「僕の婚約者殿はね」って、それは惚気ですらないのでは? 初めてのデートだというのに、いきなり結婚を申し込んでくるなんてどういうつもりですか?
この作品は、『「僕の好きなひとはね」って、あなたの惚気は聞きたくありません。初恋を捨てようとしていたのに、デートを申し込んでくるなんてどういうつもりですか?』(https://ncode.syosetu.com/n0754ie/)と同一世界の物語です。
『「僕の好きなひとはね」〜』は、2024年2月8日よりブシロードワークス様から発売されている「悪役令嬢? いいえお転婆娘です~ざまぁなんて言いません~アンソロジーコミック2」に収録されております。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
「ヘーゼル、どうか僕と結婚してほしい」
突然、床にひざまずいたダヴィさまを見て私は悲鳴を上げそうになりました。まだ初デートをしたばかりなのに、どうしてダヴィさまはそんなことをおっしゃるのでしょう。しかも、こんなプロポーズにふさわしいとは思えない場所なんかで。
「どうして今、そんな大事なことをおっしゃるんです」
「大事なことだから、今言わなくてはいけないと思ったんだよ」
「そんな、ダヴィさま」
私とダヴィさまのやりとりを冷たく見据えているのは、私のお母さま。温かいとは言いがたい空気の中で、ひざまずいたダヴィさまはただまっすぐ私のことだけを見つめていました。
***
王立学園の同級生であるダヴィさまに、私はずっと思いを寄せていました。穏やかで朗らかで、誰に対しても親切な彼に心惹かれないひとがいるでしょうか。それにもかかわらず自分の気持ちを打ち明けることがなかったのは、彼には好きなひとがいることを知っていたからでした。
『僕の好きなひとはね』、その台詞から始まる甘い惚気を何度耳にしたことでしょう。知り合ったばかりの頃は、その惚気を聞くことが大好きでした。恋なんて自分でするものではない。幸せな人々の惚気を聞くだけで十分。そう信じていた私は、喜んでダヴィさまのお話に耳を傾けていたものです。その愛の言葉は、ダヴィさまに想われている方はきっと幸せになるに違いないと、友人に過ぎない私が確信してしまうほどの熱を孕んでいました。
甘く幸せな恋バナ。けれどいつの間にやら惚気を聞くことが辛くなり、とうとう自分の心を守るために勝手に絶縁宣言を突きつけたのが、つい先日の長期休暇に入る直前のこと。私はダヴィさまから逃げたのです。本当なら自分の気持ちを自分だけは認めてあげて、きちんと恋を終わらせてあげなければならなかったのに。
けれど話はそこで終わりません。何とダヴィさまは、私を追いかけてわざわざ屋敷へお越しくださいました。そしてダヴィさまの好きなひとが誰なのかを知った私は、自分の気持ちを彼に伝え、ようやく両想いになることができたのです。そして、当主代理として実家を切り盛りする姉の了解の元、ダヴィさまと婚約をすることになったのでした。
今回はお姉さまの後押しのもと、初デートに来ています。ダヴィさまが出資しているお菓子屋さんが我が家の領地に新しく出店することになり、その視察を兼ねているのです。この店で出されているプリンは、ダヴィさまが私好みになるように指示して作ってくださったもの。すっかり舞い上がっていた私は、店の中であんなことが起きるなんて想像もしていなかったのでした。
***
お客さまはまだ誰もいない店内を、私とダヴィさまはふたりじめしています。試験的な営業のことをプレオープンと言いますが、今日はプレオープンのプレみたいなものなのです。
「さあ、ヘーゼル。どれをご所望かな」
「わあああ、こんなにあるのですか!」
目の前に並んでいるのはよりどりみどりのプリンたち。なんとこの店では、数種類のプリンがメニューに並んでいるのです。プリンの名前もさまざまで、見るだけで胸がときめきます。生クリームと苺でデコレーションされた『初恋』に、東の島国から取り寄せたという抹茶を練り込んだ『追憶』。たっぷりとチョコレートを混ぜ込んだ『夢の中』。けれど私の目は、最後のプリンに惹きつけられていました。そのプリンの名前は、『雪の思い出』。
