第一話 出会い
PM9時50分。
ピッ、ピッ。
「以上合計で、1040円です。ポイントカードはお持ちですか?」
「あー…いいです」
チャリンッ。客の男が、トレイにお金を置く。上下スウェットでフードを深く被り、俯いているから顔があまり見えない。
「1040円丁度お預かりします。レシートは…」
男は何も言わず袋を持ち立ち去っていった。
ボクは、蒼井 晴美17歳、高校2年生だ。地味で、友達も居ない、今はひとりぼっち。半年前、親が失踪して頼るところもなく、こうしてコンビニで朝と夜働きながら生活している。幸い、学費分は置いて行ってくれたから、学校には行けてるが義務教育でも無いし、進学や就職が、有利になるほどの偏差値が高いわけでも無いから、学校を辞めようかと毎日考える。子供を置いて消えたとはいえ、ボクの為に残してくれた学費を無駄にするのはどうかと言う気持ちがあり、結局辞めずにこんな生活をしているんだが。
(あー、ねむ…。そろそろ交代の時間か)
ピンポンピンポンピンポンッ…
ピンポンピンポンピンポンッ……
「お疲れ様でーす。蒼井さん、眠そうだねぇ。1人だと大変でしょう。俺の家、部屋空いてるから来たらいいのに」
カツラが微妙にずれているこの男は、ここの店長、32歳。私を自宅に住ませたがる、おせっかいな人。きっと善意で言ってくれてるんだろうけど、言ってくる時の目がなんかイヤらしいから、ちょっと無理。でも、ボクの境遇を知って時給を上げてもらっているから、邪険に対応する事も出来ない。
「ありがとうございます。でも、親がいつ帰って来てもいいように、あの家に住んでおきたいんです」
ボクは渾身の営業スマイルで答える。
「そっかぁ… 娘でもおかしく無い年齢だから、おじさん心配。何かあったら言ってね」
あぁ… 顔は悪く無いのに、そのズレているカツラが気になって話が入ってこない。アラサーで、てっぺんハゲとは大変そうだ。事務所ではいつも脱いでいるから、従業員は皆んな知っている。
「あははは〜… ありがとうございます。22時になったのでお先に上がります、お疲れ様でした〜」
「はいはーい。今日もありがとうね、お疲れ様〜」
店長はボクに手を振りながら見送った。
店を出たら外の喫煙所で、ついさっき買い物に来た男がタバコを吸っていた。ボクはその横を通り、自転車の駐輪場へ行く。
(はぁ〜、今日も疲れた。高校の課題溜まっているし、やってから寝たら睡眠時間3時間か… すでに眠たい…)
風を感じながら自転車に乗っていると、遠くから何か壊れるようなすごい音がした。嫌な予感がする。ボクの家の方角から聞こえたからだ。
だんだん近くになるに連れ、慌てて走って行く人達がボクの横を通り過ぎる。
「ヤバイって!バケモンだよあれ」
「なんだあれは!」
「これ夢?手から何かでてたよ」
通り過ぎて行く人から聞こえてくる声だ。はぁー、ボクは課題して寝れたとしても3時間だぞ。これ以上睡眠時間を奪わないでくれよ…。
この道を曲がればボクの家があるけど、少し覗くだけでも色んな建物が壊れてる。ボクの家は何故か無事だ。
「女はどこだ。はやく取っ捕まえて帰らねーと、アイツうるせぇんだよなぁ。俺に指図ばっかりしやがって」
イナズマの様な光が次から次へと放たれていく。
赤髪に、少し吊り上がった目。見た目はボクと同じぐらいだな。捕まえるって誰を? あー、こんなこと考えるより、この状況どうするかを考えないと。
ボクの手が青い光に包まれる。
これ使う事無いと思ってたけど、ここぞって時に使えって、父さんから言われてたんだけど、この事か?
