うっかりさんは僕でした
昨日の一件で心が軽くなった僕は今朝の目覚めも良く登校の足取りも軽いものとなっていた。
「りょう!おはよ!」
うしろから声をかけてきたのは千歳だ。
「おはよう、ちぃ」
「そうだ、呼び方なんだけどさ二人の時は名前でいいんだけど学校の中ではまだ苗字で呼んじゃダメかな?」
昨日帰ってから考えていたことだ。千歳は学校で美少女なんて言われてるし、周りの人たちは僕らの関係なんて知らないわけだし。
、、、あと西園寺さんに聞かれたら消されそうな気もするし。
「え?どうして?」
予想外の返答をされた。
「え、いや、、ちぃは自覚ないかもしれないけどクラスでちぃと西園寺さんは美少女ワンツーだって言われてるんだよ?そんな人を愛称で呼び合ったらクラスの男子から何をされるか、、、」
考えただけでも恐ろしい。それにあやかって変なお願いをしてくる人たちも居そうだ。
「む~、、別に他の人に何を思われたって私は呼びたいからそうしてるだけなのに」
ほら、そう言ってる顔がもう可愛い。そんな顔クラスでは全くしないから僕と話してそういう顔をされたときに周りの男子に問い詰められるのはごめんだ。
だからこそここは苗字呼びで線引きをする事でちょっとでもそういうリスクを回避したいところだ。
でも納得してくれる様子では無い。登校時間も迫ってきている。何とかしてわかってくれる方法は、、
やっぱり素直に言うしかないか。僕は唾を飲んだ。
「ちぃはその、、かわっ、可愛いから、、さ。だからその、名前呼びが嫌とかじゃなくて、むしろ呼びたいけどもう少し時間がほしいんだ」
改めて可愛いを口にすると死ぬほど恥ずかしい。声がうわずった。
「えっかわっ、、そう見えるの、、?」
恥ずかしいのは彼女も同じだったらしい。
「見えるよ。周りからもそう見えてるかもしれないけど、僕からもそう見えてる。だから、もう少しだけ時間をください、、!」
「そ、そこまで言うなら、、、分かったよ。しばらくは我慢する」
この感じだと彼女がうっかり呼んでしまう、なんてことがありそうだ。
でもとりあえず良かった、、、集団リンチはとりあえず免れた。
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話がまとまり、二人で教室に入った。
それをもちろん見ていた男子たちが僕のもとに集まってきた。
「おまえ、今日宮守さんと一緒に登校したのか、、、?」
「裏切り者、、、?」
「一人抜け駆けは無しだろう!!」
おおかた予想はしていたが、裏切り者とは失礼な。大体手を組んでいた覚えは無い。
「確かに一緒に登校はしたよ」
ざわつく教室。毎日詰め寄られるのは勘弁だから、ここは隠さず説明しよう。
「宮守さんは中学校のクラスメイトだったんだ。だから普通に話すこともあるし、それだけだよ」
一同安堵の声、ため息。
「なんだよー、、入学したときは初対面って言ってたじゃんか」
「それは、、あの空気感では言い出せなかったっていうか」
「まぁ確かに、、だけど急に今日になって一緒にいたから何かあったと思ったよ」
”何か”はあったけども、さすがにそれはもちろん黙っておこう。
「まぁお互い苗字で呼んでるくらいだから普通のクラスメイトって感じだしな!」
あ~、、やっぱりそこは重要ポイントだよなぁ。先手を打っておいて良かった。
この話はそれで終わった。
今日はもうじき行われる学校祭のグループ決めだ。
元々学校祭という行事にそこまで関心のない僕からしたら準備活動も少しめんどくさく感じていた。
「りょーまは何のグループに入るんだ?」
「うーん、楽そうだから展示グループかなぁ。よっしーは?」
「ほんと昔から行事に無関心だよな~。俺は企画グループに入って劇に出ようかと思ってる!」
「なるほど。でも劇なんかやるタイプだったっけ?」
目立つのは好きなのは知っているが、演劇をしているのを見たことがない。
「バカ!大バカ者だなぁ。宮守さんは間違いなく劇に出るだろう?推薦されてたし」
