週が明けてーーー千歳の場合
休みの2日間、とても気が重かった。
私の頑張りは全て無駄だったのか。
竜馬にとって私の頑張りは全て重荷だったのか。
全てが空回りしている。
全て忘れてしまえばこの辛さから解放されるのか。
しかし人間はそんなに都合のいい生き物では無い。
私が1番それをよく知っている。
自然消滅という形になってからも私は竜馬への気持ちを忘れたことは無かった。
「はぁ、、、竜馬、、」
思わず声が漏れる。
「私から全部話せれば楽になれるのかな」
「振り向いて、もらえるのかな、、なんて」
それが出来たらこんな遠回りはしない。
私は私なりのやり方で振り向いてもらうしかない。
まだ学校生活は始まったばかりだ。
ここで諦めてしまったら私の頑張りも全て否定することになる。
両頬を軽く叩く。
よし、明日学校に行ったらひとつ仕掛けてみよう。
翌朝、私は誰よりも早く登校した。
そして、日直の名前を
[遠藤 宮守]に書き変える。
ちょっと大胆な作戦な気もするが、意識してもらうためだ。
危険な綱渡りくらい承知のうえだ。
30分くらい経っただろうか。竜馬たちが教室に入ってくる。
どうしよう、急に緊張してきた。
心臓のバクバクが収まらない。
(なんて声をかけよう。この前は逃げちゃったし)
(いきなりその話をするのも変、だよね)
とりあえず、普通に挨拶して様子を見てみよう。
その結論に至った。
竜馬の元に近づく。
「よろしく。遠藤君」
よそよそしすぎたかな。
でもこれしか自然な会話が思いつかなかったし、、
竜馬の顔を見ると、どこかキョトンとしている。
そして目を逸らす。
そうだよね、先週のことまだ気にしてるよね。
竜馬からしたら何言ってるんだろって感じだったよね。
でも今日の私は諦めない。
「そっちのプリントを職員室に持っていけば良いんだよね」
あくまで日直としてのあるあるな会話だ。
こうすれば職員室まで2人で行ける。
半分プリントを渡して職員室に向かう。
、、、なかなか会話が始まらない。
(何から話せばいいのかな、、無難に天気の話とか?いやいや、、初めて会った人じゃあるまいし)
そうしているうちに他クラスの生徒から会話が聞こえてくる。
私の事についてだ。
まだ2日目なのに私のことは他クラスにも知れ渡っているらしい。他の人の意見なんて何も心に響かないのに。
噂ってなんでこう独り歩きしていくのだろうか、と考えていると竜馬が口を開いた。
「ずいぶん、その、、雰囲気変わったよね。周りの男子からも人気みたいだよ」
なんで、他の人の意見みたいに言うの、、?
人気なんて、何も求めていないのに。
「そ、そうなんだ。まぁ、、人気者にも苦労?があるんだね。あはは、、、」
全然違う、、!
「え、でも好意は受け付けてないんじゃ」
やめて、、もう、やめて、、!
バサッ
振り向きざまに書類を落としてしまった。
焦って拾う。
どうしてそんなに他人みたいな言葉ばっかりなの?
初めて会った人みたいに話さないでよ。
、、、竜馬はもう忘れたいの、、?
心が一層苦しくなった。
もう、プリントを拾って早く届けてしまおう。
そう思っていると
「いいよ、大丈夫。ちぃは拾わなくていいよ。」
今、私の事’’ちぃ’’って呼んだ、、?
すぐに竜馬は焦りながら訂正する。
うれしい、、まだやっぱり覚えてくれているのかもしれない。
私は単純だ。あだ名を呼んでくれた、それだけでこの2日間の悩みなんて吹き飛ぶくらいに。
竜馬の顔が見れない。
絶対に今、顔が赤くなっている。
私は足早に、誤魔化すように職員室へ向かった。
今日は、何かが動く1日になるかもしれない。