「珍しいね。ヘーゼルなら、『初恋』か『夢の中』にすると思っていたのに」
「もう、ダヴィさま。私のことを何だとお思いなんですか」
「甘くないものは苦手な、僕の可愛い婚約者殿だと思っているけれど? 何か間違っていたかな?」
「間違ってはおりませんけれど!」
「ならよかった。それじゃあ、僕は念のため『夢の中』にしておこう。ヘーゼルが『雪の思い出』の味が苦手なら、こっちに変えてあげるからね」
「……ありがとうございます」
飲み物はダヴィさまはコーヒー、私はミルクとお砂糖たっぷりの甘いミルクティーです。もちろんダヴィさまは私に選ばせてくださったのですが、最初から私が何を注文するかわかっていたようで、「このお店の紅茶の茶葉は、特にミルクティーによく合うものをいろいろ準備しているんだ」とにこにこしながら教えてくださいました。
私の好みをしっかり把握されているのはすごく嬉しいのですが、何でもダヴィさまに予想されてしまうのはちょっぴり悔しい気もします。私はまだ、ダヴィさまの好みを全部知っているわけではないのに。乙女心というのは複雑なものですね。
***
「ヘーゼルは、何か雪の思い出があるのかい?」
「急にどうなさったのですか」
「さっきも話したけれど、いつものヘーゼルなら『初恋』や『夢の中』を選ぶだろう? それなのにわざわざ『雪の思い出』を選んだということは、何か特別な理由があるんだろうと思ったんだ。よければ聞かせてくれないかな」
店員さんに注文を伝えると、ダヴィさまにすかさず質問されました。
きっと今ここで、「言いたくありません」と言ったなら、残念そうな顔はしつつも引いてくれるのでしょう。私の気持ちを尊重してくれるのがダヴィさまというひとです。だからこそ私は、ダヴィさまに私の大切な思い出を聞いてもらいたいと思いました。
「雪を見ると、お姉さまを思い出すんです」
「こちらの地域でも、冬には雪が降るのだったね。義姉殿と雪だるまやかまくらを作ったのかい?」
「いくら雪が降るとはいっても、ダヴィさまの住む地域ほど降りません。子どもどころか大人まで泥まじりの雪だるまを作るくらいには、雪が積もるのは珍しいんです」
真っ白で綺麗な雪は、屋根の上や塀の上に少しあるだけです。雪合戦なんてしようものなら、きっと土団子になってしまうでしょう。けれど滅多に積もらない雪は、大人も子どもも幸せな気持ちにしてくれます。
私が幼い頃、この領内でも数十年に一度と噂されるほどの積雪がありました。けれどそんなときに限って熱を出してしまうのが私なのです。雪遊びをしたかったな、そう思いながらべそべそと泣いている私の元に届いたのは予想外の贈り物。一体誰に借りたのか、バケツいっぱいの真っ白な雪をお姉さまが私の部屋まで持ってきてくれたのでした。
お姉さまは、みんなには内緒よと言って渡してくれました。火照った肌に、真っ白な雪は冷たくて本当に気持ちがよかったことを今でも覚えています。ふわふわの雪を前に、時間が経つのも忘れて夢中で雪だるまを作ったのです。
「素敵なひとだね」
「はい。大好きな自慢の姉なのです」
ダヴィさまがお姉さまを褒めてくれたことが嬉しくて、私は飛び上がりたくなりました。あの時の思い出は、甘いだけではなく実は苦いものでもあるのですが、お姉さまの素晴らしさをダヴィさまに伝えることができたのなら、やっぱり素敵な思い出だと言って問題ないのかもしれません。
***
「お待たせしました」
私たちのおしゃべりのタイミングを見ていたかのように、プリンと飲み物が到着しました。私がどちらのプリンがお好みか確認する予定なのでしょう。ダヴィさまはプリンに手をつけることなく、ゆっくりとコーヒーを味わっています。
「いただきます」
「どうぞ、召し上がれ。ヘーゼルの口に合うといいのだけれど」
「あんなに美味しいプリンを作っているのですもの。こちらの変わり種もきっと美味しいはずです」
