怖さを感じた。
「わかりました」
「ちょ、何言ってんの二人と…」
「でも!! 死ぬ気で頑張りましょう。そして明日、3人で登校し、アオハルしましょう!」
「くぅーー、良いねぇ。蒼晴の為に、アオハルしようぜ明日」
「いや、そこでボクの名前いじるー? アオハル高校と呼ばれ、ボクの名前の略語、そして青春のアオハルで揃えてんの、今触れるー? 原作者、恥ずかしくて今後アオハルに触れれないよきっと」
「何だ原作者って」
「右に同意です」
「あー、こっちの話ー! とりあえず、ボクは逃げるつもりないから夜露死苦ぅ!」
「あー、ウケに行ってるけど滑ってるぜー」
「右に同意でーす」
「もう… 絶対分かってたじゃん。勘弁して… 何でボクが板挟みにされないと行けないんだ」
「あのー、僕その話全然ついて行けないんですけど…」
いきなり男が間に入ってきた。
「うっせー! 早くかかってこいよ!」
3人の声が揃う。
「ゔぅ、怖い… 怖い、怖いよぉ。何でこんな訳の分からない星に行かされて、こんなことしないと行けないんだよー。言う事聞くしかなかったんだけど」
ん?何だか男の様子がおかしい。言葉では怖がっているが、だんだん殺気が強くなって来ている。
「あぁ〝ー、やってらんねー。殺すな?イケドリにして連れてこい? 知らねーよ、そんな事。こんな訳の分からない星なんて、粉々にすりゃあ済む話だろうがよぉ!!」
その途端、地面が激しく揺れヒビが入って行く。今までの死の危険信号とは桁違いだ。あ、足が…。 地面の揺れだけじゃ無い、ボクは恐怖で足の震えが止まらないんだ。情けない、こんな時にビビってる場合じゃ無いのに。
「あっ…」
地割れし、ボクは割れた隙間に落ち…
タンッ!!
上を見上げると、サクがボクの手を握り引っ張り上げてくれた。
「はるみ、今回はマジでやべぇわ。お前らの分まで面倒見切れねぇかもしれねぇ。情けない事言って悪いが、ここを引く事も考えといてくれ」
ボクは拳をグッと握り、悔しさと情けなさに押し殺されそうになる。だが、
「頼りなくてごめんね。サクはサクのやりたい様にしてくれたら良いから。ボクはボクでできる事があるから。自分の身ぐらい自分で守れる様になるよ。だから、後ろめた気持ちは捨てて、思いっきりあの男に渾身の一撃を当ててきな!」
サクは目の横にシワを寄せ、無邪気な笑顔で、
「スペシャルダイナマイトパンチ喰らわしてくる」
と言った。
(おいー! だから名前ダサいって!そこはかっこよく決めろよ!)
大声でツッコミたかったが、やる気満々になったサクの集中力を壊すわけにはいかないので、ボクの身に沈めた。
「そうだそうだ、逃げ回れ。何もできず、そのままお前らも粉々になれ」
ガラリとキャラ変をした男は、すごくノリノリの中、サクは少しずつ距離を詰めて行く。その間に、ボクの出来ることは…
「田嶋くん!!」
しまった。ボクも自分のことがやっとで、田嶋くんに気を回せてなかった。お願い無事でいて!
辺りを見渡すと、
「蒼井さーん、僕は大丈夫です!」
「田嶋くん!! 良かった… ごめん、すぐそっちに行く」
ボクは、サクのお爺さんのテレポートを思い出し、
「テレポーテンション!!」
と、唱えた。すると、姿が消え目的地に辿り着いた。と田嶋くんからはそう見えたと思うが、ボクは新幹線に貼り付けられて飛ばされる様な感覚だった。息を荒くしているボクに、田嶋くんは心配しながら背中を摩る。
「田嶋くん、無事で良かった… ごめんね、ボク自分のことで精一杯になっちゃって」
優しく吸い込まれる様な笑顔で、
「大丈夫だよ。僕が二人と一緒に居るって決めたんだ。自分の事は自分で守るよ、二人に迷惑かけたく無いしね」
と言う。どんな時でも優しい田嶋くんの言葉を聞いて、情けない自分が胸を突き刺す。
「でも、どうやってここまで来たの? さっき居た所と10メートルぐらい離れてるけど」
と、不思議そうにしているボクに下を見る様に言ってくる田嶋くん。下を見たが、何の変哲もない地面だ。何を伝えたいのか。ボクの頭の上にはハテナが出ている。
「ここ、地割れしてないよね。僕はサラサラくんがどこまで能力の効果が出るのか確認する為に、揺れ出した瞬間全速力で走り、出来るだけ遠くに逃げたんだ。やり方はカッコ悪いけど、結果、およそ15メートルを超えると効果は消えてしまう事が分かったよ」
「おぉー!さすが田嶋くん!」
能力が無い自分を理解し、出来る事を見つけすぐに行動に移す。あの時のリーダーと変わってない姿を見て、懐かしく少し胸がキュッとなる。ボクに今できることは…
パチッ
「あれ…おかしいなぁ」
「蒼井さんそれなに?」
「あ、消えるメガネ一時的に解除しようと思って… 確か、お爺さんはウインクで解除とロックができるって言ってたんだけど…」
ボクなりに出来ているはずなんだが、なかなか解除されない。
パチッ
「あれ?」
「どっちも目を瞑っているよ」
パチッ
「んー?」
「なに?鼻痒いの?」
「こうか!」
「寝起きですか?」
ゴゴゴゴ… ゴロゴロォッ……
ボクがモタモタしている間に、サクはサラサラサラ髪に急接近し、パンチを炸裂している。だが、サラサラ髪は地面を自由自在に扱い、サクの攻撃の効果があまりなさそうだ。
「やばいよ田嶋くん! サクがピンチだ、ボク早く解除しなきゃ! ごめんだけど、ボクの目広げてくれない?」
「それって自分で出来るんじゃ…」
と、断ろうとしていたが、ボクは顔を少し前にし、スタンバイしているのを見て、仕方なさそうに田嶋くんはボクの目を見開けてくれた。
その途端、ボクの顔の周りに光が現れ、田嶋くんの顔を見ると、
"世話の焼ける人だなぁ。 まぁ可愛いから許してしまうんだけど"
読めた。思考は読めたが、よりによって田嶋くんも可愛いなどと。調子が狂うじゃ無いか!