あぁ、、僕がバカだった。こいつはそういうやつだった。
「そういうことか、、まぁせいぜい楽しんでくれよな」
「おー!学園生活無駄にしたくないからな!人一倍楽しむぞ!」
良樹のこういうところはとても好きだ。だから中学から友達だった。
しかし、千歳が演劇、、か。
中学時代を思い出したら演劇を好んでやるタイプには思えない。
どっちかというと展示グループのほうが千歳のイメージに合っている気がする。
「じゃあグループも決まったことだしグループに分かれて集まるように」
先生がそう言い、グループに分かれて集まり始める。
そして、展示グループのところに千歳の姿があった。
良樹が絶望の表情でこちらを見つめている。
可哀想だが自業自得だ。演劇でしっかり目立ってくれよ。
グループ活動が始まる。展示グループでは教室内の装飾を考えて製作していくのが主な仕事だ。
「教室のコンセプトなんだけど、西洋風のイメージはどうかな?」
「いや、ここは和のテイストで落ち着いた感じがいいと思うな」
大枠となるコンセプトについて議論がなされる。
クラスメイトから西洋と和の意見が出たが対立してお互い譲らない。
「和なんていつも見慣れすぎてインパクトがないじゃん!」
「西洋なんて逆に想像でしか作れないからどうしようもないじゃんか!」
これはらちが明かないぞ、、、
「ねぇ宮守さんと遠藤君はどう思う?」
意見を振られてしまった。正直どっちでもいいと思ってしまう。
「僕は、どっちでも作り甲斐あっていいなって思うけど、、」
「ん~、意見がまとまらないなぁ。宮守さんは?」
最終決定権は千歳にゆだねられる。
「私は、和のほうが好きかな。」
「さすが宮守さんだぁ。ね?和でいいよね?」
「くっ、宮守さんが言うなら間違いないか。分かった!和で進めよう!」
「うんうん。遠藤君も決定でいいよね?」
千歳の意見で上手くまとまったようだ。彼女の意見が通ることは何故か自分のことのように嬉しかった。
「うん、僕もちぃの意見に賛成だよ。、、、あ」
やらかした。
僕から苗字呼びにしようって言っていたのについ口が滑ってしまった。
「え、いま宮守さんのことあだ名で呼んだ?」
「俺も確かに今”ちぃ”って聞こえたぞ」
やばい、これはもう言い訳が出来ない。どうしよう。いや、どうしようもない。
ほかのグループの人たちもその会話を聞いてこちらに注目している。
何か言わないと、、、
「えっと、、それは」
「うん。りょうは私のこといつも”ちぃ”って呼んでるよ」
口を開いたのは千歳だ。
でもどうして彼女まで?
「えっ今遠藤君のこと”りょう”って」
「呼んだよ?友達だからね。何も問題ないよね?」
彼女はまっすぐな眼差しでそう言い切った。
「ま、まぁ友達同士なら、、」
「そう、、だよな。変なことは何もないよな」
「そうだよ。変なことは何もないよ。さ!展示の話、進めていこ!」
そうして、ちょっとした騒動は幕を閉じた。
不思議とその後は男子だちに詰められることは無かった。彼女が言い切ってくれたおかげだろう。
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そして放課後、僕は千歳を待っていた。
校門から小走りで駆け寄ってくる。
「うっかりさんだね」
「面目ない、、言い出しっぺは僕なのにね。うっかりさんは僕でした」
「ふふ。でもこれで名前で呼んでも大丈夫だね」
「そうだね。怪我の功名ってやつかな。」
彼女はずっと嬉しそうな顔をしている。
「ありがとう、あの時ちぃから言い出してくれて。僕が弁解してたらこうはならなかっただろうから」
「全然だよ。じゃあ帰ろっか」
「うん。帰ろう」
千歳のおかげで丸く収まったし、僕も彼女のことは名前で呼びたかったからちょうどよかったのかな、、?
とりあえず都合よく解釈して、僕らは帰路に就く。
こう思っているのは僕だけかもしれないが、僕らの距離がちょっとだけ近づいたような気がした。