〜回想〜
「はるみ。これはなぁ、ここぞって時に使うんだ」
ボクが4歳の頃、物心が付いた時。人の心が読めると知った。いわゆるテレパスだ。他にも、具体的に何が出したいか念じれば、その通りに発動できる。炎の剣を出したいと思えば、何も無かった所から炎の剣が手の中に現れるかの様に。今思えばおかしな話だが、まだ小さかったから、何も思わなかった。
初めは、使い方や制御が下手くそで、お父さんに毎日特訓させられてた。普段ちょっと抜けてて、胡散臭いお父さんも、特訓の時は真剣な顔つきになっていた。ボクは縄跳びしたり、泥団子作ったり、少し大きくなって1人で外を出歩ける様になってからは、ゲーセン行ったり、そんな子供らしい遊びをしたかったのだけれど、お母さんからも、熱烈な応援があったから逃れる事はできなかった。
だんだん上手くなって来た時には、剣で模擬戦をしたり、お父さんに雷を落としたり、寝坊したお父さんに服を着替えさせたりできる様になっていた。お母さんは何故か、傷を一瞬で治してくれたり、訓練疲れで学校に間に合わなさそうになったときは、登校が一番乗りになるぐらい時間を早めることができた。この状況は当たり前なんだと思っていた。
だが、全く違った。小学生の頃、体育の授業でクラス対抗の大縄跳び大会があった時。チームを引っ張っていたリーダーが、体操服を忘れたと聞いた。先生が親に連絡を入れたが、学校に着くのが1時間後だと言われ、大会には間に合わない。ボクはその時、リーダーの体操服を特殊能力で生み出した。喜んでくれる姿を想像していたが、結果は真逆だった。
「気持ち悪りぃ。なんで田嶋の体操服持ってるんだ?」
「自分の事も、ボクって言ってるし、何か変わってると思ってたけど、これは流石にやばいね」
ボクを気持ち悪がる声が、色んな所から聞こえて来た。リーダーは、すごく引いてる顔をしていたが、担任がピシャリと声を張る。
「何で持っているのかは、後でだ! 今から優勝を狙うんだぞ。士気が下がってどうする。田嶋!急いでそれ着ろ! みんなは運動場へ急げ!」
ボクを横目で見ながら、みんなが一斉に運動場へ向かう。リーダーが着替えるから、色んな感情を堪えながら、ボクも後に着いて行った。
大縄跳び大会の結果は優勝。さっきの話は無かったかのように、皆んなはしゃいでいる。でも無かった事にはなってなかった。次の日から、誰もボクに近づくことはなかったから。
大会の後、家に帰ると涙が止まらなくなり、その姿にお父さんとお母さんが驚く。
「はるみ、どうしたんだ?」
「何かあったの? お母さん達に話してくれる?」
泣きじゃくりながらも、ゆっくり説明し話終わると2人は抱きしめてくれた。
「そうか。お前は優しいなぁ、自慢の娘だ」
「はるちゃんは、何も悪く無いよ」
「そうだ。でもな、一つお父さんから謝らせてくれ。はるみが他とは違うという事で、悲しい気持ちや、孤独に思うのが怖かったから言ってなかったんだが、この能力はきっとお父さんとお母さん、はるみにしか無いんだ。だから、いざという時に使うのは間違っていないが、できるだけ人から悟られるような事はやめておいた方がいい。ごめんなぁ、小学生を甘く見ていたお父さんが悪い。だから、その子達を恨むんじゃなくて、お父さんを恨んでくれ。その子達も、言った言葉は冷たいがおかしい事は言ってないんだ」
何でもっと詳しく言ってくれなかったんだと少し怒りもあったが、思えば少しずつジャブを打ってくれていた。
お父さんは、
「はるみ、特訓のことは秘密だぞ〜っ。秘密の特訓って感じして、面白いだろ?」
と言っていたし、お母さんは、
「はるちゃん。今日遅刻しないで済んだ事は内緒ね。秘密の特訓で疲れちゃったなんてバレたら、秘密になら無くなっちゃうから」
と、言ってくれていた。だから、お父さんとお母さんを責めるのはできない。これを受け止めるしか無いと、幼いながらに決心した。
現在に戻る。
ガシャンッ。ドゥドゥドゥッ!
