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笑いが君を変える

作者: 倉紀ノウ



 りみちゃんという女の子の話です。


 その女の子はある日、体調を崩してしまいました。


 病名はありません。心に冷たい雨が降る病気です。


 小学校の出し物で、劇をやることになっていました。


 その劇の本番で、りみちゃんはちょっとした失敗をしてしまいました。

 

 セリフをひとつ、飛ばして言ってしまったのです。その失敗のあとは急に自信がなくなって、泣きたいような気持ちで劇を終えました。

 

 練習のときは一度も間違えなかったのに、どうして本番になって間違ってしまったんだろう。


 りみちゃんは、劇を成功させるために、毎日家で台本を読んで暗記を頑張っていました。


 だから、失敗が悔しかったのです。


 (もっとうまくできたのに。悔しい。劇をやりなおしたい)


 それでも、失敗は元には戻りません。りみちゃんは気を取り直して、できるだけ考えないようにしました。


 りみちゃんが、その日の学校の帰りから、少し心の具合がおかしいような感じがしたのです。


 どこかに元気を置き忘れてきたようです。


 まるで罠にかかったように、心はどんどん重くなりました。

 

 学校にも行きたくなくなりました。


 体を動かすこともできず、立っているだけでもつらいのです。そう思って横になっても、やっぱりつらいので、もうどうしようもなくなりました。


 りみちゃんは、お母さんにつれられて病院にいくことになりました。

 

 (わたしは、どこが悪いんだろう)


 病院の中で待っていると、なんだかすぐにみてもらわなくてはならないような重い病気にかかっている気がしてきました。


 しばらくお母さんと二人で待っていますと、りみちゃんの名前が呼ばれました。


 診察室の扉を開けると、そこにはちょっと怖そうな顔の先生がいました。


「はい、そこに座って」


 素直に座らないと怒られそうだったので、りみちゃんは丸イスに座りました。


「はい、りみちゃんね。こんにちは。今日はどうした?」


 と先生は言いました。


 やっぱり冷たい感じがありました。りみちゃんが黙っていると。


「頭が痛い? お腹がいたい? それならジュースの飲みすぎかもしれないね。でも違うみたいだ。さあ、どうした?」


 先生の顔には、やさしさがありました。顔は怖いおじさんだけれど、もしかしたら優しい先生かもしれません。


 りみちゃんは、劇で失敗してから、元気がなくなってしまったことを先生に言いました。


 りみちゃんは笑われるかもしれないと思いましたが、先生は真剣な顔でりみちゃんの話を聞いてくれました。




「私の病気、薬でなおすの?」


 りみちゃんが聞きました。


 先生は笑いました。


「うーむ。先生もどうしようか迷ってるんだ。〝かぜ〟やお腹が痛いのは、薬を飲めば治るなあ。でも、りみちゃんには薬は要らない気がするんだわ」


 先生が言いました。


「りみちゃん、今日、ここに来るまでに何回笑ったかい」


 と、先生は言いました。


 ここに来るまでに、りみちゃんは一度も笑っていませんでした。ずっと、暗い顔をしていました。


「思いっきり笑ってごらん。それがりみちゃんに必要な薬だよ」


 先生は言いました。


 (笑えることなんて、ないもん)

 

 りみちゃんは心の中で言いました。


「最初は笑う真似だけでもいいんだよ。楽しいふりをするだけでもいいんだよ。それから、先生と約束してほしいんだ」


「なに?」


「自分一人で悩むことだけは、しないでほしいんだな。それは、トンネルを掘っているのと同じで、どんどん暗い方へ行ってしまう。気持ちが苦しくなったら、誰かに苦しいってことを素直に言ってごらん。お父さんやお母さんに言ってごらん。それから何か、夢中になれることを始めてごらん。必ず何かが変わりだすから」


 先生はそう言いました。


 病院の帰り道で、お母さんが少し笑って、


「先生、変なこと言ってたね。面白い先生だったね」


 と言いました。




 病院に行ってから、何日か経ちました。あの先生に会ってから、少しだけ気持ちが軽くなったような気がしました。先生は本当はすごく面白い人なのにわざと難しい顔をして、面白いのを隠しているような感じがしました。



