すれ違いーー過去と今
いや、いやいやいや! あの顔はなんだ? なんであんなに赤くなっているんだ?
だって、彼氏がいたことは彼女にとって黒歴史じゃないか。皆に隠してたくらいだし。
考えれば考えるほど訳が分からなくなった。
、、、いや、もう考えるのはやめよう。僕にとっても彼女は他人なわけだしその逆もまた然り、だ。
とりあえずトイレを出て再び教室に向かう。今日は登校初日だから学校は午前までなので鞄を取りに戻って帰ろう。
ちょうど教室につきそうな時、彼女が教室から出てきた。
気まずい、周りには誰もいない。かと言って顔をそむけるのもまた不自然か。
とりあえず、何食わぬ顔で通り過ぎよう。
「、、、、」
やっぱり睨んでますよね、、?
そんなに僕のことが嫌いなのかな。
それもそうか、あんな別れ方、、、、
『、、、あのさ、僕たちって今でも恋人に見えてるのかな?』
『それって、どういう、、?』
中学3年の秋、僕たちは一つの分岐点に立っていた。まぁいわゆる‘’倦怠期‘’というやつだろう。
お互いが好きなのか分からなくなってくるという、厄介な感情だ。
『ほら、今まで恋人らしいことって色々してきたけど最近は何もっていうか、‘’仲の良い友だち‘’みたいな感じになってると思うんだよね』
『そうだよ?私たちってすごく仲が良い友だちだし、その延長線上に彼氏っていう立ち位置があるんだよ?』
『うん、そうなんだけど、、、さ』
『ねぇりょう。何が言いたいの?』
『いや、何が言いたいっていうか、何もっていうか』
『ちゃんと気持ち言ってよ!』
『わかってるよそんなの!!』
この時の彼女の驚き、恐れた顔は未だ忘れられない。
『あっ、いや、、』
『分かった、もういいよ』
足早に去っていく彼女
『、、ごめん』
僕の謝罪の言葉は彼女には届かない。
この時僕は思ったのだ。‘’厄介な感情‘’とやらに向き合えていなかったのは僕なんだ、と。
それから彼女は間もなく転校し、僕の弁明の機会は与えられることはなかった。
ーーーそれでも、、
「あ、あのっ!」
無意識に声が出てしまった。
彼女も不意を突かれたような顔をしている。
でも呼び止めたところで何を話そう。何も考えていなかった。どうしよう。
あの頃を謝るなら今しかないだろ。
「あの、、!覚えてる、かな?中学の時付き合ってた、、」
「、、、」
沈黙が流れる。彼女は何も言わない。
「あの頃は、ごめん。僕がしっかり向き合っていたらあんな感じにはならなかったから。」
「それで教室でも、さっきも怒っていたんだよね?ていうかごめん。忘れたい話掘り起こしちゃって」
「もう忘れてもらって大丈夫だか、、、
「違う、、!、、違うのに。もういい」
足早に去っていく彼女。少し寂しげな表情。
僕には彼女の感情を読み取ることはできなかった。
ーーーこれは私の初恋のお話
私には‘’彼氏‘’がいた。
こんな目立たない私を好きになってくれた、男の子。
決して学校でも目立つタイプではなかった彼だが、それでも私には初めてできた自慢の彼氏だった。
色々なイベントを二人で経験して、もしかしたらこのまま結婚?そんな浮かれたことも考えていた。
でも中学3年になったばかりの春。両親の離婚が告げられた。
「千歳には迷惑かけるけど、冬には隣町に転校になるからね」
「うん、、、」
両親の離婚もすごくショックだったけど、彼氏と離れ離れになることが一番ショックだった。
なかなか言い出せずに秋を迎えたある日。
彼氏から今の関係について問われた。
確かに、両親の離婚が決まってから口数は減っていたし笑うことも少なくなったかもしれない。
でも、この話の流れで両親の事は言える感じではない。
会話は案の定すれ違い、上手く説明もできないまま彼氏の強い口調で押されてしまった。
私は色々な感情がごちゃごちゃになって逃げだしてしまった。
それから数日、引越しの日程が早まったと聞かされる。
スマホで連絡をとろうと思ったが指が動かない。
最後まで連絡をとれないまま、自然消滅という形で私の恋愛は幕を閉じた。
そして高校の合格発表から間もなくして、あることを聞かされる。
遠藤 竜馬 が同じ高校に入学する。
前の中学の友だちからの情報だから間違いない。
(もう一度しっかり話をしよう。私のこれまでのこと、すれ違ってしまったこと)
高校デビューと思われるかもしれないが、おしゃれもメイクも着こなしも沢山勉強した。
竜馬にもう一度お話をするために、振り向いてもらうために。
そして入学式を迎えた。
なんと、同じクラス。私は舞い上がった。
これですぐに気づいてもらえる。
しかし、いつまでたっても気づいているようなそぶりがない。
自己紹介までしたのに。振り向きすらしなかった。
そんなことを考えているのも束の間、私の前に人だかりができる。
何事⁈と思っていたがどうやら私の見た目を気に入ってくれたらしい。
嬉しいが、他の人のために綺麗になったのではない。竜馬に気づいてもらうために努力したのだ。
沢山の質問攻めに合って、彼氏についても聞かれた。
ちょうどいい質問だ。これで変な噓をつけばびっくりしてこっちを見てくれるに違いない。
私の見立てはどうやら甘かったらしい。
人だかりでそれどころではなかったのだ。
正直疲れた。
飲み物を口実にして一旦離れよう。
「えーなにこの飲み物!初めて見たんだけど!」
んー、、、飲み物にまで話を振られるんだ、、、。
でもこの会話、、なんか覚えがある。
そうだ、竜馬に昔聞かれたことあったっけ。
そのあとの流れも、、、思い出して恥ずかしくなった。
ガタンっ!
椅子の音が聞こえた。竜馬の方からだ。
こちらを見ている、あれ?
すぐに目を背けられた。
失望、というと少し違う感情だが面白くない。
少しムッとしてしまった。
程なくして教室から出て行っていってしまった。
こんなに努力して可愛くなったつもりなのに、、、
気づいて欲しかったな、、、私の努力に。
少し時間を置いて教室を出る。
また、会ってしまった。今度は二人きりで。
なにか言わないと、、、
「あの、、、
「あ、あのっ!」
私の声と重ねて竜馬は話し出す。
竜馬は別れた時の話を謝りだす。
違うのに、、謝ってほしいわけじゃないのに。謝る必要はないのに。
しかも、忘れてほしいって、、、違うのに。
全部違うのに。
そうだ、この感情は竜馬に対する失望なんかではない。
私自身に対するものだ。
私はまた彼から逃げてしまった。
この気持ちはもう伝えられないのか。
忘れるしかないのか。
ーーー苦しい。