どんどん建物が壊され避難して行く人々。
(お父さんとお母さんに会いたいな〜。そして早く寝たい)
「はぁ… 上手くいくかな…」
ボクは人差し指を立て、隠れながら赤髪男に向けた。
「ハワイアンビーム」
と、ボソッと呟いた後、赤髪男の目に命中。
「ゔぅ!!眩しい…」
赤髪男が宙に浮いている所から下に降り、下を向き俯いている隙に、
「ファイヤーエクスポー↑ション!!」
普段出さない声を出したから声を外したが、赤髪男には命中。炎に包まれた。炎の中から私を見てハッとした顔をする。
「あちちちちちち!! 降参!降参!もう何もしねぇから、この炎どうにかしてくれ!」
あっけなく白旗をあげる赤髪男に、
「ごめんなさい。出すのはできるけど止める方法知らない」
「はあーー? 捕獲対象なのに、そんなこともできねぇーの? あーちちち」
「捕獲対象ってなに。それってお母さん達も関係してるの?」
「おいおい、このまま会話しろってか。その間に灰になっちまうぞ。なんでもいいからなんか出せ! てか、水出せよ! お前の属性はオールラウンダーなんだろ?」
「オールラウンダー?」
「だから、質問してねぇで、早くしろ!」
「えーっと、みずみずみず… ウォーターウォール!」
ボクの目の前に水の壁が出てきた。
「お前守ってどうすんだよ!」
炎の中でじたんだを踏んでいる赤髪男。熱いと言っているわりに案外タフだ。
「ごめんなさい。何年も使ってなかったから、すぐに思いつなかくて… ウォータージェ…」
ボクが能力を出そうとしたその時…。
「うわー!!火車になってんじゃん! 俺はとうとうアニメの世界に入れたのか!?」
声の聞こえる方に目を向けると、その声は店に来ていたスウェット男だった!
「これ、試したかったんだよね〜」
スウェット男は、炎に包まれている赤髪男に走って近づいて行く。
「ちょ、危ないですよ!!」
ボクは咄嗟に声がでて、手を伸ばす。スウェット男は聞こえてないのか、どんどん近づいて行き、パーカーを脱ぎ捨てた。その瞬間ボクは思わず、
「すご!!筋肉! あんな腕でどうやって服の袖通したんだよ!」
と、腕の筋肉の凄さに、止めることを忘れてただ立ち尽くすだけのボク。
「ハイパー… あー、技名考えるの忘れてた。 なんでもいいや、とにかくパーン!!!」
スウェット男が炎に向かってパンチを放っただけなのに、ボクが立ってられないほどの威力。炎は鎮火され、赤髪男は服に穴が開き焦げて黒くなり、髪の毛もチリチリだ。そしてキョトンとした目で立ち尽くした。
「マジ!? やればできるもんだなぁ」
スウェット男が満足げにしている。
赤髪男がボソッと、
「お前、その能力、アザー星出身か?」
と言った。スウェット男は耳糞を穿りながら、
「何だそれ? 俺は赤子の頃に捨てられて今の両親に拾ってもらった。だからどこで生まれたのかも不明だ」
と答えた。
「もしかしてお前…」
「ヴァイロン、話はそこまでです。貴方ではこの女性を連れ帰ることも、この星を制圧することも不可能。さっきので分かったのなら、早急に立ち去りなさい」
赤髪男はハッとした顔で何か思い当たるようなことがあったみたいだが、ボクの後ろからまた知らない声がして、そいつに言われると悔しそうな顔をしながら丸いブラックホールの様な物の中に消えて行った。
「はるみさん、ご無事でしょうか?」
後ろから聞こえた声は、私の名前を知っていた。後ろを振り向くと、かしこまった格好に、ミステリアスな雰囲気を漂わせている美形男子が立っていた。
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