 りみちゃんはある夜、夢を見ました。


 りみちゃんは、白いもやの立ちこめる、黄色い花の咲く花畑にいました。


 そこでりみちゃんは飛ぶようにスキップして遊んでいたのです。 

 

 このごろは体が重くなっていたけれど、夢の中では元気に走り回れるのでした。


 とつぜん、場面が病院の中に変わりました。


 (あ、先生だ)


 あの先生が、診察室の椅子に座って、やっぱり難しい顔をしていたのです。


「おやおや、どうしたね。ずいぶん元気そうじゃないか」


 りみちゃんは先生を見て、大笑いしそうになりました。


 先生は、白い髪の毛ではなく、わたあめを被っているのでした。


 りみちゃんは笑い出したい気持ちを抑えました。


「きみは病人ではないから、ここにいる必要はなかろう。それとも私になにか用かな」

 

 先生はそう言いながら、髪の毛の代わりに頭にのせたわたあめを、りみちゃんの目を盗んで少しずつ食べているのです。

 

 もうこらえきれなくなって、お腹を抱えて笑い出しました。



「どうしたの? 寝ている間、ずっと笑ってたよ。なにか面白い夢を見たの?」


 目が覚めたとき、お母さんがりみちゃんに言いました。


 もうどんな夢を見たのか覚えていませんでした。不思議なことに、面白い夢はすぐに消えてしまうのです。


 何日も何日も、りみちゃんは先生の夢を見ました。夢の中で会うたびに、先生は変な恰好をしたり、ふざけたりして、りみちゃんを笑わせてくれました。

 

 そうやって笑っているうちに、心の中に降っていた冷たい雨はやがて上がり、爽やかな青空が広がっていきました。


 ある朝のことです。りみちゃんはいつも通り、先生の夢を見ていました。目が覚めたときも、まるで夢の中にいるかのように体がふわりと軽いのです。そう、今日はいつにも増して気分が良いのでした。


 がばっと布団から起き上がると、カーテンから差し込む光を見つめました。外は良い天気です。小鳥も鳴いています。これから、楽しそうなことが起こりそうです。


(なんだか、お腹がすいてきた)


りみちゃんが久しぶりに感じたのは、朝ごはんをいっぱい食べたい、という空腹感でした。


「お母さん、お腹すいたよ」


 りみちゃんはそう言いました。


 お母さんは、りみちゃんの大好きな鮭の塩焼きと炊き立てのご飯を用意してくれてありました。りみちゃんは、久しぶりにがつがつとご飯を食べました。


 朝ご飯を食べて元気いっぱいになったりみちゃんは、外に出たい、友達に会いたいという気持ちが沸き起こりました。


 りみちゃんの心に、もう冷たい雨は降っていませんでした。


 りみちゃんは何日かぶりに学校に行き、いつもの生活を取り戻しました。

 

 病院にはもう行きませんでした。先生には、夢の中でたくさん会ったのですから。




いつも片手が塞がっている!

小学校の頃は、好きな本が一冊あれば何もいらなかった。

ハリーポッターやミヒェルエンデの『果てしない物語』。それから、小学生の頃、自分に衝撃を与えた『吸血鬼は闇に笑う』。自分にぴったりの本は、何度も読んだ。本当に、今思えば、よく飽きもせずに同じ本を何度も読み返したものだと思う。

それは、〝心の中で思い描く〟ということが楽しかったからだと思う。

今はなんか、スマホでろくでもない動画見ちゃうしな。いつも片手が塞がってるんだよな。

と最近思い始めた。

良くない傾向である。片手間に何かをするというのは集中できていない証拠だ。映画を見ながらスマホを見る、ゲームをしながら動画を見る、というのは良くない。

どちらにも集中できないからだ。最近、集中力というのが弱くなった気がする。だから私は最近、ゲームをするときはスマホを使わない。本を読むときはスマホで動画を見ない、聞き流しをしないようにしている。

スマホというちょうどいい大きさの板切れを手にしてから、人間が一番よくとっているポーズ。あの、ちょっと首を下げて、虚ろな表情で板切れと向き合うという動作。

どっちつかずというのが一番いかんな


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― 新着の感想 ―
[一言] 笑顔は人を元気にしてくれますね^_^
2024/01/03 18:53 退会済み
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