ニヤけてしまうボクに、悟った田嶋くんは照れてしまい、二人でくねくねしている。そんな中、サクは休まず戦い続けていると言うのに…
「サク!! 今からボクが援護する! ボクの言った所にハイパースペシャルダイナマイトパンチを打って!」
サクは少し後ろを向きながら、
「助かる! ん? スペースシャトルダイナマイトボディ? まかせろ、俺のダイナマイトボディで終わらせてやるからよ」
(んー、違うけど、なんか聞き間違い方もキモいけど。頼んだぞ!サク)
ボクはサラサラ男の思考に集中する。
"オラオラオラァ、壊れろ。もっと壊れろ。こいつのパンチまともに喰らったらオワコンだろうなぁ。痺れるぜぇ。俺に叶うわけがないと思い知らせてやる"
ナヨナヨしていたのに、奥にこんな性格を潜めてたなんて。ん?何か他にも聞こえる。
"レオ!やめて!僕はこんなことしたくないんだ。話をすれば、アザーへ一緒に来てくれるかもしれないんだから"
"うるせえ。レイヤ、そんな事言ってっから、おっさんにも周りにも舐められんだよ"
恐らく、サラサラ男は『レオ』と『レイヤ』の二重人格なのかもしれない。そして、二人の意思が通じるその瞬間だけ、能力の操作が疎かになる。これは使えるぞ。
「サク! そのサラサラ男に負けんじゃないの?」
サクは頭にピキっと怒りのヒビが入る。
「なにぃ!? 援護するって言った所じゃねぇか!」
欲しいリアクションありがとう! さぁ、これで、レオ、レイヤはどう出るか。
"仲間割れすんじゃねぇか? いいぞいいぞ、もっと気を抜け。その間に俺がメチャクチャにやってやるよ"
"ほら、相手、喧嘩しそうだよ。ボクたちのせいで仲間割れなんて可哀想だよ"
"うるせぇ! お前は黙ってろ"
ふふ。いい感じだ。見た目はボクより少し上に思えたが、きっともう少し幼いはずだ。少しボクらが言い争う姿を見るだけで、影響されているのが、その証拠だ。これはもう少し揺さぶれば、大きな隙ができる。
「だーかーらー、そんなワンパターンなパンチだけじゃ、無理だって言ってんの! ボクがいくら援護したって、到底敵わないね! このヘボ野郎が!」
ボクはサクに挑発し続ける。
「はぁ!? お前さっきから何言ってんだ? この美と男らしさを備えた俺が、ワンコパンチだって? ふざけんのも大概にしろよ。見せてやるよ、セクシーダイナマイトパンチをな」
(聞き間違い多くない? 何だよワンコパンチって。逆にセクシーダイナマイトパンチより、ワンコパンチ見せて欲しい)
"あはははっ、ワンコパンチだってよ。ワンっとかするのか? 本当、こんな奴らに時間をかけるのが勿体無い。チャチャっと終わらせようぜ"
"ブブッ。…ん、んん〝。馬鹿にしたらダメだよ、レオ。だから、もうこれ以上荒らすのはやめて。ボクの身体返してよ!"
"あん? 返してだ? これは俺の身体だ。お前の物じゃねぇ"
"僕は、穏便に済ませるって言われたから貸したんだよ。この身体は僕のだ!"
"まさかそれを信じてたのか? そんなのに騙されるからお前は強くなれねぇんだよ。息巻いてないで、大人しくみてろ"
"嫌だ! いくら僕と性格が真反対だとしても、目的は一緒でしょ? アーシャを返してもらうんじゃないの!?"
おっと、この二人も色々ありそうだな…。でも!まずはこの状況を、終わらせないとボクたちがやられておしまい。対話に夢中になって隙が見える今、ここだ!
「目の前の瓦礫を超えて、サク!!」
さっきまでボクに怒っていたが、ボクの顔を見ることもなく、瓦礫の頂点に手を着き、飛び越える。
「俺からファンタジーを奪うんじゃねぇ!! セクシーダイナマーイト!!」
サクの渾身の一撃が放たれた事を、見えなくてもこの風圧で分かる。いけー!サク!
ボクは、サク達が抗戦している方へ目を向けた。
「………えっ。 サクーーーーーー!!」
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