お姉さまと一緒にいただいたこちらのお店の特製プリン。初めてカラメルのほろ苦さを美味しいと思えたプリンのことを考えると、ついついにやけてしまいそうになります。さあ、いただきましょう。
私の前に出されているのは、淡雪のような柔らかな色合いの白いクリームで飾り付けられたプリンです。そっとすくって舐めてみれば、生クリームとは異なる味わいが口いっぱいに広がります。どうやら生クリームと一緒にクリームチーズが泡立てられているようです。
「わあ、本当に雪みたい。中はプリンだけではなく、ふわふわのスポンジが挟まっているのですね。とっても美味しいです!」
「よかった。ヘーゼルが美味しいって言ってくれるなら、きっとお客さんに喜んでもらえること間違いなしだよ」
「どの種類を食べても、みなさん笑顔になってくださいますよ」
「それじゃあ、こっちのチョコレートプリンはいらないのかな?」
「そ、そんな。ぜひ一口分けてください!」
確かに『雪の思い出』は美味しかったですが、それとこれとは話が違います。『夢の中』だなんて甘い名前がついているのですから、チョコレートプリンも気が遠くなりそうなほど美味しいに違いありません。慌ててお願いする私に向かって、ダヴィさまがスプーンを差し出してきました。
「はい、どうぞ」
「あわわわわわ」
まさかのあーん攻撃ではありませんか。ダヴィさまったら、なんて意地悪なのでしょう。でも恥ずかしさに負けていては、美味しいチョコレートプリンを食べることができないのです。そんなのあんまりではありませんか。
「いただきますっ」
ぱくりとスプーンを口に入れたその時です。
「さすが、親に事後承諾で婚約を伝えてくる娘は違うわね。恥ずかしげもなく、こんな公共の場で自分勝手な振舞いをするなんて。そんなふしだらな娘を産んだつもりはないのだけれど」
「……どうして」
昔から変わらない冷たく吐き捨てるような声に、私は身体が動かなくなってしまいました。
どこから入り込んだのか、見目麗しい男性を連れたお母さまが私を睨みつけてきます。
***
「上の娘に呼ばれて、久しぶりに屋敷に戻ったのよ。驚いたわ。王家と有力貴族に働きかけて、侯爵家の当主交代をやってのけるなんてね」
「あの、それでお父さまは?」
「一気に髪の毛が真っ白になるのではないかと楽しみにしていたのに、うめき声をあげて倒れただけよ。期待外れもいいところね。あのひとの連れが、彼を引っ張って馬車に乗せていたわ。ほほほ、何が可憐なものですか。十分にしたたかでたくましい、雑草のような女だったわ」
お母さまは笑い声をあげていますが、目がまったく笑っていません。苛々したように、持っていた扇を開いたり閉じたり。ぱちんぱちんと響く音が妙に苦しくて、耳をふさぎたくなります。
「まあ、わたくしにはあなたの婚約が決まったことのほうが意外だったけれど。使用人から店の場所を聞き出して、様子を見に来てみればまあなんと節操のないこと。色恋から引き離して育ててきたというのに、男を捕まえるのが上手なのは、ピンクブロンドの髪の特性なのかもしれないわね。ああ、いやだわ」
「でも、お母さま」
「黙りなさい。わたくしは、『でも』や『だって』といった言い訳は聞きたくないの」
お母さまが苛々したように手に持っていた扇を投げつけてきました。私に当てようとして手元が狂ったのでしょうか。それとも「ふしだら」の象徴だと認識されて最初から的にされていたのでしょうか。
閉じられたままの扇は綺麗にテーブルの上に置かれたふたつのプリンにぶつかります。そしてそのままプリンは、勢いよく床に叩きつけられました。
「っ!」
店の中にガラスが割れる悲鳴のような音が響き渡ります。淡雪のようなクリームチーズプリン、甘くとろけるチョコレートプリン。それが同時にぐちゃぐちゃになり、床に広がっています。地面にひっくり返ったプリンは、もう食べられません。心を込めてせっかく作ったものが、一瞬にして壊されてしまったのです。
床の上でぐちゃぐちゃになったプリンを見ていると、あの時の雪だるまを思い出します。
