過去の匂い
季節の移り変わりは匂いでわかる。
植物や、天候や、日付けよりも一足先に風の匂いが変わって新しい季節の準備を始める。
だから私の中では夏はもう一ヶ月弱前から始まっている。
最近ようやく天候も追いついてきて、人の服装を見ても夏だと分かるようになった。
そんな季節の変わり目だけれども、この移行期で一番体力を使う。多くの人がそうなのではないか?だから風邪を引いたりするのだろう。身体が変化についていけなくなってしまう。心も同じだ。
共感してもらえるか分からないが、こうやって風の匂いが変わるたびに私は何かを思い出している。匂いと記憶が結びつきやすいという話をよく耳にするが、そういった類いのものだろう。
私の一部はここには居なくて、どこか、何か、いつか、誰かを思い出している。
何を思い出しているのだろうか。自分の短い人生で繰り返されてきた何年か分の季節の蓄積だろうか。
ただ浮かぶのは苦しいという感情と罪悪感だけだ。
だってこの断片はここにあるべきものじゃないから。
だから私は変わり目がどうしようもなく嫌いで、どうしようもなく必要なのだ。
いつか、何を思い出しているか分かる日が来るかもしれないから。