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おひとついかが?

 うちの学校は昼食時に学食を利用できる。学生にとって学食で昼食をとる事は一つ夢ではないだろうか。

僕も同じく、学食はかなり楽しみだった。自分のお金で購入する、どこか大人になったような気がするからだ。


「そーだりょーま。ここの学食には‘’数量限定‘’の‘’名物コロコロ揚げパン‘’(100円)というものがあるらしいぞ!」

「やっすいなぁ。でもその金額なら一瞬で無くなるんじゃないか?」

「そ~なんだよ~。上級生が大体買い占めて、ウワサでは一袋200円で闇取引もあるとかないとか、、、」

こわっ、どんだけ人気なんだよ、、そこまで言われたら一回食べてみたい。

「よし、よっしーよ。今日、その争奪戦行ってみよう。」

「まじ、、か、、!わかった。行ってともに散ろう!」

「いや、負ける前提かよ!」


一回行ってみてどんな感じなのか、はたまた噂は本当なのか、ちょっと気になるので行ってみることにした。おいしいなら食べてみたいし。


そして二限目の終わり、僕らは売店へ向かう。うちの学校は二限目が終わった時点で売店が開店する。勝負はこのたった10分の休み時間だ。

僕らは急ぎ足で売店へ向かう。だが、、、


「なん、、だ、この生徒の人数は、、、!」

あろうことか40人、いや50人以上はいるだろうか、まだまだ集まってくる。

そうだ、この学校は上級生の教室の方が階数が下で売店に近い。だからこそアドバンテージがかなりある。

そして、僕らの順番があと20人くらいになったところで

「今日はもう品切れなのよ~また明日ね!」と声が聞こえた。

同時に嘆く生徒の声も。

「くそ、、、‘’3北の階段下‘’だな」

なんだその隠語は。まさかやはり闇取引が、、


「行ってみるか、、?」

良樹はそう言ったが、、

「いや、僕らは正攻法で行こう。くやしいけど」

「わかった、、、!」


明日はもう少し急いで行こう。いや、でも楽しみにしてたから口がもう揚げパンの口になっているのだが、、、我慢だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



そして、昼食の時間。待ちに待った学食だ。

学食は売り切れは無いからゆっくり選べる。せっかくだから沢山食べたい。ラーメンとかいいんじゃないか。


ラーメンを注文してみることにした。良樹は豚丼。

「くっ、、揚げパンの仇っ」

良樹が何やら言っているが。

「おっラーメンうまっ」


びっくりした。もっと簡単な味を想像していたがこれはラーメン屋さんの領域だ。魚介だしがよく効いている。これはリピ確だ。


夢中で食べていると、奥の方のテーブルに見慣れた姿が。やっぱり千歳だ。周りには友だちも数人いる。

そして、僕は気づいているぞ。周りの男子、完全に彼女に目を奪われてる。僕もだけど。


彼女の方から会話が聞こえてきた。

「千歳さん、あの学食名物買った?」

「うん。買ってみたよ」


まじか。あの人だかりでどんな技を使って買ったんだ、、、

「え~すごいなぁ。よく買えたね~」

「一限が終わった時にたまたま売店通りかかったらおばちゃんがいて、なぜか一個もらえたんだよね」


千歳さん、、それは多分君だからだよ、、、


「いいなぁ、もう全部食べたの~?」

「、、うんごめん、食べちゃった」


申し訳なさそうに薄ら笑みを浮かべる彼女、こんな顔をされたら許せないわけがない。

「いいのいいの!また明日チャレンジしてみる!」


すっかり気を取られてて良樹のこと忘れていた。

「あ、そうだよっし~、、、」

あれ、居ない。


と思ったら、なぜか千歳の方に行っていた。


「あの!!宮守さん!!俺っ良樹って言います!」

「あ、えっと、、」

「コロコロ揚げパン一つ俺に恵んでくれませんか!!!」


、、さっきもうないって言ってたの聞こえてなかったのか。ていうかすごい執着だ。

「ごめんね。もう全部食べちゃったんだ」

困り笑いをしながら謝る。

「そ、そうかぁぁ、、ごめん!ありがとう!」


良樹は騒がしいやつだが、気さくでいいやつだ。彼女たちもちょっと笑っていた。


「ごめんりょーま急に!宮守さん全部食べちゃったってさ~、、」

「知ってる。さっき言ってたよ」

「おま、、知ってたのかよ!」

「知ってたけど、言おうとしたらもういなかったんだもん」

「そ、、そうかぁ、、あっやべ、俺今日日直だわ!先行くわ!」


そう言って走っていった。良樹のやつ、食器戻してないな。

ごめんっていうアイコンタクトだけされた。ジュース一本で許してやろう。


二人分の食器を戻していた時後ろスレスレで人が通った。

「あっ、すいません、、」


「、、、1階奥の階段下に来て」


千歳だ、、まさか、闇取引、、


返事を返す間もなく行ってしまった。


食器を戻して取りあえず向かう。奥の階段は生徒が少ない。そこに彼女はいた。


「あの~、まさかなんだけど闇取引なんかじゃないよね、、?」

彼女は目を丸くした。

「えっ闇、、?そんなのじゃないよ!、、ただ」


彼女の顔が赤くなる。

「、、、ただ、あの、、おひとついかが、、?」


そうしてあの名物コロコロ揚げパンを一つ僕に渡す。

「あれ、さっき全部食べたってよっしーが言ってたような」


「、、りょうの分以外は全部食べたよ?」

顔を赤らめながら続ける。

「だってその、、今日走って買いに行ってて、買えてなかったから」

「、、と、とりあえず!一個あげるからっ!」


僕のために取っておいてくれたのか。正直死ぬほど嬉しい。どうにかなってしまいそうなくらいに。

「うん、ありがと、ちぃ」

「、、!うん、いいよ!渡したからね!早めに食べてね!」


そう言うと階段を駆け上がっていったが、踊り場で振り向いて

「じゃあね」

と声には出していなかったが口パクをされて手を振られた。


少し啞然としていたが、一つ貰った揚げパンを食べてみる。


「味、よくわからないや」


きっとおいしいのだけれど、今この瞬間の僕には揚げパンを味わえる心の余裕は全く無かった。

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