お母さまは、家の中が汚れることをとても嫌っていました。当時からあまり屋敷の中にはいなかったのですが、それでも屋敷の管理は女主人であるお母さまの指示が最優先されます。犬や猫を飼うことができなかったのも、屋敷が汚れることを嫌ったお母さまの指示だったそうです。
そんな状態の屋敷に、子どもが運べる大きさのバケツとはいえ、雪を持ち込むことがどんなに大変なことだったのか、あの時の私は何もわかってはいなかったのです。姉に内緒よと言われたことも、時間が経てば雪は解けてしまうことも忘れて遊んでいた私は、突然頬をはたかれました。私の様子を見に来た母は、おとなしく寝ていなかった上、服も絨毯もびしょびしょにしてしまっていた娘が気に食わなかったのでしょう。
『どうして約束を守って寝ていられないの。どうして部屋の中をぐちゃぐちゃにするの。どうしてわたくしの言うことが聞けないの』
散々に叱られた私の目の前で、頑張って完成させた雪だるまが踏み潰されました。部屋が汚れたのが気に食わなかったのであれば、雪だるまは壊さないままバケツに入れて庭へ捨てるのが一番だったはず。けれど、お母さまはその場で踏み潰すことを選びました。もしかしたら、お母さまが一番踏み潰したかったのは、雪だるまなどではなく私自身だったのかもしれません。
「まったく、こんな娘なんて産んだのは間違いだったわ。わたくしとは似ても似つかない容姿。夫と浮気相手の子どもを産んだようで、本当に不愉快だわ」
子どもの頃は、これでも両親に愛されているはずだと信じていました。両親の愛情をうまく受け取ることができない私が悪いのだと必死に言い聞かせてきたのです。
お姉さまに両親の確執を教えてもらい、最初から両親に愛されてなどいなかった事実を知り逆に私は安心していました。愚かな私は何もわかっていなかったのです。親に愛されていない事実を好きなひとに知られることが、どれだけみじめで恥ずかしいことなのかを。
「あなたも、このようなみっともない娘はやめて他のお嬢さんとご結婚なさったら?」
もう、どんな顔をしてダヴィさまを見ていいのかさえわかりません。やっぱりこんな私よりも、ダヴィさまはもっと別のご両親に愛されて育ってきたご令嬢と結婚したほうが幸せになれるのではないでしょうか。そんなことを考えているうちに、私はまた涙が止まらなくなっていました。
***
「確かに、ヘーゼルがご母堂から産まれたことは間違いだったのかもしれませんね」
「わたくしは、最初の子どもが娘だったので、仕方なくもうひとり産んだのです。それが男でなかったというだけでも腹立たしいというのに、その容姿があの女にそっくりだなんて。気持ちが悪いわ」
取り繕うことすらしなくなった母の言葉が悲しくて、母の言葉を肯定するダヴィさまの言葉が痛くて仕方がありません。こらえることもできず泣き続けていると、そっと私の涙がぬぐわれました。私よりずっと大きな温かい手の持ち主は、ダヴィさまです。
「僕の婚約者殿はね、とってもそそっかしい女性なのですよ」
「へ?」
「義姉殿が大好きだからって、生まれてくる場所を間違えてしまうなんてね」
「ダヴィさま?」
「ヘーゼルが本当に生まれてくるべきだった家は、たぶん、義姉殿の嫁ぎ先だったんだよ。けれど、君は義姉殿が大好きだから、神さまが教えてくれた行き先とは違う道を選んでしまったんだ。まったく、君は思い込んだらひとの話も聞かずにどんどん進んでしまうのだから」
思ってもみなかったダヴィさまの言葉に、思わず涙も引っ込んでしまいました。ダヴィさまったら、自信満々に何をおっしゃっているのでしょう? 疑問に思ったのは、お母さまも同じだったようです。不愉快そうに顔をしかめながら、腕を組んでいます。
「あなた、一体何を訳のわからないことを言っているの?」
「ですから、僕の可愛い婚約者があなたのお腹から生まれたのは、間違いだったと言っているのです。僕のヘーゼルはうっかり間違って、あなたを母に選んでしまったんですよ」
「な、なんということを! 親に向かって!」
「先ほど、ご自身がおっしゃっていたではありませんか。自分の娘とは到底思えないと。残念ですが、こういうことも時折あるのだと僕は思いますよ。お互いに間違いだったとわかってすっきりしたでしょう?」
勢いのある話に、なんだか私も納得させられてしまいそうです。確かに、私がおっちょこちょいなのも、お姉さまが大好きなことも、私の容姿が両親に似ていないことも全部事実ですものね。
「ヘーゼル、どうか僕と結婚してほしい」
突然、床にひざまずいたダヴィさまを見て私は悲鳴を上げそうになりました。まだ初デートをしたばかりなのに、どうしてダヴィさまはそんなことをおっしゃるのでしょう。しかも、こんなプロポーズにふさわしいとは思えない場所なんかで。
「どうして今、そんな大事なことをおっしゃるんです」
「大事なことだから、今言わなくてはいけないと思ったんだよ」
「そんな、ダヴィさま」
私とダヴィさまのやりとりを冷たく見据えているのは、私のお母さま。温かいとは言いがたい空気の中で、ひざまずいたダヴィさまはただまっすぐ私のことだけを見つめていました。
「僕はね、他のご令嬢となんて結婚する気はないよ。君だから好きになったんだ。これからもずっと、君と一緒に歩んでいきたい」
「本当に?」
「君にはずっと笑っていてほしい。どうか僕を君の家族にしてくれないかな?」
困ってしまいました。どうしましょう、とっても嬉しいはずなのに、また涙があふれてきます。
お母さまが何やら叫んでいます。たぶん、お母さまに必要なのは静かな生活と時間なのでしょう。
ダヴィさまが私の手を握ってくれています。本当の家族というのは、ダヴィさまのように、お姉さまのように、優しく温かいものだということを思い出しました。間違いだらけの家族ごっこは終わらせていいはず。お姉さまが、当主を名乗られたということはきっとそういうこと。それならば私がお母さまに送ることができるのは、別れの挨拶だけです。
「さようなら。どうかお母さまが心穏やかに過ごされますように」
私の言葉を待っていたかのように、お連れさまがお母さまを抱きかかえて退店していきます。お父さまの今後はお祈りしませんでした。だって、思ってもいないことを口に出せば、それは嘘になってしまうでしょう?
そもそも自分を裏切った男に無理やり嫁がされ、大嫌いな男の子どもを産む羽目になったお母さまには同情しますけれど、お父さまのことは可哀そうとは思えないのです。浮気をして裏切っておきながら、謝っても許されなかったと開き直るなんて。
貴族はそう簡単に離縁などできません。けれど、もう十分だと思うのです。許すことができないのであれば、離れて暮らすしかないのです。近ければ、きっと不必要に憎みあってしまいますからね。
今のお母さまとお父さまは、相手が決して幸せになることはないように、ただそればかりを願っているようにも見えます。なんて無意味。せっかく気の合うお連れさまをみつけたのであれば、一緒に美味しいプリンでも食べたらよいのです。私とダヴィさまのように。
「ふふふふ、もうダヴィさまったらいきなりプロポーズするなんて」
「ヘーゼル、無理して笑う必要はないんだよ」
「無理なんてしておりません。ただ、急におかしくなってしまって。それにしても、私が生まれる前からおっちょこちょいだったなんて知りませんでした」
「僕があんなことを言って怒っていない?」
「まさか。だって、しっくりきましたもの。それに」
「それに?」
「この家に生まれていなければ、ダヴィさまの同級生にはなれなかったでしょう? だから、やっぱり間違えて正解だったのです」
「ヘーゼル、大好きだよ」
顔を真っ赤にしたダヴィさまに抱きしめられて、頬に口づけを落とされました。その腕の温かさに、なんだかまた涙が出てしまいます。お母さまから離れる決断ができたのは、全部ダヴィさまのおかげなのです。
「ちょっと苦しいけれど、幸せです」
「ごめんね。でもどうしても、抱きしめたくなったんだ」
大好きなプリンよりも甘いダヴィさまと一緒なら、どんなに苦しいことも乗り越えられるに違いありません。最後はきっととろけるような笑顔に変えられるはず。私はそう思うのです。
お手にとっていただき、ありがとうございます。ブックマークや★、いいね、お気に入り登録など、応援していただけると大変励みになります。